6月2日

この日の昼休み、僕はあまり足を運ばない図書室に来ていた。友達に頼まれていやいや本を返しに来たのだ。高校に入り数えられるぐらいにしか来ていなかったので少し緊張した。そっとドアをくぐるとカウンターの前で本を読む彼女と目が合った。驚いて図書室を出てしまった。もう一度入ろうと身だしなみを整えてドアを開けた。彼女は真剣に本を読んでいた。僕はゆっくりとカウンターへ行き彼女に本を渡した。彼女は本を受け取ると手早く返却の手続きを済ませた。そして僕に本を渡した。ここまで近くに来たのにやはり一言も話せなかった。僕は本棚に借りた本を戻すと足速に図書室を出ていこうとした。

「ありがとうございました」

僕の去り際に彼女が一言そう言った。鈴のような静かで綺麗な声だった。僕は嬉しさや恥ずかしさに負けてそそくさと図書室を出てしまった。そして教室に戻ると机に顔を埋めた。初めて彼女の声を聞いた嬉しさから顔が真っ赤になった。僕はさらに彼女が好きになってしまった。

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