第8話 少女たちは古の怪談話を聞く
「今度、『女子動画部』の顧問を引き受けることになった、国語の
そう言って私たちを前に微笑んでみせたのは、二十代後半の女性教師だった。
「はじめまして、よろしくお願いします」
私たち――正規の部員四名と見学者二名の六人は、そろって新任の顧問に頭を下げた。
「ええと……リーダーはどなたかしら」
栞がそう言って全員の顔を見回すと、一番落ちついて見える少女が「私です。三年の
「私は平部員の城田です。二年です」と琴美がおどけて自己紹介すると、「私も平部員です。
「あの、ええと私は……」
私がおずおずと口を開くと、琴美がぶしつけに「この二人は見学者です。私と同じクラスの風連春花と、留学生の華月悠葉」と横合いから自己紹介をひったくった。
「そう、ずいぶんと賑やかね。……ええと、最近はどんな活動をしているのかしら」
「主に、その辺で撮った動画を編集したりしてます。最新作は『緑の図書館を探せ!』……になる予定です」
琴美が苦笑交じりに活動内容を口にすると、途端に栞の表情が硬い物に変わった。
「緑の図書館?……そう、まだそんな噂が生き残っていたのね」
目を丸くしてそう言う栞に、琴美が驚いたように「先生、知ってるんですか?」と興奮した口調で聞き返した。
「ええ、知ってるわ。……私、ここのOBでもあるの。ちょっと長い話になるけど、『緑の図書館』っていう噂の元になった事件がちょうど、私が現役だったころに起きたのよ」
突然始まった告白に私たちが目を白黒させていると栞は一瞬、遠くを見る目になった後、ぽつりぽつりと噂の元になったという『事件』について語り始めた。
「私が一年生の時だからちょうど十年前ね。同じ学年に
栞は時折、眉を寄せつつ事件の関係者と思われる女子生徒の名前を口にした。
「本好きでピアノもうまくて凄く人気があった子なんだけど、他の女子たちとはなかなか打ち解けられなくて、唯一、純菜と心を通わせることができたのは、ハンナって言う留学生だったの」
「つまり、私みたいな子ですね」
おずおずと口を開いたのは悠葉だった。
「そう、ちょうどあなたみたいにエキゾチックな顔の美少女だった。二人はある意味、友情を超えた関係をが育んでいたように見えたわ。他のクラスメートが近寄れないほどにね」
私はよくある女生徒同士の親密な話を聞いているうちに、つい首をかしげていた。この話のいったいどこが『緑の図書館』とつながるのだろう。
「二人はハンナの父親がマフィアに関わっていたため、純奈の父親から親しくするのを反対されていたの。そしてあの事件が起きた。私が小耳に挟んだ話を総合すると、二人が周囲からの反対に耐えきれなくて資料室に火をつけ心中した……というのが噂の大筋みたい。でも私からすると、二人がそこまで思い詰めてたとは思えないわね。資料室で火災があったことは事実だけど、二人はたまたまその場に居合わせただけだったんじゃないかしら」
「元の資料館があった場所には、何もないんですか?」
私が尋ねると、栞は「ええ、ただの草っ原よ」と即答した。
「その後、森の中に『緑の図書館』が現れて、中にいる二人の少女に会って気に入られると『呪いの力』を授かることができるって話になったみたい。ただし都市伝説の定番で、気にいられなければそのまま図書館に閉じ込められるっていうおまけもついてるけど」
「なんだかあんまりできのよくない都市伝説みたいですね」
「ええ。『緑の図書館』の位置もそこに通じる小道の場所も、話す人によって場所が違うみたい。つまり移動してるってことね。『入り口の木』さえ見つかれば行けると思うんだけど」
栞は一気に語り終えると、「とにかくあくまでも噂よ」と笑いながら付け加えた。
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