第四話 ココリカ村〜動物捕獲〜

 勇者は今どこにいるのか。

 例の如く水晶で探した結果、小さな農村にいる事が判明した。テレポートは一度訪れた事のある場所しか行けないので、魔王は飛んでいくしかない。


 小さな農村『ココリカ村』。

 特に目立ったものはなく、ごく普通の農村である。何故勇者はこんなところへ来たのだろうか。


 魔王は夜中に魔王城を出発して、着いた頃には朝になっていた。外出用のローブを被りながら村へと入る。小さな農村ではあるが、旅人用に簡素な宿屋が一軒あった。すると宿屋の中から勇者がタイミングを見計らったように出てきた。

「やっぱり…来たか」

「どうした勇者よ!元気ないな!また何かするんだろ?」

 朝から嫌なものを見てしまったという意味を孕んだ溜息を吐くと勇者は渋々返答した。

「ええ、やりますよ」

「何をするんだ?」

「もうすぐ始まるはずです」

 そう言うと、道の先を右に折れた辺りから助けを求める声が聞こえた。

「誰か〜助けてけろ〜!」

 勇者は声のした方を指差して「あれです」と言った。魔王は理解していないのか、腕を組んで首を傾げる。

「行けば分かります」

 勇者と共に声の元へ向かうと、麦わら帽子を被った髭面の男が囲いの前で慌てふためいている。

「やっちまっただ〜!オラの大事な動物達が逃げちまっただよ!」

 魔王は勇者の顔を見る。

「おい、これか?おまえのしたい事ってのは」

「そうですけど?」

「俺が言うのもなんだけどな、魔王と戦うのと動物を捕まえるの、人間側にとってどっちが重要か分かるか?」

「そうは言いますけどね、コレを制限時間内にクリアするとアイテムが貰えるんですよ」

「お前はいっつもそれだな!で、それは強くなれるアイテムなのか?」

「いえ、コレクトアイテムです」

「……そんなもの貰ってどうする?」

「アイテム図鑑を埋めないといけないので」

 勇者は呪文を唱えると、図鑑が召喚される。それを手に取りパラパラと中身を魔王に見せる。

「俺はそんな物のために戦いを待たされているのか?」

「先に言っておきますが、他にも『モンスター図鑑』『魚図鑑』『世界地図』も完成させなければなりません」

「なんじゃそりゃ⁉︎もう我慢ならん、ここで闘るぞ!」

「無理ですよ。システム的に……って言っても分かんないか」少し悩んでから言い直す。「この世界を作った創造主によって、あなたは魔王城のあの部屋でしか本気の戦闘は出来ませんよ」

「そんなわけあるかい!」

 魔王は本気の時にしか見せない姿、完全体魔王ジャスティスへと変身するために意識を集中する。


「……あれ?」

 いくら意識を集中させても変身する事はできない。ならばと、ピンチの時にしか使わない最大級の魔法『メテオフォール』を発動しようと手を空に掲げ、魔力を解放する。

「…………マジか」

 やはり出す事は出来ない。

「ほら、言った通りでしょ?」

 眉間に皺を寄せながら天を見上げ考える魔王。無理矢理魔王城へ連れていく事は出来るだろうか。いや出来ない。完全体ならまだしも、今の状態だと力負けするだろう。ならばどうするべきか。

「よし!決めた。逃げた動物を多く捕まえれた方が勝ちな!俺が勝ったら魔王城へ来い!」

「え?ちょっと勝手に…」

「よーいドン!」

 ビュンと駆けていった魔王の背中を呆然と見つめた後、勇者は麦わら帽子を被った男に近づく。

「せめてクエスト受注してから始めようよ」

 麦わら帽子の男からクエストを受注すると早速カウントダウンが始まる。

 逃げ出した動物を再び柵の中に入れればよいのだが、

動物はランダムに配置及び動きもランダムで良い乱数を引ければ簡単だが、かなり難しい時もある。

 だが本来低レベルの時に受けれるクエストではあるので、高レベルの勇者は移動速度も速いし力もある。比較的簡単なクエストだ。


 魔王という邪魔さえなければ、の話だが。


 勇者は柵の近くにいたニワトリやウサギを捕まえて柵に放り込んでいく。先に駆け出していった魔王は一体何をしているのだろうか。そもそも柵に連れてくるというルールを知っているのだろうか。

 近場の動物は全部入れたので、遠くに逃げてしまった動物を探しにいく。この時点で半数以上の動物を捕まえた勇者の勝ちは確定しているが、あくまでもアイテム狙いなので素早く行動する。

 

 あらかた捕まえて柵にぶち込んだ。残るは1匹。すると少し離れたところでツボが割れる音や物が倒れる音など騒がしい音がどんどんとこちらへ近づいてくる。

「待ってくれ〜!」

 民家の角からウサギと魔王が飛び出してきた。ウサギといってもただのウサギではない。キングウサギと呼ばれる種類のウサギで、走力・跳躍力ともに普通のウサギとは比べ物にならないほど高い。

 ただ性格は温厚で、いつもは普通のウサギと変わらずのんびりしているのでハイスペックなポテンシャルを発揮するのを見る事は滅多にない。

 魔王も決して遅いわけではない。むしろ速い部類だろうが、見事にそれを回避していくキングウサギ。

 飛んで跳ねて避けて躱して、周りを破壊しながら勇者のいる柵の前へと突っ込んでくる。


 幕切れは呆気ないものだった。魔王に追いかけられたキングウサギは勇者の胸元へと飛び込んで来た。そのまま柵へと入れてあげる。

「な…何で逃げるんじゃぁ…」息を切らす魔王。

「そりゃ、動物は魔物に追いかけられたら逃げますよ。仮にもあなたは魔物のトップなんでしょ?それでなくても、さっきから魔力解放しっぱなしですし。そりゃ弱い生物は怖くて逃げるに決まってるでしょ」

「あ…」魔王は先刻メテオフォールを放とうと魔力を解放したままだった事に今更気付いた。



「あんがとな〜!しかもこんなに早く見つけてくれて!お礼にコレ持ってってな」


 勇者は『キングウサギの木彫像』を手に入れた。


 柵の前で膝と手を地面についてガックリと項垂れている魔王。

「動物は全部僕が捕まえたのでこちらの勝ちですね」

「うぐ……っ!」

 言葉による追い討ちをかけ、勇者はその場を去っていく。魔王は顔を上げ去っていく背中を追いかける。勇者は村の商店へと入っていった。

「待て待て、次はどこへ行くんだ?」

 魔王の問いかけに、勇者は手で「待って」と合図して店主に買うものを注文してから、カウンターに肘をついて返答した。

「キングウサギを連れてきてくれたお礼に教えてあげます」

 勇者には打算的な考えがあった。魔王をうまく使えば効率的にクエストをクリア出来るのではないかと。

「今買ったのは餌です。この村のモノは質がいい。この餌で育成したディアマ鳥でやるものといえば?」

 

―――ディアマ鳥

 体長2.5メートルの二足歩行の鳥型モンスター。翼はあるが飛べるほどは大きくない。温厚なモンスターで手懐け易く、背中に乗っても難なく走るので馬と同様に移動手段として用いる事が多い。


「……分かったぞ!」

 魔王は至極簡単ではあるが謎が解けた事に手を叩いて喜んだ。

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