第79話 プロジェクト▪雪ウサギ7

◆ナレーター視点

(バッグミュージック▪地上の雪ウサギ▪作詞作曲▪中島雪ウサギ)


翌朝カーナが起きると、彼女の回りには何故かタップリの羽毛があった。


瞬間、カーナは思った。



━━━━そうだ、羽毛布団を作ろう━━━━



早速、羽毛布団の布をレサに買い出しをお願いしたが、何故かターナーが怒っていた。


「うちのコッコドゥを禿げ坊主にしやがって!」


しかし彼は、それ以上は言って来なかった。

理由は、モルト君が手配したエール自動瓶詰め機が稼働を始めたばかり。

モルト君がカーナに従っているようなので強く出れないのだ。



「これは大成功かも知れません」


とは、目を変にキラキラさせて大喜びのハンス商会長。

目をぱちくりしている本来、一番喜ばねばならないターナーとレサは置いてけぼりだ。


ハンス氏の話によれば、試験的に皇国内の幾つかの居酒屋に出したところ、非常に良い評価が得られたらしい。

これは実は、昨日モルト君がカーナに伝えきれてない思惑があって、それが今回、高評価に繋がったのだ。


その思惑とは販売価格。

妖精印が350ml缶を中銅貨三枚で販売しているのに対し、皇国エールは700ml瓶を中銅貨五枚で販売した。

つまり販売金額は妖精印より高いが、瓶あたりの量が多く割安感を演出したのだ。


これは見事に的中し現在、妖精印を扱う居酒屋から引き合いがきている。

瓶ビールにした事での高級感も引き合い増加に貢献した一因。

しかも瓶ビールの瓶は基本回収なので、容器コストは低く抑えられる。


まあ、どちらもモルト君の錬金術で造り上げたチート品。

材料代はかからないのだが。



「パッケージ代がタダなんてズル!そんなの、妖精印に敵わない訳だよ!」


今更ながらの裏話を聞いて、ムッとしているレサ。

妖精印に顧客を奪われ涙を流した、あの苦しい日々。あれだけ苦しい思いをしたのは何だったのか。

しかし、今度は皇国エールがその恩恵を受ける事になり、何とも複雑な思いのレサだ。


何はともあれ順調なスベリ出しを見せた新生皇国エール。

この勢いのまま、再び皇国内のブランド一位を取り戻せるのか。

ここからは、その真価を問われる事となりそうだ。







「問題が起きました…………」


と、言うのは、見るからにガッカリしているハンス氏。

いったい何があったのか。


最初に起きた問題は物流の問題だった。

皇国エールは現在、従業員が居ない。

あの妖精印による皇国エール販売不振で、給料未払いが続き、職人を含む使用人全員が辞めたためだ。


その為、瓶ビールを運べる人間が居なかった。

これを解決したのがモルト君のチート。


軽トラを造りだし、なんと無重力台車まで用意した。

因みにこの無重力台車は、G13が運ぶ大型トラックにも積載されており、奴が一羽で運んでいたものだ。



「なんじゃ、そらゃあ!?」


これには呆れて、女の子なのにガニ股で空を仰いだレサ。

過去の皇国エールの運搬を手伝った事のあるレサ。

当時の皇国エールは、木製の10リットル大樽での納品が主体であり、その運搬には荷車と人手が必項だった。

当然、遠方に運ぶ際には家族総出で手伝ったものだ。

それが片手で瓶ビール1ダースを運べる上、馬の必要のない小型の馬無し馬車。

運転を覚えるのが大変だが、小さな路地までスイスイ運べる神対応だ。


「やってらんねぇ、後は任せた」


ターナーは頭を抱え目の前の奇跡から現実逃避し、ビール仕込みに工房に閉じ籠った。


そして気を取り直したレサは、モルト君に抱きついた。

「モルト君、大好き!」

「あ、はい。う、喜んで頂き嬉しいです」


モルト君は赤ヘルになっているが、レサは気づいていない。


カーナはこの騒動に気づいておらず、チクチクとレサが持ってきた布に針を通し羽毛布団を作成中だ。

彼女の頭の中は、羽毛布団に包まれる自分を夢見てニンマリが止まらない。

完全に蚊帳の外。



その後、運搬の問題は一番早く軽トラの運転に慣れたハンス氏が運ぶ事で解決したのだが、そのハンス氏から新たな問題が発生したとの報告があった。


その問題とは?



「瓶の回収が出来ないのです!!」


ハンス氏の訴えに顔を見合わせるレサとモルト君。

実はハンス氏以外、瓶の回収の事をすっかり忘れていた事もあるが、彼の焦り顔に首を捻るばかりだ。


「瓶の再充填を予定してましたが、どの店からも瓶の返却がありません。なんとした事でしょうか」


真っ青な顔で話すハンス氏に、モルト君が口を出す。

「あの、ハンスさん?瓶の回収は確かに必要ですけど、別になくても困りませんよ」

「は?」


一応、再充填設備は用意したが、モルト君やカーナは最初から瓶が戻るとは思っていなかった。

元々、瓶もモルト君の錬金術の成せる技。

無ければ、また作り出せばよいのだ。


だが、ハンス氏の動揺は尋常じゃない。

首を捻りつつ、レサが声を上げた。


「ハンスさん、何か私達に隠し事がある?」

「あ、え、いえ、何も無いです………」


「その動揺はおかしいわよ?!本当の事を言いなさい!」

「はひ、は、はい、実は………」



レサの追及に観念したハンス氏。


この後、その動揺の理由が明らかになる。

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