②回想
第5話 「声をかけてくれたあの子」
小学生の頃から旭陽さんのことが好きだった。
私が旭陽さんのことを好きになったのには明確なきっかけがある。
旭陽さんは覚えていないかもしれないけど、小学校に入学したばかりの頃、引っ込み思案な私は友達が作れずいつも自分の席で一人で本を読んで過ごしていた。
一人でいることを望んでいたわけでなく、友達を作りたいとは思っていても自分から声をかけることができないのだ。
ずっと一人でいた私に声をかけてくれる人なんていなくて、現状を打開するには自ら誰かに話しかけるしかなかった。
しかし、何度声をかけようと決心しても結局行動を起こすことはできず、いつまで立っても一人で生活をする日々が続いていた。
そんな時、私に声をかけてくれたのが旭陽さんだったのだ。
「一緒にドッジボールしようぜ‼︎」
そう声をかけられた私は一瞬怯んでしまったものの、これは私が友達の輪に入るための絶好のチャンスだと思い、勇気を出して返事をした。
「……うん」
この出来事をきっかけに、私は友達の輪に入ることができたのだ。
こんなことで好きになるのは安直なのかもしれないが、小学生の私にとって旭陽さんの一言がどれだけの助けになっていたかは計り知れない。
それ以来私は旭陽さんを目で追うようになり、しばらくしてから自分は旭陽さんのことが好きなのだと自覚した。
--それからだった。
緊張なのか興奮なのか、旭陽さんを見ると倒れるようになってしまい、幽体離脱するようになったのは。
旭陽さんとお話ししたいのに、旭陽さんと一緒にいたいのに、旭陽さんを見ると倒れて幽体離脱してしまう。
そんな日々が続いていたせいで、中学生になった頃にはもう旭陽さんと関わりを持つことを諦めていた。
それなのに、高校二年生になってしばらくが経過したあの日、旭陽さんは幽体離脱している私の姿が見えるようになったのだ。
旭陽さんの驚いた反応を見る限り、私の幽体離脱した姿を見るのは本当に初めてだったのだと思う。
なぜ旭陽さんに私の幽体離脱した姿が見えるようになったのかは定かではないが、もしかすると私の旭陽さんに対する想いが神様にでも通じたのかもしれない。
一つだけ、私がミスをしてしまったのは、旭陽さんのことを「旭陽さん」と呼んでしまったことだ。
昔から旭陽さんのことが好きな私は幽体離脱中に旭陽さんには私の声が聞こえないのをいいことに、旭陽さんを下の名前で呼ぶようになり、「旭陽さん」と名前で呼ぶのは日常茶飯事になっていた。
しかし、旭陽さんからしてみれば久しぶりに会話をする私が急に旭陽さんのことを下の名前で呼べば多少なりとも違和感を覚えてしまうだろう。
そして二つだけ、旭陽さんに謝らなけらないのは、私が息をするように嘘をついたことだ。
私が倒れるのは旭陽さんの姿を目にした時だけ。
でも、それを知られてしまったら私が旭陽さんを好きなことがバレてしまうかもしれない。
そう考えて嘘をついたのだ。
そしてもう一つの嘘は、リラックスしなければ自分の体に戻れないと言ったこと。
仮にこの場に保健の先生がいてリラックスできていない状況であったとしても私は自分の体に戻ることができただろう。
あの状況で私が自分の体に戻れないのはリラックスできないからではなく、旭陽さんがその場にいるからだ。
自分でも嘘がつきたくてついているのではなく、つかなければ自分の体に戻れないので仕方がなく嘘をついたのだ。
いつか幽体離脱中だけではなくて、生身の体でも旭陽さんと喋れる日がくるのかな……。
そんなことを考えているうちに私は自分の体に戻っていた。
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