6月10日(2)
午前8:15、体育祭は始まった。校長先生や生徒会長の話なんてろくに聞いていたかった。僕が出る競技はリレー、長縄、三人四脚だけであり自分の出番まではかなり時間があった。その間僕は観客席に座りクラスの友達を応援するしかすることは無かった。僕は自分の席に座ると、競技に出ない友達と話しながら自分の番を待っていた。彼女も同じで必要最低限のものしか出ないらしく、暇そうに席に座っていた。
運動部の奴らの活躍は凄かった。徒競走でもダントツで1位を取って、笑いながら帰ってきたし、相撲部や柔道部の奴らは綱引きで日頃の練習成果を発揮した。僕も負けじと出る種目では本気を出した。三人四脚では中間だったクラスを僕たちの番で2位まで持ち上げたし、長縄でも人一倍声を出すよう頑張った。僕の心の中からいつの間にか退屈という気持ちはなくって楽しいという気持ちが多くなっていた。
最後の締めくくりはリレーだ。これはクラスが全員出る種目だ。絶好調な僕のクラスは円陣をくみ、大きな声を上げた。周りの空気が振動するのを感じた。その時、先生が顔色を変えて駆け寄ってきた。
「おい、中山が怪我して走れなくなった。だから誰か2回走ってくれないか」
中山とはクラスの女子の中で1番速く、リレーでもアンカーの1個前を走ることになっていた。みんなの顔色が変わった。そして非常事態にみんな困惑した。女子の代走は女子しかできない。つまり男子は口出しできないのだ。女子は皆やりたくないと口を揃えて言う。クラスの雰囲気は重いものになった。
「じゃあいいよ、私がやる」
手を挙げたのは彼女だった。周りの空気が一気に反転した。普段は余り喋らない彼女が積極的になっている。これはなかなか珍しいことであった。先生はニコッと笑い
「じゃあよろしくな。中山の番号は︎︎ ︎”15”番目だから」
と言って走っていった。女子の15番目…僕はハッとした。僕がバトンを渡すのは彼女になったのだ。考えていると彼女は僕に近づいた。
「頑張ろうね」
そう静かに言うと僕の手をぎゅっと握った。僕は顔が真っ赤になった。
「なるべく1位に近づけるようにする」
僕が言うと彼女はふふっと笑った。そして持っていたタオルをすっと僕に渡してきた。
「汗すごいよ。これ使いな」
僕は驚きで声が出なかった。彼女は真剣な眼差しで僕の方を見ている。
「き…汚くなっちゃうよ。」
「いいよ、2枚持ってるし。それに前の恩返しだよ」
見つめながら言う彼女に僕は圧倒され、震える手でタオルを受け取った。そして、額にタオルを当てた。ますます汗が出てきた。
「あ…ありがとう。洗って返すよ」
そういうと彼女は笑って僕に手を振った。太陽のように明るい姿に僕は熱中症になってしまいそうだった。
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