第4話 亮と理沙

 卒業式当日。

 遮光カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。それをなぞるようにホコリが光で揺らめき、浮かび上がる。

 もう朝か。

 陸は羽毛布団に包まれながら、意識が朦朧とするのを感じていた。病院から処方されている睡眠薬の影響で朝が起きづらくなっているのだ。睡眠薬を飲みと、どうも寝すぎてしまう。陸はいじめのせいで不眠症になっていた。だから睡眠薬を処方されたのだ。

 するとピンポーンとインターホンの音がした。

 いったい誰だろうか?

 インターホンには一階のリビングルームで陸の朝食を作っている母が出た。

 「亮くんが迎えに来てくれたわよ」

 リビングルームからする予期せぬ内容の母の大声に、陸は驚きを隠せなかった。

 ええ?嘘だろ?亮が来た?

 陸は考えを整理できなかった。

 亮は陸のいじめを傍観しているだけで、陸を助けなかった。でも理沙は昨日のラインで亮もそのことを反省していると言っていた。

 陸はとりあえず、ベッドから出てリビングルームへ向かった。

 「母さんおはよう」陸は目をこすりながら言った。

 「亮君、迎えに来てくれたって」母がうれしそうに言った。「陸、亮君来てるけど、家の中に上がってもらう?」母の突然の提案だった。

 陸は小さな声で「そうして」と言った。

 母が玄関まで亮を迎えに行った。

 亮が「お邪魔しまーす」と入ってきた。

 陸は亮と久しぶりに会うので、幼馴染だが、かなり緊張した。一体何を話せばいいというのか。

 陸はリビングルームで待っていた。シーンとしたリビングルームに亮の足音が響く。陸の腕になぜか鳥肌がたった。

 ドアが開いた。

 「よっ、おはよー」亮がニヤッとして言った。

 「おはよう」陸もぎこちない笑みを浮かべ、ややどぎまぎしながら言った。

 「おひさー」おひさーとは、お久しぶりの略のことだ。

 亮に続いて母もリビングルームに入ってきた。

 「お母さん、二階で卒業式の服合わせてくるから。亮くん、式までゆっくりしていっていいよ」母の目には涙が溜まっていた。亮が来てうれしいのだろう。

 「急に来てすみません」亮はひょいと首を前に出した。

 亮は昔からひょうきんな社交家だ。その亮のコミュニケーション能力には陸も助けられたことが多かった。

 「元気?」亮はニヤニヤしながら軽い感じで言った。亮は断りもなく、コタツに入った。

 「いや、元気じゃねーし」陸はつい亮のほんわかとした雰囲気に感化され、本音が漏れた。「俺、大変だったんだ」陸は続けて言った。陸は食卓に付き、サンドイッチをほうばる。

 「そうだろうな。よくあのいじめに耐えたな」亮は急に真面目な顔になった。

 「ああ、俺がんばったよ」

 陸は言葉を話せなくなっていたが、いつの間にか自然な感じで、言葉が口をついて出るようになっていた。陸はそのことに驚いていた。

 「今日卒業式だね」陸は言った。

 「そうだよ。俺たちもう卒業だよ。早くね?」亮は言った。

 「そうだね。早いね」

 陸は気になっていたことを言った。理沙のことだ。

 「理沙は元気?」陸はおずおずと聞いた。

 少し間が空き、亮の顔が引きっった。

 「今日は実は卒業式の前に話したいことがあって来たんだ。実は理沙のことなんだが…」

 陸は、なぜかその時、時計の針の音が気になった。

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