好きと言えなくて
久石あまね
第1話 卒業式の後
中学校最後の日。
卒業式の後、家の近くの昔よく遊んだ公園で幼馴染三人組、陸、亮、理沙はだべっていた。
陸は黙っていた。
亮は理沙に卒業式の感想などを軽やかに話していた。亮はさっきまで号泣していたのに。理沙もさっきまで泣いていたが、どこか吹っ切れたような表情を浮かべていた。
今日でこの幼馴染三人組も解散だ。なぜなら理沙が東京へ引っ越すからだ。
陸、亮、理沙。
小さい頃はいつも一緒にいた。ケンカも、虫取りも、ゲームも、たくさん一緒にした。
陸はそれらをしているとき、とても楽しかったし、幸せだった。三人で同じことをして、同じことを経験する。なんて幸せなことだろうかと、何度も思った。
でも高校生になったら、もうそれもできなくなる。そんなことは受け入れなれない。でも、どこかしかたないと思っている自分がいる。理沙に「引っ越すな」と言いたいが、そんなこと言ったら、理沙に笑われるし、バカだと思われるし、もしかしたら、軽蔑もされるかもしれない。いや、そこまでは思わないか。
どこかたそがれている自分の心を見つめると、やっぱり理沙と離れ離れになるのが悲しいし、つらいと思った。理沙とずっと一緒にいたい。三人ずっと一緒にいたい、と言いたいところだが、亮とは別に一緒にいなくてもいいかもしれないなと思った。亮は陸の恋敵だからだ。
実は陸は理沙のことがずっと好きだった。もう物心ついた頃からずっと理沙のことが好きだった。しかしそれは陸だけではなかった。亮も理沙のことが好きなのだ。あるとき陸が亮の母親から聞かされたのだ。
「陸くん。あなた亮のライバルね。理沙ちゃんと結婚するのは、さて、どっちかな?」なぜかその時、亮はいなく、陸の母親と亮の母親と陸がファミレスでランチをしているときだった。
陸はそれを聞かされた後、やっぱり亮も理沙のことが好きなんだと妙に納得した。だって理沙は誰にも優しいし、なんて言ったってかわいいから。
そんなことを回想しながら、陸は黙ったまま、亮と理沙の人生最後かもしれない会話を、自分も会話に参加したいなと、思いながら聞いていた。
陸は中学校に入学してから、酷いいじめを受けて言葉を話せなくなっていた。
今日の卒業式は実に2年ぶりぐらいの登校だった。義務教育だからなんとか卒業できた。
今日のお別れ会は、理沙の提案だった。
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