第4話 危険レベルと調査について
アラームがけたたましく朝の七時を告げる。
クロイは枕に顔を埋めてしばらく抵抗していたが、三度目のスヌーズで渋々スマホに手を伸ばした。
ベッドから這い出ると洗面所で顔を洗って寝ぐせを整える。クローゼットから今日着るシャツを選んで着替え、キッチンでトーストを焼きながらミルクと砂糖たっぷりの甘いカフェオレを作った。
テレビで朝のニュースを聞きながら手早く朝食を済ませるともう家を出る時間だ。スマホをズボンの後ろポケットに突っ込んでベルトに通信機のホルダーを取り付けると、息つく暇もなく玄関のドアを開いた。
自宅マンションを出て数分走ると大通りへ出る。
既に人で混みあう道を右に左にすり抜けながら進み、オープン前の定食屋の前で立ち止まる。子供たちが行儀よく横断歩道横を渡る横を小走りで追い越して向かい側へ渡った。
ふと、上空からこちらへ近づいてくる羽音に気が付く。ルーグの放つ不快な音とは違って軽快なリズムを刻むそれは、彼が良く知る人物の物だ。
「よう、今日も寝坊か?クロイ」
見上げると目が覚める黄緑色のツーブロックヘアが目に飛び込んできた。
シャビがホバリングしながらこちらを見下ろしている。
グレーのジャケットは翅を通す為に背中の一部を開閉できる特別仕様だ。ジャケットとセットアップのパンツには差し色でオレンジのベルトを合わせ、黒のレギンスと白いスニーカーを履いていた。
「まあ・・・ね」
クロイは立ち止まって肩で息をしながら答える。するとシャビは笑いながら目線の合う高さまで降りてきて、手袋を嵌めた右手を差し出した。
「掴まれよ。送ってやるから」
「ああ、悪い」
その手を掴むとシャビはゆっくりと上昇し、人の波を超えてするすると進んでいった。
「まったく、お前が羨ましいよ。通勤五分なんだろ?」
クロイは大きくため息を吐く。シャビはまた楽しそうに笑った。
「まあ、空を通勤してる奴は少ないからな」
火照った肌に触れる風が心地良い。
大通りを振り返ると街が朝日に染まっていた。
未だ建設中の土地があり、数年前に見た旧中央街と多少の違いはあるものの、ティスアは元の賑わいを取り戻しつつある。
クロイはいつの間にか疲れを忘れて美しい風景に見入っていた。
事務所に到着すると既に他のメンバーは出勤しており、中央の机に集まっていた。
「おはよう新人君達。今日は早めにミーティングするよ」
ユウナに催促され、二人はユウナとアマリアが座っている向かいのソファに滑り込む。
「それじゃあ、始めようか」
書類に目を通していたギュートが顔を上げて、全員を見渡してから切り出した。
「今日はここから南方にあるシエトへ向かう。アマリア、地図を出してくれ」
アマリアはノートパソコンのキーを叩いて巨大モニターに地図を映し、更に表示を切り替えてとある地域を拡大表示させた。そこは住宅街と森林地区の堺で、手つかずの空き地が広がっている場所だった。
「確かにルーグの発生はありますが、どれもC級ですよね」
画面上を動く青い丸を見ながらユウナが指摘する。
ティスアではルーグ発生の危険度合いをレベルで管理し、危険度が低い順にアルファベットで表現する。
D級。地図上の丸はグレー。十匹以下の発生を確認し、危険性は無いもの。
C級。青の丸。十匹以上五十匹以下の発生を確認。こちらも危険は無い。
B級。緑の丸。五十匹以上百匹以下の発生。建物の一部損壊を伴う場合があるが、人に危害は及ばないもの。
A級。黄色の丸。百匹以上の発生で建物の損壊及び人への危害が伴うもの。
S級。赤い丸。建物の損壊や人への危害があり、発生地域の放棄が必要となるもの。
自然対策部が動くのはB級以上のルーグ発生時で、C級以下は基本的に経過観察のみとなる。
「ああ、その通りだ。しかし最近妙な事が分かってな」
ギュートが言葉を区切る。そこでアマリアはまたキーボードを叩き、更に資料の説明を添えた。
「これは、過去三年間のシエト周辺のデータをまとめた物です。DからC級程度のルーグ発生が二十三件起きています」
地図上に破線で描かれた円が追加され、それぞれの円の横には発生日時と規模が記載されていた。
「他の地域と比較してもこれは異常に高い数値だ。しかも日を追うごとに少しずつルーグの数が増えている」
「なるほど」
リーダーとサブリーダー、情報管理担当者は状況を理解している様子だ。しかし、新人二人は間抜けな顔でただ画面をにらみ続けている。
「つまり、この地域にルーグの巣か通り道があるかも知れないって事よ」
見かねたユウナが説明すると、ようやく二人は納得の声を上げた。
「今は危険が無くとも、急に危険レベルが上がる可能性も十分あるからな。それにルーグについては解明されていない点も多い。より多くのデータを収集するために、通常と異なるケースは調査が必要って訳だ」
ギュートがそう付け加えてミーティングは終了となり、準備ができ次第出発する事となった。
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