第5話 倉田大樹のチャンス?

教室に明日の小テストの予習プリントを取りに戻ったら、田中がドアの前に立っていた。今は、放課後。田中は部活に入ってないし、誘ったら一緒に帰れるかな。

これは、チャンスかもしれない!友達になるチャンスだ!

声をかけようとした瞬間、田中が思いもよらないスピードで振り返った。


ドンッ


「ごめんなさい。」

田中はそう言いながら、俺の顔を見上げた。


(え?泣いてる?)


「何?どうしたの?」

俺は思わず、田中の肩をつかんだ。ただ事じゃないだろ、これは。

「…」

田中は、何もいわず小さく頭を下げると、足早に階段の方へ向かった。


ガラガラッ


「あれ?大樹。今、誰かいた?」

教室の中から、林が顔を出した。

「いや、田中が、」

と俺が言いかけると、

「え、田中?やべぇ、聞かれたかな。」

「でっかい声で話すから。」

「なに?」

「田中が聞いてたって。」

林たちが笑い、好き勝手に喋りだす。


「どういうこと?」


俺は、自分でも強張った声になるのを抑えられなかった。どう見ても、田中が喜ぶ話をしてたようには思えなかったから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る