第8話 「言うことを聞かないあの子」
放課後、佑葉が倒れたという話を聞きつけた俺は保健室へと足を運んだ。
これだけ頻繁に倒れていて実際体には何も問題がないっていうんだから不思議なもんだ。
保健室のベッドにはいつも通り寝転がっている佑葉の姿がある。
「おーい、いるんだろ。今日はいつもの手は……」
「こんにちわ」
「--っ!?」
挨拶代わりに耳元で囁いてくる佑葉。
結局いつも通り俺は体をビクつかせた。
「あれ~? いつもの手は食わないんじゃなかったんですか~?」
こいつ本当にっ……。
まあ毎回同じ手を食らう俺も俺か。
「いつもと同じ手を食らって悪かったな。それで、今回はなんで倒れたんだ?」
「ん~今回はシンプルに不調って感じですね」
「そうか。いい加減倒れないような体質にはしてやりたいんだが……。ごめん。解決してやれなくて」
「何言ってるんですか!! 私としては幽体離脱してる間にこうして話す相手ができただけでも嬉しいんですよ? 今までは誰とも話せなかったんですから」
今まで佑葉が幽体離脱している間にどうしていたかなんて考えたこともなかったが、誰にも見つからず、会話もできないとなればその孤独感は計り知れない。
幽体離脱している間の佑葉と関りを持てるのは俺だけなのだから、俺が佑葉に寄り添って寂しい思いをしないようにしてやらなければ。
「そうか。ならよかったよ」
「はい!! ありがとうございます」
「……これからも話しかけてくれて構わないから」
「……え? 今なんて言いました?」
「べ、別になにも言ってねぇよ」
「えー、なんか言ったじゃないですか!! これからも話しかけてくれて構わないって!!」
「聞こえてんじゃねぇかよ!!」
「もう一回言ってくださいよ~」
「言うわけないだろバカ!! ってか話しかけてもいいとは言ったけど人前で話しかけるのはやめろよ!! 俺無事に変な奴認定されかけてるし!!」
「いいじゃないですか変な奴で!! みんなから嫌われても旭陽さんには……私がいますよっ」
「--っ!? だからっすぐそうやって耳元で囁くなバカ!!」
「バカじゃありません~天才ですぅ~」
「今日はもう帰るからな!! 早く自分の体に戻って帰れよ!!」
「ご心配ありがとうございます!! 旭陽さんも気を付けて帰ってくださいね」
「じゃあな!!」
照れを隠すように保健室を飛び出した俺は確かに進展している佑葉との関係にほんのりと笑みを浮かべていた。
まさかこれが幽体離脱した佑葉の姿を見るのが最後になるとも知らずに。
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