10年間1度も会話をしたことがなかったクラスメイトの幽体離脱している姿が急に見えるようになってしまった件
穂村大樹(ほむら だいじゅ)
①出会い
第1話 「優しいあの子」
「
「--っ!?」
通学中に耳元で囁かれた俺は咄嗟に後ろを振り返る。
そして周囲に人がいないことを確認してから返事をした。
「……はぁ。急に耳元で話すのはやめてくれっていつも言ってるだろ?」
俺に話しかけてきたのは同じクラスの
佑葉とは小学一年生から高校二年生まで奇跡的に同じクラスで、昔から"知り合い"である。
「すみません。旭陽さんの驚く反応が見たくてつい」
「毎回注意してるんだからついもクソもあるか。気配も足音も無く背後から急に声をかけられるこっちの身にもなってくれ」
「検討はさせていただきます」
「検討なんてする必要ないだろ。驚かそうとしなければいいだけの話なんだから」
「だって旭陽さんを驚かすの、面白いんだも〜ん」
意地悪そうに微笑む佑葉に語気を強めて驚かすのをやめるよう伝えようとしたが、その表情があまりにも愛らしくてこれ以上説教する気にもならない。
佑葉が俺を驚かす行為を止める意思がないのであれば、俺の方で対策を考えるべきなのだろう。
しかし、どれだけ対策を検討したところで対策のしようがないという結論に至る。
なぜなら佑葉は、”幽体離脱”しているのだから。
小学校から高校まで同じ学校に通う同級生は多く見積もっても両手で数えられる程度の人数だろう。
その数人については昔からの知り合いだからという理由だけで自然とその行動を目で追ってしまうもの。
俺、
容姿端麗で煌びやかな女の子とは程遠く、素朴でそばにいて安心するような女の子であるが、整った顔立ちで男子からの人気も高いらしい。
身長は低く、近づくと思わず頭を撫でてしまいたくなる程だ。
そんな素朴で小さな女の子のことが気になっているのには勿論理由がある。
城戸は昔から頻繁に倒れて保健室に運ばれており、俺と殆ど会話をしたことがないのだ。
小学生の頃からずっと同じクラスなのに会話をしたことがないとなれば誰でもその女の子のことが気になるものだし、一度くらい会話をしてみたいと考えるのは普通のことではないだろうか。
とはいえ、俺の方から城戸に話しかけるつもりは全くないので、今後も城戸のことを目で追いながら倒れている原因が判明することもなく卒業して関わりがなくなってしまうのだろう。
放課後、宿題で使用する教科書を忘れた俺は校庭に出てから引き返して校舎に戻り階段を登っていた。
一度降りた階段を再び登る無意味な行動に煩わしさを感じながらも、その教科書がなければ宿題をすることができないので、早く忘れ物を取って帰宅しようと顔を上げて階段を登る速度を上げた。
踊り場を越えて更に階段を登り進めようとしたそのとき、階段を降りようとしていた城戸と目が合う。
これはもしかすると城戸と会話をするチャンスなのではないか? という考えが頭をよぎったが、頻繁に倒れているのが気になっているだけでこちらから積極的に会話をしたいと思っていたわけでもないので目を逸らしてそのまますれ違おうとした。
意図的に目を逸らすと余計に城戸の行動が気になるもので、城戸の方へと一瞬視線を戻す。
次の瞬間、城戸はバランスを崩して俺の方へと倒れてきた。
まさか階段を降りているこのタイミングで!?
階段から転げ落ちてしまったら大怪我どころか打ちどころが悪ければ最悪の事態も考えられる。
俺は城戸を受け止めようと咄嗟に手を広げて足に力を入れた。
受け止める体勢に入って倒れてくる城戸の表情を見ると、虚な目をしながらも俺の方へしっかりと視線を向けていた。
そして城戸は、俺を避けようとしたのだ。
な、なんでこの状況で俺を避けようとするんだよ⁉︎
そのまま倒れて来てくれれば普通に受け止められたのに!?
城戸の行動に驚かされながらも俺は飛びつくようにして城戸受け止め、その場に倒れ込んだ。
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