第46話 雪ウサギ

『ぶはあああ、あ、あるじ!?』

ドサッ


私は従魔の命令を解除し、ヒューリュリ様を解放しました。ヒューリュリ様は、解放された途端、前のめりに地面に突っ伏しちゃった!?

「ヒューリュリ様、大丈夫!?」


『だ、大丈夫だあるじ、しかし、疲れたのだ』


そりゃあ、そうです。

飛び掛からんと、力を込めた体勢のまま長くフリーズしてた訳ですから、ほとんどエクササイズな止めポーズと一緒です。

普通に筋肉痛でしょうね。


しかし残念です。

せっかく私のドストライクなイケメンをゲットしたと思ったのに取り逃がしました。

でもつばを付けておいたので、次は大丈夫でしょう。

念のため、タモ網を用意しておいた方がよいでしょうか?

イケメンは大物ですから念には念をです。

まさに逃がした魚はデカカッタですね。


あるじ、その、もう人間と関わるのは止めて欲しいのだ。あるじが危険なのだ』


うーん、仲間の聖獣を狩られている臭いがしたのなら、さぞかし私のおこないは危険極まる行為に見えたのでしょう。

気持ちは分かります。


ですが元人間な私です。

いくらヒューリュリ様が聖獣で、私がその主人だとしても、考え方まで聖獣に寄る事は出来ません。

猫を飼ってる人が猫の気持ちを知りたくて、【我輩は猫である】を読んだとして、本当に猫の気持ちを理解できるか、と云われても難しいのと同じ事。

私の価値観は人間で、その目線が人間寄りなのは致し方ない事なのです。


まあ、現在の状況は森の中のサバイバル生活。近くに住んでいるのは聖獣達です。

彼らと近所付き合いになる訳ですから、聖獣達に歩み寄る姿勢は必要になるでしょう。


ん?森の中で獣に囲まれた生活……。

だとすれば、歩み寄る方法はターザンでしょうか。

あーあ、あ、あーーーーーーって?!

ぼろ布を下半身に巻き付けて、ジャングルのツタでブランコしながら叫びまくる私?

いやいや無い無いそれは無い!

せめてジェーンって……あ、そういえば私、ヒューリュリ様以外の聖獣とお会いした事がなかったですよね?

会った?事のあるのは、死んだ大きなドブネズミ━━━っだけです?!

ぶるぶる。


「ところでヒューリュリ様?他の聖獣さん達とお会いした事が御座いませんね。聖獣密度が低いのでしょうか」

『聖獣ミツド?の意味が解らんが雪ウサギなら其処らじゅうにいるぞあるじ

「雪ウサギ?」

『この森でもっとも数が多く、群れで行動するおとなしい奴らだ』


ほう、ほう、おとなしいと?

なら、普通のウサちゃんって事ですかね。私、げっ歯類は飼った事はないのですが、なんか歯の手入れを怠ると、どんどん歯が伸びるらしく本人は大変らしいのです。

硬い食物を定期的にかじる事で自然に削れるそうですが、いつも歯がかゆいらしくて、そんな生活は嫌ですよね。


『ほら、この辺りにもいる。あるじ、目を凝らして見れば見えるぞ』


「目を凝らす?」


目を凝らせば見えてくる?

一万円札の透かしとか?


そーいえば新札が出るんでした。

転生しちゃったから確認出来ませんが、確か3Dプリント付きで一万円は渋沢栄一、五千円は津田梅子、千円は北里柴三郎だったと思います。

あれ?二千円札ってありましたね。

何処いった?






ポコッ


おや?

【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の境界辺りで、小さな雪の固まりが動きました。なんでしょね、コレ?


『オ呼ビ致シマシタ?女王サマ』


ん?何処からか声がしました。

明らかにヒューリュリ様の声とは違います。はい?女王様っていいました?

どうしましょ?

とにかく近づいてみましょうか。


「ええっと?あなたが雪ウサギちゃん?」


『ハイ、私ガ雪ウサギ28号デス。宜シク、オ願イ致シマス』


28号?

鉄人か???

不味いですね。

コントローラーが無いし正太郎君がいませんよ。

暴走するのでは?


『大丈夫デス。暴走ハシマセン。単車ハモッテナイデス。初日ノ出暴走?ワカリマセン。千葉茨城族ちばらきぞく、何デスカ、ソレ??』


ちょっ、ちょっと、ちょっと、ちょっと!?

私、何にも喋っていないのに何で私の考えている事がバレてるんですか?

しかもそれって一瞬、頭過っただけですけど!?


あるじ、済まん。そ奴らは思念を読む事ができるのだ。残留思念もな。だからあるじ、その』


『アア、アノ、イケメン。最高ダワ。チョメチョメシテ、アーシテ、コーシテ、全部、私ノ物ヨ?チョメチョメッテ、何???』


…………っ?!


『コノヤロウ、ウサギノ分際デ、人様ノ心ヲ読ムンジャネェ、焼キウサギ二シテ食ッテヤルゾ?!キャアアアッ、森ノ守護者様、女王様ガ28号ヲ食ベタイト、オ考エデス。オ助ケ下サイ!』


『……あるじ、雪ウサギが怯えているのだ。その考えを止めるのだ』


『ハア?何イッテンダ、コノトーヘンボク!泣キ虫ワンコノクセ二、デシャバンジャネェ!?ソンナ変ナ聖獣ト知ッテイタナラ、最初カラ私二近ヅケンジャネェ!脳ミソガ足リテナインジャナイカ。コノ駄犬ガ!』


『あ、あるじ、そんな事を思って……あんまりだ。あるじ!うおおおん、うおおおん、うわあん』



「いや、絶対そんな事、思ってないからって、もうヒューリュリ様、聞いてない!?」


おかしい?!

確かにイケメンのところは、そんな事も思っていたかなぁって思ったけど、そんなヒューリュリ様を立ち直れない様な事、私が考えている筈はありません。

むむ、まさか!?

私は、勝手に喋っている雪ウサギを凝視します。


ニヤニヤ


可愛い顔の雪ウサギの口端が僅かに上がってます。

この子、愉快犯???!!

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