第2話 自然対策部

 ティスアは周囲を広大な砂漠や森林に囲まれた世界で、沢山の奇妙な自然現象が起こる。そのひとつはルーグ災害と呼ばれている。金属の様に硬い殻を持つルーグという生き物が大量発生して街を襲うのだ。


 これまでに多くの街がルーグに飲まれてきた。復旧した地域もいくらかあるものの、未だに人の住めない場所も多い。

 現在の中央街も二度場所を変えて再建された。

 そんなまだ新しい大通りを黄色いワゴン車が走っていく。ワゴン車は途中で左折するといくつかの建物を通り過ぎ、とあるビルの駐車場へと入っていった。


 ティスア自然対策部。ルーグ災害を中心とする自然現象を制御し市民の安全を守る事を目的とした組織だ。その拠点の一つがそのビルに入っている。


 数分後、一階にある事務所に職員達が帰還した。

 最初に入ってきたのはリーダーのギュートだ。身長二メートルほどでがっしりとした体格をしており、背中まで伸びる赤い癖毛の間から角が二本生えている。

 事務所中央には大きな机とその左右に二人掛けソファ、上座には一人用のソファが配置されているのだが、彼は真っ直ぐ上座へと向かった。

 その古びたソファがリーダーの定位置だった。彼は座るなり机上に積まれた書類に目を通し始める。


 二人目はサブリーダーでユウナという。白い髪に水色のメッシュを入れており、長い前髪は彼女の右目を隠している。スラリとした脚を見せつける大胆なショートパンツと高いヒールを履きこなしているが、彼女の背中には更に蜘蛛に似た長い脚が六本も生えている。


 次に入ってきたのは二人と比べるとかなり小柄な青年だ。少し癖のある短い黒髪で、眠そうな目元には薄っすら隈がある。ブラウンのシャツにベストとスラックスを合わせた少し畏まった服装の彼が職員歴一年の新人クロイだ。


 皆が戻ったのを悟ると事務所の奥で熱心にキーボードを叩く音が止まり、その人物は椅子を回転させ皆を出迎えた。


「皆さん、お疲れ様です」


 情報管理担当のアマリアだ。鮮やかな水色の髪は高い位置で二つに結び、右の前髪をオレンジの髪留めでまとめている。彼女の肌は淡いピンク色をしていた。


「すみません、遅くなりました」


 そして最後に扉を開け入ってきたのはクロイと同じ新人で、チームの運転手も務めているシャビだった。黄緑と黒の派手なツーブロックヘア以外は一見普通だが、彼の背中からは透明の翅が四枚覗いていた。


 シャビが備品棚に自動車の鍵を戻し、皆が席に着いたところで午後のミーティングが始まった。


「アマリア、その後状況に変化は無いか?」


 ギュートが尋ねると、アマリアは頷いて事務所奥の壁を振り向いた。

 壁には巨大なモニターが設置されており、ティスア全体の地形が表示されている。地図上では灰色や青色の丸が明滅しながら少しずつ移動している。


「はい。今日十七時までに確認されたのは小規模のルーグ発生のみです。どれもDからC級程度で、ティスア外周の森林地域に集中しています」

「そうか。となると、」


 リーダーは手にした書類にボールペンを走らせる。日付や地域、規模などを記入した後に最下の欄にサインをした。


「今日の仕事はこれで終了だな。皆、お疲れさん」

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