第3話
その日の放課後の事である。教室に残していた机に入ったプリントを回収である。
ふー、この場所は苦手だ。
わたしは白い仮面を付ける。それは物理的に付ける訳ではなく。心に付けるのであった。クラスの中に入るとざわつく。そして、上位カーストの女子三人が寄ってくる。
「保健室登校の美琴だ」
明らかにからかいモードだ。この女子達も仮面を付けていた。本心は隠して仮面を付けての関係でしか表現できない哀れな人種だ。弱音など絶対に言わない、好物は人の悪口である。
わたしは軽く挨拶をしてクラスから出ようとすると。
「相変わらず、面倒くさい、落ちこぼれは保健室登校がお似合いね」
わたしはいつの間にか仮面が取れていた。皮肉を返す事なく、クラスから出る。保健室登校を始めてわたしの心は少し変わった。昔なら、皮肉の武装で言い合いをしただろう。
「あー疲れた……」
「どうした?琴美」
保健室に戻ると撫子が寄ってくる。相変わらず、撫子は元気だな。こちらはクラスの上位カーストに会ってくたくたなのに。
「で、上位カーストとはどんな人種なのだ?」
「お金に甘くて、習い事が多くて、人格は悪いかな」
何故、この人種が盗んだバイクで走りださないのであろう?
「いいとこのお嬢さまだからだろ」
人生勝ち組か……。
「神奈川先生は勝ち組なの?」
「え?うーん」
わたしが神奈川先生に振ると。
「彼氏はいないし。資格を取らないと、査定に響くし。休みの日は韓国ドラマしか見ない生活」
お友達が韓国ドラマなのが残念だな。正に結婚できない女子の典型的なケースだ。
「それで、盗んだバイクで走りだすのはしないの?」
「わたしは保健の先生よ、一番関係ないわ」
わたしは小首を傾げて不思議な気分である。皆、大変なのだな。リストカットも自粛せなば。リストカットも時代遅れである。
「これからは、辞世の句だ」
撫子が胸を張って語りだす。おいおい、『辞世の句』はその生涯の最後の句だ。
「終活が流行っているなら、辞世の句の研究をせねば。そこで、神奈川先生、韓国ドラマを止めて、辞世の句を研究するのだ」
「イヤ……沢山ある、どんなにつまらないドラマにも愛があるの」
うむ、ここにいる女子は、下流カーストだなと納得する。
***
朝である。地球の反対は夜なのであろうか?スマホで調べようとしたがアホがバレるなと自粛する。
制服に着替えて学校に行く支度をする。保健室に着くとだらだらする。保健室登校は出席日数と自習スペースである。ちなみに英語の成績は下がる一方である。語学は自習に向かないらしい。
「ミッションだ、廊下の角にある、女子トイレを制圧せよ。敵は教頭の青山先生だ」
突然の神奈川先生の指令である。要は保健室の三人組のトイレが近いとのクレームがあったからだ。神奈川先生はサバゲーのノリで女子トイレを目指すらしい。
「番号!1」
「2」
「3」
「よし、作戦開始」
……。
ただの不審者であった。
「作戦は失敗、全軍戻れ」
撫子はそれなりに楽しんだらし。
「生理なのウランが漏れちゃう、わたしをトイレに連れって行って」
神奈川先生は原子力で動いていたのか。駄々をこねる神奈川先生は最後の抵抗をしていた。しかし、ジャイ子の様な容姿の青山教頭先生は完全に無視である。
「ひいぃぃぃ」
休み時間まで待てとの厳しい判決がおりた。さて、カレーパンでも食べて昼休みを待つか。
***
「わたし、アイドルになりたい」
神奈川先生は真剣な面持ちで話始める。この三十路近くの『お姉さん』が何を言う。あれ?誤字である。『おばさん』のはず……。
ニタニタしている神奈川先生が犯人か、わたしは神奈川先生にたずねると。
「演算型ニュートラルネットで思考回路をジャックした」
さいですか、と、わたしは世界史の勉強に戻る。
「だから、アイドルになりたいの」
「なれば……」
「そこで突っ込まないのは、先生悲しい」
自覚しているなら何故、わたしに言う。わたしは世界史の勉強を止めて、先生の目を見る。
「ゴメン……ただかまって欲しかっただけなの」
更に、神奈川先生の目を見ると。
「精神年齢を上げるから許して」
この女性教師はマゾ中のマゾだ。イカン、イカン、全年齢対象だ。わたしは頭をカキカキして対応に困る。そうだ、わたしは部屋の蛍光灯を消して薄暗くすると。神奈川先生にペンライトを渡す。
「生きる希望が有るなら歌え!」
「はい、コーチ」
やり過ぎたたらしい。しかし、回り出した歯車は止められない。神奈川先生はアイドルになったのだ。
「あのー調子が悪いのですが」
おや、ゲストの女子生徒が入ってくる。
わたしは頭痛薬を渡して、二階の更衣室のソファーで横になるように言う。しかし、歌は意外と上手いな、これはヒトカラでかなり歌い込んでいるなと思うのであった。
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