6月8日

朝起きるととても気分が悪かった。昨日、帰ってからの記憶なんてほとんどない。気がつけば朝になっていた。昨日の夜は風呂にも入らず、晩御飯も食べずに寝てしまったらしい。そのせいか起きて直ぐにお腹が大きくなった。しかし昨日のことが余程ショックなのか、僕はベットから出るのが嫌でたまらなかった。だがモタモタしている時間はない。僕は慌てて時計を見た。時計の針は6時を指している。僕はベットから飛び出した。いつも家を出ている時間は6時半、しかし今日は風呂にも入っていかなくてはならない。とても憂鬱な朝であった。

支度が住むと僕は財布を取るためバックを開けた。すると中に見覚えのないハンカチが入っていた。僕はハッとあの日のことを思い出した。

(そういえば…届けなくちゃな)

僕は大きくため息をついた。そしてハンカチをカバンに詰め込むと、自転車にまたがり勢いよく家を飛び出した。涼しい風が慰めるかのように僕を撫でてきた。

学校に着くと自然と顔を下に向けて校舎に入った。誰とも目を合わせたくなかった。教室に入り席に座る。彼女はまだ来ていなかった。僕は寝たふりをしながら教室の入口を見ていた。

登校時間ギリギリに彼女は来た。はあはあと息をきらせて教室へ飛び込んできた。そして何事も無かったかのように席に着いた。僕は勢いよく立ち上がり彼女に近づいた。そしてそっぽを向いたまま無言でハンカチを取り出した。彼女は静かにそれを受け取った。ここで僕はやっと彼女を見ることが出来た。彼女は…笑っていた。いつ見てもやはり綺麗だった。見とれていると彼女は静かに口を開いた。

「良かった…。土曜日に落としてたんだ…。昨日弟と出かけた時に落としたと思ってて、もう見つからないってガッカリしてたんだ。良かった…。」

彼女はハンカチを見つめながら言った。

「弟?」

僕はキョトンとして聞き返してしまった。

「うん、昨日3個下の弟と一緒に商店街へ買い物に行ったんだ。洋服屋とか私の買い物に付き合ってもらったんだよ」

彼女は嬉しそうに語った。僕は気が抜けてその場に座り込んでしまった。

「弟だったのか…。」

彼女に聞こえない小さな声で言った。

「大丈夫?」

彼女は心配そうに聞いてきた。僕は勢いよく立ち上がり、思いっきり笑って見せた。彼女は始めキョトンとしていたがすぐにまたニコッと笑った。急に心が軽くなった。僕は席に座るとまた寝たふりをした。満面の笑みを誰にも見られたくなかった。

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