6月10日(1)
ついにこの日が来た。僕は朝起きると、カレンダーを見て息を飲んだ。今日は待ちに待った体育祭である。いや、体育祭が待ちどうしいといつよりかは、その後のことで頭がいっぱいであった。
外では小鳥がさえずっている。とても気持ちのいい朝だ。しかしそんな朝とは裏腹に、僕の心は緊張と不安でモヤモヤしていた。僕は強く頬を叩いた。甲高い音が部屋に響き渡った。僕はキリッと前を向き布団から飛び出した。そして階段を降りると素早く支度を終わらせ、家を出た。いつも出ている時間よりもずっと早い。今の僕はじっとしていることが出来なかった。
学校に着くとすぐ教室へ向かった。学校には生徒の姿はなく、先生達が忙しそうに体育祭の準備をしていた。教室の前に着くと、教室の中から何か気配を感じた。僕は勢いよくドアを開けた。教室にいたのは彼女だった。
「あれ、随分と早いね」
彼女はそう言って少し驚きながら笑った。僕は驚きを隠せなかった。
「君こそ、随分とはやいな」
「うん、なんか落ち着かなくって」
僕は彼女の顔が見れなかった。今見ると恥ずかしさのあまり爆発してしまいそうだった。僕は席に着くと体育祭のパンフレットを見るふりをした。正直、体育祭のことなどほとんど考えていない。いや、考えることができなかったの方が正しいだろう。
「体育祭、楽しみ?」
彼女は僕に問いかけた。
「うーん、普通かな。正直、あんまり楽しみとは思ってないかも。」
「ふふ、そうなんだ。私は楽しみだよ。みんなであんだけ練習したんだもん。」
彼女は気合いが入っているのか、もう既にクラスTシャツを着て、頭にハチマキを巻いていた。いつもとは何か雰囲気が違う気がして、かっこよかった。
僕は大きく静かに深呼吸をした。そして人知れず男としての覚悟をもう一度締め直した。そしてかすれてしまいそうな声で彼女に言った。
「ねぇ、今日体育祭が終わったら少し教室で待っていてくれないかな?」
僕はまた彼女の顔が見れずにいた。少しの間沈黙が続いた。彼女は何も返答しなかった。聞こえていなかったのか、僕は不安になった。すると彼女はふふっと笑うと、勢いよく立ち上がり教室の扉の前で後ろに振り返った。
「わかった。じゃあお互い、体育祭頑張ろうね」
そう言って教室を後にした。残された僕は1人という沈黙を噛み締めた。もう後戻りはできない。僕は顔をうずくめた。心臓がまるで大太鼓のように鼓動を打ち鳴らしている。今日、僕の青春の1ページは描かれる。
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