第三話 ニセワーツ魔法魔術学校

 大陸の東、森や湖に囲まれた自然豊かな土地にニセワーツ魔法魔術学校は建っている。かつて、とある貴族が住んでいたと言われている屋敷をそのまま使っている。この貴族は増築に増築を重ね、正式な見取り図も無くまだ見つかってない部屋もあるとかないとか。広大な敷地に建てられた屋敷は小さな街ほどの面積を誇っており、500人を超える生徒が学ぶにはうってつけの場所だ。


 この学校の授業スタイルは教師が教えている場所に行って学ぶという大学のシステムに似たようなスタイルで、自らが考え何を学ぶのかを選択する。それゆえに教師も知らない生徒がいても気にする事はなく、魔王が潜入するにはうってつけの環境だった。


 1人の青年が野外授業に参加していた。生徒の証であるニセワーツのローブを身に纏い、後ろの方で目立たないように先生の話を聞いている。授業は魔力量を増やす鍛錬方法や精密なコントロールを行うための練習方法など、基礎中の基礎を教える初心者向けの授業だった。この学校は年齢層も幅広く、子どもから大人まで何歳からでも入学できるので初心者と言えども子供ばかりではない。なので青年がここで授業を受けていても違和感はなかった。


(なるほど、そうすれば魔力量は増やせるのか)

 やり方さえ覚えてしまえば、あとはどこでも鍛錬できる。なのでもう用は無いといえばそうなのだが、青年は他の授業も受ける事にした。

 知っての通りこの青年は魔王が化けた姿だ。彼は今まで教育をしてもらった事がなかった。生まれた時から既に今の魔王であり、知識もあった。それが彼の普通だった。書庫に本はあったが特に興味は無かったしインテリアとしてしか見ていなかった。

 人に教えてもらい知識を得ることが楽しいと思えてきたのだ。人間に教えてもらうという点は少しだけ癪に触るが、それよりも知らない事を知ることが今は楽しい。

 そんなこんなで1週間ほど学生生活を楽しんでいた時、学内掲示板にスポーツ大会の参加者募集の張り紙があった。

「なんじゃこりゃ。クディッツボール?」

 聞いたこともない名前に、張り紙を睨みながら首を傾げていると、廊下の向こうから生徒が息を切らしながら走ってくる。

「君!君!ぜぇ…ぜぇ。君、もしかしてクディッツボールに興味ある⁉︎」

 肩をガシッと掴まれ目を輝かせながら尋ねてくる。

「あぁ、興味はあるな(初めて聞く名前だし)」

 その生徒は満面の笑みで喜びながら、やっと見つけたとその場でピョンピョン跳ねる。すると生徒は魔王の手を取り、校舎の外へと連れ出した。


「いや〜こんな奇跡ってあるんだね!まさかプレイヤーに遭遇するとは」

「(プレイヤー?こいつ俺がクディッツボールプレイヤーと勘違いしてるのか?)俺はクディッツボールなんて知らんぞ」

「ん?あ、全く知らない系?」

「名前も初めて聞いた」

「そっか〜…でもいいや!すぐに覚えれるよ」

 生徒は外に出ると大きな木の下にあるベンチに腰掛けた。

「そういえば名前言ってませんでしたね。僕はアポロって言います。あなたは?」

「俺か?俺は魔お……ゴホン。マサヨシだ」

 魔王と言いそうになり、咄嗟に出てきた名前は勇者が呼んでくる忌々しい名前だった。なぜこの名前を言ってしまったのかと今になって悔やむ。

「そんじゃマサヨシさん、軽くクディッツボールについて説明しますね」

 アポロはかいつまんで説明を始めた。

 クディッツボールは空中で行うスポーツでボールを相手のゴールへ入れると点が入り、最終的に点数の多いチームが勝つというもの。近くの湖の上空、縦横200メートルの範囲がフィールドとなる。高さは無限。10人対10人で試合は行われボールの直径は約21センチ。ボールの扱いについては特に制限もなく投げてもよし、蹴ってもよし。相手のボールを奪う時は過度なコンタクトは禁止。常に空中を飛ばないといけない為、空中浮遊の魔法の習得は必須だが、これは割と覚えやすいので問題はない。1番重要なのは常に動き回れるだけの魔力があるかどうか。

「なるほど、大体分かった」

「マサヨシさんは浮遊は使えますか?」

「飛べればいいんだろう?」

 魔王は空中へと飛び上がる。空中浮遊の魔法という存在を知る前から当たり前に飛んでいたので、魔王自身もどういう原理で飛んでいるかは分からない。

「すごい安定感ですね!それに魔力量もとてつもないものを感じます。これは勝てるかも!」

「でも初心者だぞ?勝ちたいなら経験者を誘った方が良かろうに」

「それが…本当は強いNPCを誘おうとしたんですが、どうやら根こそぎ契約してるプレイヤーがいるようなんです」

「(NPCってなんだ?)ふむ、それで?」

「で、選り好みしてるうちに弱いやつまで契約されちゃって。あと1人ってところでメンバーが見つからなくて困っていたんです。今はプレイヤー全然いないし…」

「(このスポーツはプレイヤーが少ないのか。人気が無いのか難しいのか)それで、俺を誘ったと」

「そう!いや〜締切ギリギリだったから本当良かった!」

「まだやるとは言ってないがな」

「え〜?でも今回の優勝商品を知ったらやりたくなるかも。なんと『クディッツ公爵のローブ』ですよ」

「価値のあるものなのか?」

「噂だと装備すると魔力消費が半分になるとか…」

「よし!やろう!絶対優勝するぞ!」



 試合当日。アポロと試合会場で待ち合わせる。魔王はこう見えて律儀なタイプなので、待ち合わせの5分前の5分前には到着している。

「あ、マサヨシさん早いっすね!」

「ふっ。当たり前だ!人の上に立つ者として…」

「じゃあ受付してきますね!」

「あ、おい!人の話は最後まで聞け!」

 アポロは足早に受付へと向かった。魔王は大きく鼻息を吐いて、これだから最近の若者はと心の中で静かに洩らす。

 アポロが戻ってきたので魔王は先程から気になっていた事を聞いてみた。

「他のメンバーは、まだ来ないのか?」

「大丈夫っす。試合が始まったら入ってくるんで」

 チームワークは大丈夫なのだろうかと少し不安になる魔王。アポロはそんな事は気にしてない様子でストレッチをしている。すると突然アポロが騒ぎ出す。

「マサヨシさん!あいつ!あいつですよ!根こそぎ契約してるやつ!」

 指差す方向を見ると見慣れた姿の男が歩いていた。

「なっ…なんでお前がここに!」

 大きな声で叫ぶ魔王に気付き、勇者が近づきながら手をあげて挨拶する。

「あら、マサヨシさん。どうしたんですか?こんなところで」

「そりゃこっちのセリフじゃい!」

 言い合う2人を目を丸くしながら見るアポロ。

「あのー、2人はお友達ですか?」

「違うわ!こんなやつ」

「マサヨシさんは、いつも僕を邪魔してくるんです。もしかして今日クディッツボールに参加するのって…」

「もちろん!この俺様だ!」

 胸を張って偉そうにしているが、チームリーダーはアポロである。

「そうですか…まさか他にプレイヤーがいるとは思いませんでした」

 勇者はアポロを見つめる。その目はとても冷たく、友達になる気などさらさらないオーラを漂わせていた。

「あなたがみんな契約しちゃうから、メンバー集めるの大変でしたよ」

 コミュ力の高いアポロは笑顔で勇者の懐に入ろうとするが、それでもなお勇者は心の扉を閉ざす。

「全員契約して、不戦勝で優勝しようと思ったのですが…誤算でした。まさか邪魔が入るとは。ここは私に優勝を譲ってくれませんか?今回だけでいいんです。一回優勝すればもうやりませんから」

「えー、でも僕このミニゲーム好きなんですよ。それにプレイヤーの人と出来る事なんて滅多にないじゃないですか」

 勇者は言っても聞かない相手だと分かると、取って付けたような笑顔でアポロに握手を求める。

「分かりました。お互い全力で戦いましょう。ところでマサヨシさんは初心者ですよね?」

「はい、この前までクディッツボールの名前すら知りませんでしたから」

 勇者は魔王の方をチラリと見て、すぐにアポロに目線を戻す。

「いい試合をしましょう」

 勇者は受付の奥、参加者用の通路へと消えていった。

「なんじゃあいつ、いつもと雰囲気が違ったな」

「僕、嫌われちゃったみたいです」

「そうなのか?そんなに優勝商品が欲しいのかぁ。まあ、強くなる為に手に入れたいのは分かるがな」

「そろそろ時間ですね、僕たちも行きましょう」

 2人は受付を通り過ぎ、試合会場の湖にある桟橋へと向かう。



 湖からの心地よい風が荒んだ心まで洗い流してくれるようだった。魔王とアポロは自分達のいる桟橋から10メートル離れた隣の桟橋を見ていた。そこには対戦相手の勇者が湖の上、これからクディッツボールのフィールドとなる空を見上げていた。

「なぁ、他の連中はまだ来ないのか?」

 アポロはニカっと愛嬌のある笑顔で返答する。

「もうすぐ始まるんで来るは……」

 言いかけたところでこちらの桟橋と隣の勇者のいる桟橋にも続々と人が転移してきた。

 ほら来たでしょと言わんばかりに親指で肩越しに彼らを指すアポロ。

「マサヨシさん、確認しときますけど合図のブザーが鳴ったら湖中央の上空からボールが落ちてきますので、取れそうなら取りに行く、無理そうなら守備位置に早く行く。OKですか?」

「まかせろ!俺の飛ぶ早さを見ただろ?誰も追いつけんわ!」

 自慢げに笑う魔王は、転移してから挨拶もしてこないメンバー達に視線を移す。急造のチームというのはこういうものだろう。初対面同士、所在なさげに立っている事しかできない。

 魔王は上に立つ者として、まず自分から声を掛けにいく。

「今日はよろしくな!」

「頑張ろうぜ!」

 見た目厳つそうな男は意外にも親しい友人のように返答してくれた。

「俺はマサヨシ。そっちはなんて呼べばいい?」

「頑張ろうぜ!」

「いや、名前…」

「頑張ろうぜ!」

 またである。また話の通じない人間に出会ってしまった。気味が悪いので男の後ろにいる女性に話しかけてみる。

「今日はよろしくな」

「絶対勝とうね!」

「おう!絶対勝つぞ!俺は初心者なんだが何か気をつけた方がいい事はあるか?」

「絶対勝とうね!」

 こいつもか、魔王は苦虫を噛み潰したような顔をする。それを見ていたアポロは笑いを堪えるのに必死だ。

「ちょ…マサヨシさん…何話かけてんっスか⁉︎」

「最近こんな奴らばっかなんだよ」

「いや…ブフッ!そりゃだってNPCだ……」

『ピィーー!!』

 どこからともなくホイッスルの音が鳴り響く。するとアポロと魔王を除く全ての選手が空へと飛び出していった。

「あー!しまった!出遅れた!」

 アポロは急いで飛び出し、魔王も遅れて飛び立った。



 一番遅く飛び立った魔王は、先に飛び出していった味方をどんどん抜かしていく。

「すげ〜マサヨシさん、早!」

 アポロは練習の時よりも早く飛んでいるのを見て目を見開いている。

 魔王は落ちてくるボール目がけ一直線で飛んでいく。しかし、勇者チームからずば抜けて早い男が1人いた。魔王は追いつくことができず、ファーストボールを取られてしまう。

「あれは『ニセワーツのスピードスター』ストレイさん!やはりメンバーに入れてましたか」

 アポロが狙っていた人物の1人。学内1のスピードで飛べる彼と契約する事はファーストボールを確実に取れるという事である。NPCで彼より早い人物は存在しない。つまりプレイヤーなら早い人はいるという事だ。アポロはマサヨシと練習した際にポテンシャルの高さに気付いた。早さはストレイと良い勝負をすると。今回は出遅れてしまったが、一対一で彼に付いていけるのはマサヨシしかいない。

「おい!お前、ボール返せ!」

 魔王がストレイからボールを奪おうと近づく。すぐさまストレイは味方へとパスをする。

「あ!おい!」

 魔王は踵を返してボールを追いかける。勇者チームのパス回しは早く、本来であれば決められたゾーンをディフェンスするのが一般的ではあるが、魔王はとにかくボールを追いかける。なぜゾーンディフェンスをするのか、それは魔力温存の為である。その辺りのことを何も考えていない魔王、ただこれはこれでプレッシャーにはなる。相手がプレイヤーならばの話ではあるが。

 華麗なパスワークからゴール近くの大柄な男へとパスが回る。

「あれは学内ナンバーワンのパワーを持つゲイル!」

 アポロのNPC紹介も堂に入ってきた。

 ゲイルの筋肉が膨張し、メジャーリーガーの如く豪速球を放つとゴールを守っていたNPCを吹き飛ばしゴールに入る。

「くっ!一点取られてしまったか」

「マサヨシさん、気を取り直していきましょう!」

 得点後は点を入れられたチームがフィールド中央から再開する。アポロはボールを持って中央へと急ぐ。魔王もアポロの後ろについて行く。するとアポロの肩越しに勇者のニヤついた顔が見えた。

「あの野郎〜!魔王城の決戦の前にここでコテンパンにしてやるわ!」

 再び、どこからかホイッスルの音が鳴る。

「マサヨシさん、頼みます!」

 アポロは後ろにいる魔王にパスをすると、前線へと飛んでいく。

「見てろよ〜勇者の野郎!」

 魔王は、ふっと力を抜きそのまま湖面へと自由落下していく。水面ギリギリのところで急加速し、ゴールの真下に向かってロケットのように飛んでいく。誰にも邪魔されることなくゴールの真下に来ると、打ち上げ花火のように上へと飛び上がる。そのままゴール裏を通り過ぎ更に上空へと飛んでいく。勇者チームはその凄まじく速いスピードで上空へと飛んでいった男を見上げていた。何故ならばセオリーには無い意味不明の行動だったからだ。

 上空で急停止した魔王を勇者チームは見上げていたが、その手にボールは無かった。

 その瞬間、ゴール前にいたアポロがゴールへ向けてボールを蹴り込んだ。ボールは吸い込まれるようにゴールへと突き刺さる。空中に表示された得点ボードの0が1へと変わる。

「ガーハッハッハ!作戦通りだなアポロ!」

 上空で仁王立ちして高らかに笑うマサヨシにアポロは親指を立てて喜びを示した。

 得点を入れられた勇者チームからの再会。センターでボールを持つゲイルの後ろに勇者はいた。目を瞑り、小さく深呼吸をし、なんで邪魔するかなぁと少しイラつく。

 開始のホイッスルがなり、ゲイルから勇者へとボールが渡る。もちろん魔王は猪突猛進でボールへと突っ込んでいく。ゲイルが勇者を守るように前に立つと、魔王は「甘いわ!」とゲイルの横を高速で通り抜ける。するとそこには勇者の姿はない。魔王がゲイルの横を通り抜ける瞬間、逆側から入れ違うように飛んでいく勇者に気付いていなかった。

 魔王が振り返った時には勇者はゴール目前まで進んでいた。

「な、早すぎんか⁉︎」

 たまたまゴール前にいたアポロはシュートに備えて身構える。せっかく取れた1点を無駄にしない為にもここは失点は避けるべき、全力で抑えると意気込む。

 勇者はボールに魔力を込め全力で蹴り飛ばす。ボールに込められた魔力は雷、そしてゲイルよりも強力なシュートにアポロは手にありったけの魔力で防御魔法を展開。シュートはアポロの腹を貫くように突き刺さる。しかし防御魔法をでシュートの威力を殺そうとアポロは全力でボールを押さえ込む。ボールの回転は収まらず、更に放電まで加わり、アポロの手からボールは弾かれゴールに入ってしまう。

「それアリなんか⁉︎」

 魔王はボールに魔力を込めるのがOKだと知らず驚く。すぐにアポロの元へと急ぐ。

「強烈〜!すんません止めれませんでした」

「なぁ、ボールに魔力を込めるのOKなのか?」

「OKですよ、言ってませんでしたっけ?ただ魔力残量には注意が必要ですけど」

「なるほど」

「すんません、あと一つ悪い知らせが」アポロは申し訳なさそうな顔で俯く。

「さっきのディフェンスで魔力をかなり消費しちゃいました。しばらく役に立たないっス」

「そうか、俺に任せておけ。あの野郎に吠え面かかせてやる!」


 その後一進一退の攻防が続く。魔王が得点を決めれば勇者が得点を決める。両者の魔力量は尋常ではなくアポロは開いた口が塞がらない。「このゲームに廃人プレイヤーがいるなんて…」と小さく呟いた。

 ほぼ勇者と魔王の一騎打ち状態のクディッツボールも残り時間僅かとなった。ボールを持っているのは勇者。おそらくこのシュートで試合時間は終わる。決めれば勇者の勝ち、魔王が止めれば延長戦へ突入する。

「くっ…魔力量だけは、さすが魔王と言わざるを得ない…」

「はっ!その程度か勇者!笑わせるわ!」

 ゴールの前で魔王はいつでも来いと言わんばかりに魔力を解放する。さすがの勇者も強烈ショットの連続に魔力切れを起こしそうである。

 延長戦ならばアポロの魔力も回復し、勝てる可能性は高まる。ここは何としても止めたい。

 勇者はここにきて魔力を使わず軽く手で回転をかけながらボールを蹴り、いわゆるループシュートでゴールを狙った。とはいえラスボスまで行けるほどのステータスの勇者が蹴れば、それはピンポン玉のように強烈な弧を描く。初心者の魔王は、終盤に来てのいきなりのトリッキーなシュートに対応出来るとは思えない。

 だが勇者はここで痛恨のミスを犯す。疲れのせいか蹴りどころを間違え、魔王に真っ直ぐ飛んでいってしまった。

「しまった!」

 魔王は余裕の表情でボールを待ち構える。



 魔王の頭に雷が落ちたような衝撃が走る。


――――――

「しまった!ふかした!」

「あぶね〜!今のは1点覚悟したわ」

「まっさんはブラジル使ってるんだから手加減してよ!」

「関係ないね!」

――――――


 バシャン!

 魔王は目を覚ます。突然自由落下した魔王が湖に落ちる寸前でアポロは足を掴むが、勢いを殺しきれず頭だけ水の中に入ってしまった。

 鼻にも口にも水が入り咽せる。またも精神干渉なのか誰かの日常を見せられ、気がつけば水責めを受けていた事に魔王は混乱している。

「アポロお前…何をするんじゃ!殺す気か!」

「マサヨシさんが急に落ちるから助けたんじゃないですか!」

「……そうか、すまんな。(やはり誰かの攻撃か?)」

 魔王は上空の得点ボードを見上げる。勇者チームに1点が追加されていた。

「守れなかったか…」

「大丈夫ですか?魔力切れには見えませんでしたけど…」

「あぁ、ちょっと眩暈がしただけだ」

 フィールドにはアポロと魔王の2人しかいなかった。勇者は受付で優勝賞品を受け取りに、他のNPCは試合終了と共にどこかへ転送された。


 2人が受付の前を通り外へ出ると勇者が待っていた。

「どうした、敗者を笑いに来たか?」

「…マサヨシ君、もう城に戻りなよ」

「いや!決めた!待っててもどうせお前は来ない!だからお前に着いていってお前のやりたい事とやらで勝つ!」

 勇者はあからさまに嫌そうな顔をしながら、腰につけた袋の中を弄る。テレポの羽を取り出すと、お前は昔からそうだなと小さく呟き、羽を上空へと投げて何処かへテレポートした。

「さて、そろそろ行くか。アポロ、勝てなくてすまんな」

「いえいえ!楽しかったです。というか2人とも強すぎませんか?」

「そりゃ俺は全ての頂点に立つ者だからな!」

「負けましたけどね」

「ぐぬぬ…」

 短い間ではあったが、こうやって冗談を言い合えるのは楽しかった。もう学校に来る事はないが、たまには顔を出してもいいかもしれない。魔王はアポロに別れを告げると、またクディッツボールしましょうとアポロは人懐っこい笑顔で手を振りどこかへ転移した。


 1人残された魔王は夕陽に染まった湖を見つめながら、頭の中で再生された映像を思い出していた。あれは一体何だったのだろうか。誰が…何の為に…

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