第3話 倉田大樹の決意

もう7月も半ば過ぎているっていうのに、また雨が降ってきた。

6時間目は英語の授業。俺は窓側から2列目の後ろから2番目。中学に入って一クラスの人数が増えたおかげで、ちょっとくらいさぼっていても先生から目立たなくて助かる。


「じゃあ、田中。ここ読んでみて。」


静かに椅子をひいて立つと、田中が教科書を読み始めた。一緒の小学校だったのに、同じクラスになったのは初めてだ。小学校の時は肩にたらしていた長い髪は、きっちり二本のおさげに結わえられている。

「She is so happy. Because there is … 」

落ち着いた声が雨の中でしっとりと聞こえる。田中の席は、窓側から5列目の前から3番目。俺の席からよく見えるから、ついつい耳たぶに注目してしまう。小学校時代は、髪に隠れてよく見えなかった、白くて、少しピンク色の耳たぶがあらわになっている。


もう一度あの耳たぶに触れてみたい。

でもさすがに、中1男子がそれ言ったら変態だよな…。


「…はい、よく読めていました。続きを倉田。」


また、あの小4の時みたいに、隣に並んで座りたい。ずっとそう思っていた。

今度はもっと話がしてみたい。

あの時、不安の闇から連れ出してくれた優しい田中のこと、もっと知りたいんだ。


「倉田!!」


「うぁ、はい!」


クラスのみんなから、笑いが起きた。

ちらっと、田中が振り向いて俺の方を見た気がした。

首筋に汗がたらりと流れた。やべっ、見られていると思うと緊張してきた。

やっと同じクラスになったんだ、今年こそ“友達になる”チャンスなんだ。

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