第2話 田中成海の秘密

「成海、聞いてる?どっちかって言うと、[FEELLIKE]の中で、山中くんか後藤くんだったら山中くんだよね?」

クラスメイトの花音がきらきらした目で私を覗き込んでいる。[FEELLIKE]は、花音の好きなアイドルグループ。山中くんは、花音の“推し”だ。

「いや、私は後藤くん推しだから!」

「もう、成海はゆずらないんだから~」

本当は[FEELLIKE]なんてどうでもいいんだけど、ファンのふりをするのには二つ理由がある。

一つ目は、同じものを好きだというと、女友達を作るのに都合がいいから。一緒にファングッズを買いにいったり、動画を見たり、同じ話で盛り上がれる。

二つ目は、本音を隠すため。女子の世界では、好きな男子を教えないと、『友達なのに…』みたいな空気を出されて面倒くさい。だから、リアルじゃない世界に推しを作って、『現実に興味ない』って顔で乗り切るのだ。そして、この作戦は成功している。


本当の事は誰にも言わない。本当の推しは倉田大樹だってこと。


小学校4年生の時に、家の近所に引っ越してきた倉田大樹。

家が近所だったせいか、今だにすれ違うと、

「田中!」

と大きな声で話しかけてくる。

やつは誰にでもそうだ。みんなに優しい所は、あの頃と変わらない。

転校生だった彼は、あっという間に学校になじみ、すぐに女子の恋バナの中心になった。屈託のないやわらかい笑顔と優しいふるまいに、みんなが倉田大樹を好きになった。


「私も好きなんだ」


と、誰かに言ってみたかったけど、言えなかった。その事が本人に知られて、笑われたり、いやな顔をされたらと思うと胸が苦しい。ずきずきする。

だから、封印する事にした。

そうして、あれから3年もたってしまった。


私は自分が嫌いだ。

硬くて黒い髪も、急にふくらんだ胸も、太くなってきた脚も、

自分の事はだいだい大っ嫌い。

だから、絶対に誰にも知られてはいけない。

私ごときが、倉田大樹を好きだなんて。

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