⑤異変

第10話「いなくなったあの子」

 放課後、また佑葉が倒れたという情報を聞きつけた俺は保健室へと向かっていた。

 あまりにも頻繁に倒れるので佑葉が倒れることに慣れてしまい焦りや驚きは全く無い。


 今日は一日過ごしづらかったなぁ……。


 昨日下校中に美莉奈からキスをされた俺は顔を合わせるのが気まずくなってしまい、避けるように行動していた。

 美莉奈を避けるのは難しいことではないので学校生活自体には支障をきたすことはないが、変に意識をしてしまい通常の学校生活よりも疲労感が増しているのは事実だ。


 それに避けるとはいっても同じ教室内で過ごしているからには完全に避けることは難しく、一度目が合いはしたが美莉奈の方から目を逸らされたので俺の心は完全に折れてしまった。


 それにしてもなぜ美莉奈は俺にキスをしてきたのだろうか。


 いや、そりゃ俺のことが好きだから確か考えようがないんだけど……。


 これまで美莉奈は俺のことを好きな素振りなんて一度も見せてこなかったし、俺もただの幼馴染だとしか思っていなかった。


 それに、美莉奈の前では格好つけようなんて思ったことはないので好かれる要素なんて全くないはず。


 今までは美莉奈のことを意識することはなかったが、流石にキスをされたらこちらだって意識してしまう。


 美莉奈は顔が整っているし、明るいキャラクターでクラスメイトからも好かれる人間だ。


 美莉奈のことが好きな男子も少なくないという話も聞く。


 改めて考えてみると、そんな美莉奈と幼馴染で、いつもそばにいるってのは贅沢な話だったのかもしれない。


 そんなことを考えながら保健室に到着すると、いつものごとく佑葉が保健室のベッドで寝転がっていた。


「今日という今日は驚かされないぞ。どこから出てきたって驚いてやらないからな!!」


 そう言って佑葉からの返答を待つ。


「いないフリしたって無駄だからな。どこかに隠れてるのは分かってるんだぞ」


 しかし、相変わらず佑葉からの返答はない。


「……佑葉?」


 普段は声をかければすぐに返事をしてくるのに、今日は返答がない。


 いや、よく考えてみれば普段は俺から声をかける前に佑葉が俺を脅かそうとして声をかけてくる。


 それなのに今日は声もかけてこないで姿も見せない。


 いつもと違うのは明らかだった。


 まあ幽体離脱をしていればどこにでも飛んでいけるのだから、たまにはこの周辺にいないこともあるだあろう。


 そう考えた俺は佑葉が寝ているベッドの横に置かれた椅子に座って佑葉を待つことにした。


 しかし、待てど暮らせど佑葉が返って来る様子はない。


 そのまま一時間以上待ち続けたが佑葉は姿をあらわさなかった。


「窪田くん、どうしたの?」


 そうこうしている間に保健の先生が入ってきて声をかけられる。


「あ、いや、あの、城戸さんが起きなくて」

「あら、今日は長いのね。もう帰りなさい。そのうち起きるだろうから」

「……分かりました。」


 保健室の先生にそう諭された俺は仕方がなく自宅へ帰宅することにした。

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