第2話 「浮かんでいるあの子」
階段の上から倒れて来た城戸を受け止めた俺はその場で倒れ込む形にはなったものの、下に転げ落ちることはなく階段上で城戸を受け止めることに成功した。
城戸を庇いながら飛び付いたので、背中を強く打ち付けかなりの痛みが背中に残っている。
「痛ってて……」
痛みは残っているものの動けない程の怪我ではないので、すぐさま起き上がり城戸に怪我がないかを確認する。
見える範囲で外傷がないかを隈なく探したが、体を打ち付けた様子はなく息もしっかりしている。
恐らくは意識を失っているだけなのだろう。
外傷がないことを確認した俺は城戸を持ち上げて保健室まで運ぶことにした。
放課後は部活をしている生徒が多く、校舎内に他の生徒の姿は見当たらない。
城戸をお姫様抱っこしながら運んでいる場面を目撃されることもなく保健室まで運ぶことができた。
保健室に保健の先生はおらず出払っている様子だったので、とりあえずお姫様抱っこしている城戸をベッドへと寝かし、ベッドの横に置かれていたイスに座った。
……さっき階段で落ちそうになった時、俺を避けようとしたよな?
階段で倒れそうになった時点でその状況がどれだけ危機的状況であるかは容易に想像がつくだろう。
階段で転倒してしまえば平地で倒れる時とは比べ物にならない程の大怪我をしてしまうことが想像される。
それならば、階段を歩いていた俺に抱き抱えられた方が怪我も少なくなるだろうと考えるのが妥当だ。
それなのに城戸は俺を避けたのだ。
朦朧とする意識の中で、俺に怪我をさせてはいけないと考えたのだろう。
城戸が俺に向かって倒れてきていたら城戸ではなく俺が大怪我をする可能性もある。
冷静に分析すれば俺を避けようとする気持ちも理解できなくはないが……。
あの状況で咄嗟にそんな判断ができるのは、普段から人に優しくしている人間だけである。
俺が城戸の立場に立ったとしたら絶対に受け止めてもらえるように倒れるだろう。
意識を失いベッドに寝ている城戸の表情を見て、頭の中には走馬灯の様に城戸の記憶が蘇っていた。
城戸からすれば迷惑かもしれないが、昔から城戸を目で追いかけていた俺はこれまで城戸が何度もこうして人に優しくする姿を見てきた。
傘を忘れた友人がいれば自分は二本持っているからと嘘をついて傘を貸してびしょ濡れになって帰宅したり、重たい荷物を持っているお婆さんを助けて学校に遅刻したり、通学路に落ちていた財布をわざわざ交番まで届けたりと話し出したら止まらない。
頻繁に倒れるからとか一度も会話したことがないからとか、言い訳のように御託を並べていた俺だったが、城戸のそんな一面を知っていたからこそ、俺は城戸を目で追ってしまっていたのだろう。
「これって要するに……」
最後まで言葉を発することはなかったが、俺は小学生の頃からの同級生だった城戸のことを、今になってようやく好きだと自覚した。
「ありがとうございます」
「--⁉︎」
耳元に急に囁かれたような感覚を覚えた俺は目を皿のようにして後方を振り向く。
そして右後ろにいた人物を見て呆然とした。
「……え? 旭陽さん?」
「……は? 城戸?」
俺の後方には、うっすらと消えそうな姿をしている城戸が立っていた。
いや、浮かんでいたと言う方が正しいだろう。
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