第3話 ミィ

 帰宅して明かりを点けると、朝出かけたままの部屋の様子が照らし出される。


 ポケットからスマホを取り出してテーブルに置き、朝食の皿やカップをキッチンの流しへ移動させる。ずり落ちた布団を畳んでベッドへ戻し、床に脱ぎ捨てていた部屋着を拾い上げた。それからクローゼットを開けて腰に付けていた通信機のホルダーを外して棚へ置き、ベストやズボンをハンガーに掛けて着替える。冷蔵庫から作り置きの夕食を出し電子レンジへ放り込むと、ソファに疲れた体を投げ出した。


 クロイは深いため息を吐いた。

 そのままぼーっと天井を見つめていると、不意に小さな黒い球体が視界に入ってくる。拳程の大きさでふわふわと浮かんでおり、指でつつくとくすぐったそうに震えた。


 クロイは微笑んで、右手を空中に滑らせるといくつか泡を出現させた。球体は牙を露わにしてそれらを飲み込む。すると風船の様に膨らみ始め、形が変化し始めた。


 短い脚が四本と尖った耳が二つ生え、長いしっぽがご機嫌に揺れる。顔の中央に一つだけの大きな瞳が見開かれると、それはクロイと同じ深い青色に輝いた。


「ミィ、ただいま」


 ごわごわした毛を撫でるとミィは嬉しそうに顔を摺り寄せてくる。腹を掻いてやり、しっぽに指を絡ませて遊んでいる内に電子レンジのベルが鳴った。


 豚肉と野菜の炒め物に白米、湯を注いだインスタントのスープをテーブルへ運んでテレビの電源を入れる。


 丁度夜のニュースが始まるところだった。

 中央街のショッピングモールが再オープンした話やエディナの木が見頃を迎える事、コンリート地区の再建についてなど平和な話題が続く。


『続いて、本日のルーグ発生に関する情報です』


 クロイは箸を動かす手を止めて画面に視線を移した。


『本日はA級のルーグ災害が二件。森林地区西側と第四コンクリート地区で確認されました。なお、どちらもチームによる駆除が完了しており、拡大の恐れはありません』


 読み上げられた報告に安堵の笑みが零れる。

 今日も無事自分達の役目が果たされた事を確認すると、クロイはようやく食事を再開したのだった。

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