第1話 ガーベラ

パタッパタッパタッパタッパタッパタッ


「お花にお水をあげましょう。大事に大事に育てましょう。だから、大きく丈夫に育ってね」


私は、ジョウロでお水を花壇にあげて、ジョウロを足元に置きました。


私の目の前にあるのは、ガーベラの花。

ええっと、ガーベラの育て方は?

教えて、教えて、私のナビちゃん。


ピロンッ

すると目の前の片隅に、小さなモニター画面が出てきます。

はい確認、と。

▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩▩

日当たり▶ガーベラは日光が少ないと、花があまり咲かなくなったり、生育が悪くなります。 風通しと日当たりが良い場所に置いて育てましょう。

温度▪▪▶10℃~20℃がガーベラの栽培適温です。 温暖な気候を好みます。

土▪▪▪▶ ガーベラは一般的な草花用の培養土で問題なく育ちます。

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よし、よし、これを、ガーベラの、【成育空間システム化】。

「いいかな?いいよね?それじゃあね、今から、今から始めるよ」


私は、ふわっと飛んでガーベラの上、何もない空間からタンバリンを取り出します。


「はいよ、踊るよ、春の息吹き。あなたが咲くとみんな幸せ。私の声が聞こえたら、どうか応えて下さいな。私の幸せが、あなた幸せ、みんなで、みんなで幸せになろう。タン、タン、タ、タ、タン、タン、タン、タン。タン、タン、タ、タ、タン、タン、タン、タン」


ほら、私がタンバリンを叩くと、私の背中のチョウの羽から、銅色鱗粉舞い落ちて、みるみるガーベラ包みます。

ほら、ほら、ほら、あっという間にガーベラの、綺麗なお花が開花する。

これが私、花妖精、私だけの力です。


「ふう、これでレベル、上がったかしら」


ピロンッ

『花妖精レベルがに上がりました』

あ、やりました。

ちゃんと、上がりましたね。

これでいろいろ出来る事が増えれば、私の生活は、もっと快適になるのです。


後ろの空間を見れば、何処までも白い雪の森が広がります。

私、寒いの苦手なんですよ。

ほんと、見るのも駄目なんです。

冷え症なんで。


ピロンッ

『チューリップの球根を召喚出来るようになりました』

あ、召喚出来る種が増えました。

今度は、チューリップです。

上手く咲かせれば、いろいろとリターンが貰える筈です。


「さて、チューリップの育て方はと…」


▩▩▩


はい、ところで、私の名前は愛原あいはらかなえ。

29歳。

彼氏いない歴、年齢。(ほっとけ)

中堅商社でOLをしていた、社会人です。

なんで商社のOLがこんな所で花妖精してるかっていうと、分かりません。

え?本当に分かりませんよ。

だって、週末にゲームしてただけですから。


VRゲーム【フローラ▪フェアリー▪オン▪ライン】


仮想空間で、様々な花や植物を育てるだけのゲームです。

え、つまらないゲームやってるな、って?

ふ、ふ、ふ、早まるでない、皆様。

実は、このゲーム、むちゃくちゃ奥が深いのです。


なんと、なんとですよ。

花を咲かせる事に成功すると、その咲かせた現実のお花が貰えるんです。

凄いでしょう。

え、お花なんかいらない?

ちっ、ちっ、ちっ、甘い、甘いよ、甘納豆です。

お野菜の花を咲かせれば、お野菜が貰える。

りんごの木を育てて花を咲かせたら、毎年その木にる分のりんごの実を貰えるんです。


凄い?分かったようですね。

そうです。

スーパーいかずとも、食料品が手に入る。

無料で!

ふっふっふっ、どうだ、凄かろう?

しかも、しかも、レベル上げできると、召喚できる種が増えるし、現実にない植物の種も召喚出来るのです。

例えば、焼きたてのパンがる木とか、宝石がる木とかね。

まあ、さすがに宝石の木なんかは、一個だけとかだけど。

とにかくレベルが上がれば、何でも召喚出来るんです。

そりゃ、みんな目の色変えますよね?


だから私も、寝る間も惜しんでやりました。

え、仕事?

ああ、ここ最近、後輩が6人、まとめて辞めましたから、その穴埋めで18連勤。

そんでアパートに帰ったら、寝る間を惜しんで【フローラ▪フェアリー▪オン▪ライン】。


はい?それが原因?

何ですか、原因って。

18連勤が可笑しい?

え、こんなの、前より楽ですよ。

前は、20連勤あたり前ですから。

朝9時に出社して、帰宅が23時。

そこから、寝落ちするまで【フローラ▪フェアリー▪オン▪ライン】をやってました。


そしたらある日、気が付いたら背中に銅色のチョウの羽があるし、手は白人の手みたいに真っ白。

さらに髪が金髪ロングで、さわれるんです。

え、おかしくないですか?

触れるなんて。

ただのVRゲームですよ?


一応、ステイタス画面は出るので、直ぐにゲームの中だと分かったんですが、ログアウトボタンは無いし、顔に付けてるはずのVR機を外す動作をしたけど、何も変わらないです。


途方に暮れた私は、辺りを観察して、ここは初期画面の❪最初の花園❫である事がわかりました。

ということは、私はこの銅色の羽根に思い当たる節があるので、この金髪と合わせた考察で、自身が作った花妖精アバターに違いないと判断して 現在いまに至ります。


え、随分、落ち着いてるって?

そりゃあ、それまで毎日、朝から晩まで働いて、帰ったら【フローラ▪フェアリー▪オン▪ライン】をやっていた社畜です。

それが、いきなり花園しかない世界に放り出されてご覧なさい。

スマホはないし、テレビ、ラジオも無く、新聞は勿論、書籍も見当たらないのです。


………!


私はすぐに手が震え、足ガクガクの禁断症状が出てしまいました。

ええ、そりゃあもう、地獄でしたね。

私、こう見えても根っからの社畜なんで。


それで絶望した私が、怠惰に地面に寝転がっていると、ピロンって確認音がでて、ナビちゃんの『お花を育てましょうマニュアル』が出るじゃありませんか。

そうなんです。

【フローラ▪フェアリー▪オン▪ライン】のチュートリアル解説が始まったんです。


私はすぐにそれに飛び付きましたよ、はい。

当然でしょう?

だって、他にやる事ないですから。

あとは、先ほどの通り。

初期イベント、ガーベラの開花に成功しました。

それで、チューリップの球根を手に入れたところです。


ちなみに私がいる所は、いつもゲーム画面で見ていた【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】です。

木の柵に囲まれた、小さな花壇ですね。

ここは現在、四畳半くらいの大きさに、土とガーベラと、花壇を作るレンガがあるだけです。


そして、どういう仕組みか分からないけれど、この柵に囲まれた【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】の中だけは常春で、いつも太陽の日差しが有るのです。

何故、私がそれに気づいたかと言えば、チラッ、私は嫌そうに柵の向こう側を見つめます。


柵の向こう側、ハッキリ言って極寒です。

真冬ですね。

森の中のようですが、深い雪に覆われています。

何ですかね?

冷え症の私に、死ねって言ってませんか?

まるで暑がりの同じ課の上司が、外回りから帰るたびに、冷房温度を24度にしやがるみたいな?

糞上司ですね。

冷え症の腹痛をなんだと思ってるんですか!

そもそも、ゲーム画面に映らない所は極寒の真冬って、可笑しくないですか?

なんにしても、【小さな箱庭グリーン▪サンクチュアリ】から出られそうにありません。

ええ、出るつもりもありませんが。


取り敢えず、さっきレベルが上がったので、ステイタスチェックをしてみましょう。

私は大きく息を吸うと、叫びます。

「ステイタス▪オープン」


はい、ラノベの定番ですね。

VRゲームなら、コントローラからなんですが、ここにはそんな物は無いですから。


ピロンッ

はい、出ました。

これが私のステイタスですね。

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名前▪▪▶カーナ▪アイーハ(かなえ▪愛原)

レベル▪▶1(?)

種族▪▪▶花妖精(新種族)

羽根▪▪▶銅色

容姿▪▪▶金髪▪碧眼▪白い肌▪長耳

衣服▪▪▶春のワンピース(淡ピンク)

性別▪▪▶女

年齢▪▪▶1歳(寿命未設定)

身長▪▪▶10cm

体重▪▪▶秘密

バスト▪▶絶壁(成長次第)

ウエスト▶これから(さあ?)

ヒップ▪▶まだまだ(ガンバ)

特技▪▪▶タンバリン応援(?)

スキル▪▶亜空間収納

スキル▪▶銅鱗粉【成育空間システム化】

スキル▪▶種▪球根召喚

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皆さま、わたくし、カーナのお話しを見に来てくれて、ありがとうございます。

今後も、私の独りよがりな、恥ずかしい私生活を公開して参りますので、何卒、今後も御贔屓ごひききの上、応援お願い致します。

なお、ハートや、お星さまを沢山付けて頂けますと、私の生活も充実いたしますので、宜しくお願い致します。

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