第24話

◆オルデアン視点


びくっ

急に泣いていた狼さんが、ふらふらと立ち上がったわ?!

だ、大丈夫なの?

狼さんは私に構わず、前に出る。

そして、お花畑のある一点を凝視してる。

何、何か居るの!?


パタッパタッパタッパタッ


あ、御使い様が突然、黄色のお花の中から飛び出して、空中で踊りを始めた!?

良かった。

この狼さんに食べられた訳では無かったのですね。

ごめんなさい、狼さん。

あなたを疑ってたの。

こんな涙を流されるような、優しい狼さんを疑うなんで、私は悪い子だわ。


御使い様は、空中でくるくる舞いながら、何か、楽器?のような物を取り出した。


『はいよ、踊るよ、大地の息吹き。あなたが咲くとみんな幸せ。私の声が聞こえたら、どうか応えて下さいな。あなたの幸せが、みんなの幸せ、みんなで、みんなで幸せになろう。タン、タン、タ、タ、タン、タン、タン、タン。タン、タン、タ、タ、タン、タン、タン、タン』


ああ、素敵。

御使い様が回るたびに、その羽根からキラキラキと、光輝く粉が舞い落ちる。

御使い様の言葉は分からないけど、そのキラキラ輝く光は、お日さまに照らされて御使い様の下の花壇に落ちていく。


ボコッ


え?

突然、地面が盛り上がり、中から何かの芽が出たわ!

どういう事?

そして、どんどん葉が伸びる、茎が大きくなるわ。

凄い、凄い、凄い!

これが御使い様のお力なの?

どんどん伸びた茎や葉は、やがて縦長の小さいお花の集まりを付けたの。

綺麗、今度のお花は紫色。

とっても、とっても上品よ。

あ、御使い様が狼さんの方を見ながら、手を上げた。

今度は何?


『スキル、ご褒美セット!』


ポンッ


きゃっ、煙が上がったと思ったら、白い何かが地面にある?

あ、それを御使い様が抱き込んで、空中に持ち上げたわ。

凄い、自分と同じくらいの大きさの物を、持ち上げて飛び上がった。

御使い様は、力持ちなのね。

でも、少し重そう?

は?今度は空中で回転を始めたわ。

目が回りそう。

あ、回りながら足を上げ、大きく振りかぶって……投げた!!?

ああ、白い何かは、ふらふらだけど高く遠くに飛んでいくわ。


ダッ


きゃあっ!?急に狼さんが走り出した。

御使い様が投げた物を、追いかけていった?

意味が分からない。

また、御使い様が地面を見つめながら手を出したわ。

今度は、何でしょう。


ポンッ


さっきと同じ煙が出て、何かが地面にあるけど……今度は小さい…箱?

んん?

なんでしょう?

なんとも甘いよい香りが、あの箱から匂うの。

あああ、美味しいお菓子のような、でも、もっと、もっと、甘い匂い。

これは一体!?


ぐきゅるるるっ


?!

は、はしたない。

思わずお腹が鳴っちゃった。

恥ずかしい。

でも、こんな幸せな匂い、初めて。

ああ、あの箱の中身が知りたい。

もしかしたら、神様のお菓子なの?

た、食べたい。

あ!御使い様が私を見ながら、あの箱を後ろに隠したわ。

愛想笑いで誤魔化している?

御使い様!一人占め?

こんな美味しそうな匂いを嗅がせるだけなんて、あんまりなの。


ぐきゅるるるっ


わ、わわ、また、お腹が鳴っちゃった。

そういえば馬車から離れて、ずっと何も食べてなかったの。

食べたい、食べたい、食べたい!

この匂いのお菓子が食べたいの!

あ、気がつかない内に指を咥えてたの。

このままだと、お腹と背中がくっついちゃう。

お腹、減ったなぁ。

ん?

御使い様が苦笑いしながら、箱を差し出した。

くれるの?嬉しい。

でも、ぷるぷる持つ手が震えているわ。

結構、重いのかしら?

あら?そうでもないわ。


「有り難う、御使い様」

私は御使い様にお礼をいったの。

人?から何か貰ったら、お礼を言いなさいって、いつもテリアに言われていたけど、ちゃんと出来て良かった。

さっそく開けて見ましょう。


パカッ


中には、小さいけど一口大の5個のカップ?が入ってる。

あ、御使い様がすでに1個持っていて、私に見せるようにカップの上の薄い幕を剥がしてるの。

開け方を教えて下さったのね。

同じようにやってみる。

でも小さいから、やりにくい。

あ、何とか開いた。

あああ、なんて甘い、甘い、甘い香りが辺りに広がるの?!

これは何てお菓子?

ぷるぷるしてるようで、しっかりもしてる?

不思議、不思議、不思議なお菓子。

んん、ほっぺが今にも落ちそうなの。

あ、御使い様が箱の隅から、何か取り出したわ。

これは……スプーン?

小さくて使いヅラいけど、確かにスプーンなの。

でも、私がいつも使っている銀のスプーンとは違い、半透明でまったく重さを感じない?

神様のスプーン!

きっと、これで食べるこのお菓子は、さらに美味しいって事ね。

では、さっそく頂いてみましょう。

ささっ

スプーンですくってみましたが、小さいからちょっとしかすくえません。

でも、【ちょっとづつ、大事に食べよ】という事なんですね。

分かりました、御使い様。

【ちょっとづつ大事に食べます】ね。


パクッ


₨₡о₯₢₡₡и₡и₢₨₯?!!!

こ、これ!?

もっといっぺんに食べないと!

私はカップを逆さにして、口に注ぎます。


パクッ


₯₨₢и₢₨₡и₢₡₡₡!!!

これは何?

表現するものが見当たらないの!

美味しい、美味し過ぎる。

まるでふわふわ、宙に浮かぶみたいに、とっても、とっても、幸せな味!

こんな美味しい物がこの世にあっていいのかしら。

天空にある神様の食べ物なの。

あああ、オルデアンは今、幸せの真っ只中に、幸せの海に溺れてしまうの!

ここは、やっぱり神様の世界なの?

もう、これ以上の幸せがこの世にあるのかしら。

でも、夢かもしれないわ。

もう一口、食べてみないと!


パクッ


₢ии₨₨₯₯и!!!

んーーーーーーっ!!

神様、私、もう死んでもいいの!

あ、


パクッ、パクッ、パクッ


и₯₯₨₨₨₢₢₢₨₨₨₨₨₢₨₢₢₢₢₢₢₨₨₨₨₨₢₢₨₢₢₨₨₨₢₢₢₢₢₢₢₢₨₨₨₨₯₨₨₨₨!!!!!!!!!!!!


ああ、甘い、甘い、甘い水の中、いえ、濃厚な甘い海!

まるで夢のよう、は?!

……お箱のカップが5個とも空だわ。

いつの間に、空になったのかしら。

もう、無いの?


ぐきゅるるるっ


あああ、まだまだ、食べたりないわ!

でも、もう無いのね。

何だか、悲しくなってきちゃった。

もっと食べたいなぁ。

は?

御使い様、笑い泣きしながら、私に食べかけのカップを差し出したの。

嬉しい。

御使い様も、私が食べるのが泣くほど嬉しいのね。

良かった。

食べて上げるわ。

ん?

御使い様が中々、カップを放さないの。

くれるんじゃないの?

あ、放してくれた。

じゃあ、今度はお口で味合わないと。


パクッ


んーーーーーっ、美味しいーーーーーーーっ

また幸福感でいっぱいよ。

このお口に広がる、まったりとした味わい。

それでいて、飽きのこない甘さ。

とっても、ここち良いの。

ずっと、味わっていたいわ。


あ、御使い様が背中を見せて、膝を抱えて、お花を見つめだしたわ。

お花は綺麗よね、御使い様。

ここのお花は、きっと御使い様が、さっきのように咲かせたのね。

皇都も、ここと同じように、色とりどりの綺麗なお花で満たしたいわ。

御使い様が、皇都に来てくれればいいのに。

お願いすれば、一緒に来てくれるかな?

そうすれば、さっきのお菓子、また出して貰えるかもしれない。

ずっと御使い様と一緒がいいな。

御使い様?

何だか、とっても悲しそう。

一体どうしたのかしら。

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