第20話 大公家
マイエメル大公家の温室ではメルリナが小さく震え、同じテーブルにいるキリナートがテーブルに頭を付けていた。
「わ、わたくしに、そ、そんな大役は務まりますでしょうか? わ、わたくし、自信がありませんわ……」
メルリナが小さな声で訴えた。
「俺がメル以外ではダメなんだよっ! 約束を違えることになって本当にすまない!」
キリナートは、頭を下げ直した。頭を下げてしまったので、メルリナがびっくりして目を見開いた後でキリナートの言葉が嬉しくて頬を染めたことには気がついていない。
気がついたのは後ろに控えているバルザリドで、肩を震わせて笑い声を耐えていた。
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サイドリウスの後退を受けてジュナールが王太子となると正式に発表されることになった。
元々、キリナートたちの父親大公閣下が王位継承権二位、ジュナールが三位、キリナートが四位であった。大公閣下が辞退し、ジュナールが将来王位につくことになったのだ。ジュナールは優秀であるので、王太子の勉強を一年間行い王太子就任式を執り行う予定となった。
ジュナールには婚約者がいない。ジュナールの婚約者は三年前に流行病で儚くなってしまった。
なので、現在マリンにジュナールとの婚姻を打診しており、ジュナールは週に何度もマリンの公爵邸に通っている。王位につくことは別にしてもマリンを心から求めているジュナールなので、マリンも絆されつつある。
マリンの父親の公爵閣下も前向きで、先日生まれたばかりの公爵閣下の実弟の息子を養子縁組して迎え入れることにしたそうだ。その子が成人するまでは頑張ると意気込んでいる。
『年寄りたちに頑張ってもらう』というジュナールの考えにもぴったりだ。
ジュナールを後継にできなくなった大公家ではキリナートが後継となることが当然のように決定した。
キリナートは『父から伯爵位を貰い受け、騎士団を退役後は、伯爵領の領地を運営する』とメルリナに約束していたのだ。それがまさかの大公領となり、メルリナはプレッシャーを感じてしまっている。
〰️
「あ、あの、ナァト様。ナァト様はわたくしのことを……そのぉ」
メルリナが言葉を紡ごうとしていることに気が付き、キリナートは頭をあげた。そこには頬を桃色に染めて恥ずかしそうにしているメルリナがいた。
『ゴンっ!』
キリナートは今度はメルリナを見ることを避けるように頭を下げテーブルに思いっきり打ち付けた。
「ブハッ!!」
バルザリドは我慢できずに笑い出した。メルリナはびっくりして立ち上がり、キリナートを心配してキリナートの側へ寄った。メルリナに触られたキリナートは今度は『ダン!』と立ち上がった。
「す、すまないっ! すぐに戻るので、お茶を飲んでいてくれっ!」
キリナートは走るように温室を出てしまった。そこにはしょんぼりとするメルリナが残り、控えていたメイドが駆け寄りメルリナを励ましている。
「おいっ! キリっ!」
キリナートを追いかけたバルザリドが声をかけた。不貞腐れて振り向いたキリナートはバルザリドの予想通り真っ赤であった。
「さすがにメルリナ様を残して立ち去るのは印象が悪いぞ」
「あそこにいたら正気が保てないっ!」
「なぜだ?」
「あのメルを見なかったのかっ!?」
キリナートの目は血走っていたが、深呼吸を繰り返して落ち着こうとはしている。
「だからっ! なぜだっ、て?」
「メルが可愛過ぎるのだっ! あの場にいたら俺はメルを襲ってしまうかもしれない。そんな鬼畜なことをしてメルに嫌われたら、俺は一生独り者だ。メル以外は考えられないのだから!」
バルザリドはキリナートにわざと口にさせることで告白の練習をさせたのだ。
「なら、ご本人にそう言ったらいいだろう?」
バルザリドは諭すように丁寧に言った。
「は? 俺に『メルを襲いたい』って言えというのか?」
「あ?? おいおい……」
バルザリドはガックリと肩を落とす。
「なぜ、メルリナ様のことになると飛んだバカになりさがるんだ?
メルリナ様を可愛らしいと思っていると伝えるんだよ」
キリナートはやっと落ち着いてきたのに、元の木阿弥となり、さらに真っ赤になった。
「ばっ!! そ、そんな軽いこと言えるわけないっ!」
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