第2話 陸の過去

 誰も信じれなくなった。

 陸は中学校に入学してすぐ、いじめを受けた。教室では面と向かって「キモい」とか「臭い」とか悪口を言われた。集団で陸の両手と両足を持って床に叩きつけられたこともあった。その時、陸は床に顔をぶつけ、顔を擦りむいた。入部したばかりの野球部では陸だけ初心者で、下手くそな陸は、先輩にわざと陸が取れないような強いボールを投げつけられたり、罰走をさせられたりした。いじめはますます熾烈になり、人気者の理沙の幼馴染だからという理由で、理沙の目の前で、怖い先輩に対して土下座を強要させられたこともあった。その時、理沙はなんとも言えない悲しい顔をしていた。理沙の前で、自分に対して情けなくなった。


 辛くて、人のいないところでなんども泣いた。意気軒昂と初めてのクラブ活動である野球部で夢見た青春も、努力してひたすら頑張る高校入試や笑顔あふれる修学旅行、楽しい学園生活、それらは陸とは、まるで無縁だった。せめて理沙と亮と幼馴染だということが、唯一の慰めでもあり、陸の自尊心を保つものだった。


 ひとりの風呂。風呂場ではよく泣いた。なぜなら誰にも見られる心配はないから。心が張り裂けそうだった。誰か助けて、何度もそう思った。助けてほしい。助けて。神様助けて。


 でも現実には神様なんかいない。


 もし神様がいたら、陸はこんなに辛い思いはしていない。理沙も陸を置いて、東京になんか行ってない。

 

 神様なんか人間が作った、都合のいい思い込みだ。


 陸はもう生きるのもあきらめようといていた。


 陸はもう限界だった。


 陸はいつの間にか誰とも話さなくなり、言葉を話すことを忘れた。


 陸は言葉を話せなくなっていた。


 陸は人間が信じられなくなった。


 陸はもうあの世へ行きたかった。


 誰か殺して。もう消えてしまいたい。


 僕の生きる時間を理沙と亮にあげたかった。

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