④変化
第9話 「焦るあの子」
放課後、佑葉が倒れていないかを確認してから教室を出た。
俺の姿を見ると幽体離脱してしまうというのなら、できるだけ早く教室から出ていくのが最善策だろう。
自宅に向けて歩みを進めているが、今のところ佑葉がいつものように浮かんで俺の元へやってきて耳元で囁かれるということはない。
「今日もお疲れぇい!!」
「ぐふっ!?」
聞き慣れた声が聞こえた後で、背中に強い衝撃を感じた俺は後ろを振り返る。
「またお前か……」
「またお前かとは失礼な!? 可愛い可愛い幼馴染の美莉奈ちゃんがわざわざ声かけてあげたんだけど!?」
「自分で可愛いっていう奴程可愛くなかったりするんだよ」
「えーなにそれ酷くなーい?」
良くも悪くも、美莉奈とは昔からの知り合いなので気兼ねなく会話をできる仲ではある。
こうして一緒に過ごす時間には心地良さすら感じていた。
佑葉とは違って物理的にダメージを与えてくるところだけは改善してほしい。
「とにかく毎回俺に衝突してくんのはやめてくれ」
「というか旭陽、最近本当に大丈夫なの? この前も言ったけど旭陽が一人だ喋ってるの見たって言ってる子が何人もいるんだけど」
何人も、って一体何人に見られてるんだよ……。
この言い方だと恐らく以前声をかけられた時よりも目撃者が増加しているのだろう。
「大丈夫だよ。多分見間違いだって」
「本当に大丈夫? 頭おかしくなって幻覚とか見えてない?」
「見えてないから安心してくれ」
まあ幽体離脱した佑葉の姿は見えてるけどな。
まさかあれが幻覚ってことはないだろう。
「あと城戸さん? と一緒に保健室にいるのを見たって言ってる子もいるんだけど、それと何か関係があったりするの?」
「関係ねぇよ。まあ最近会話する回数が増えて友達になったのは間違いないけどな。ただの友達だよ」
会話をする回数が増えたとは言っても、生身の佑葉とは会話したことがないので会話をした回数に入れていいかは微妙なところである。
「ただの友達ねぇ。でも急に話すようになったってことは何かきっかけがあるんでしょ?」
「あいつってよく倒れるだろ? 偶然倒れたところに居合わせて俺が助けたってだけだよ」
「へぇ……。優しいね。旭陽は」
何故か美莉奈の言葉に棘があるように感じて、思わず俺の言葉にも棘が出る。
「なんだよそれ。誰でも倒れてるやつ見たら助けるだろ」
「べぇつにぃ。なんでもないけど」
「はぁ……。昔から急にムキになるところがあるよな美莉奈は--って!?」
口論になりかけていたところで俺の視界は急に塞がれた。
「え、ちょ、急にどうしたんだよ!?」
「キスしたのは急だったけど、私が旭陽を好きになったのは急な話じゃないんだからね。それじゃっ」
「そ、それじゃってお前な!!」
何が起こったのか理解するのに苦労したが、状況を整理すると俺は美莉奈にキスされたらしい。
自宅の前まで歩いてきていたので、美莉奈は自宅の階段を昇り玄関の扉の前に到着するとこちらを振り返って、人差し指で右目を大きく開けながら舌を出してそのまま自宅へと入っていった。
何があったんだよ一体……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます