第19話 罰
マリンがはっきりと告げた。
「サイドリウス様のバニラ様へのお気持ちだけで婚約破棄を決断したわけではありませんわ」
「わたくしもです」
「わたくしも」
ジュナールは諦め顔で息を吐いた。だが、彼らを守るべき事柄も気持ちも持ち合わせていなかった。ただ、国として将来有望だと考えていた若者がいなくなった事実だけが気がかりだった。
『その分年寄りたちに長い期間頑張ってもらえばいいだけだ』
ジュナールは気持ちを切り替えた。
「わかった。それでね、国王陛下のご判断でみなさんは婚約白紙となったよ。
男どもに破棄してやったって形でもいいけど、ね。
噂なんて勝手なものだ。歪曲されてしまうかもしれない。『君たちが破棄された』と噂をする者も出てくるだろう。
それなら『白紙』となれば問題も少なくなるだろうという陛下のお考えだよ」
ジュナールに言われて三人はやっと自分たちの汚点になることだったと理解した。昨日の今日でそこまで考えることはできていなかったのだ。
「賠償金については各々の当主たちが話し合っている。次の婚約者探しについては王家も含めて全面的に協力するので、安心してほしい」
ジュナールとともにキリナートも三人に頭を下げた。キリナートの後ろに控えているバルザリドもしかり。
「なっ! ジュナール様、キリナート様、お止めくださいませ。本当に困ります」
マリンにそう言われ、エマとシルビアを見ると二人はアワアワとして、顔を青くしていた。
「すまない。これは、王家に少しでも携わる者として、非公開な席でしかできないことなのだ。爵位など気にされることはない」
ジュナールは簡単に言うが、マリンもエマとシルビアも小さく頷くことしかできなかった。
キリナートとジュナールは騎士団団長の子息である。そして、騎士団団長は現国王陛下の弟で、大公閣下であるのだ。大公家子息に頭を下げられるなど本来ならありえない。
〰️ 〰️
一週間後にはそれぞれの処分が決まった。
サイドリウスは王意に背き婚約者ひいては未来の王妃をすげ替えようとしたと判断された。これは反逆の意志有りと思われることもある。国王と王子の意思が分かれていると思われるのは付け入るスキを与えることになるのだ。
国内外にそのように勘ぐられる前に、王位継承権剥奪の上、去勢手術を施されて子爵領が与えられ一代子爵となった。領地を出ることを禁止される契約魔法がかけられている。
こうして、国王の威厳と力を見せつけた。
サイドリウスが連れて行く共はメイド二人と執事が一人。メイドと執事は二年の交代勤務だ。子爵として国から与えられる経費は人件費と自分を含めた食費雑費で消えてしまう。
与えられた北の土地は一般の男爵より小さい。特産物もなく若者は他領地へ流れ人も減る一方で年々枯れていく領地である。サイドリウス本人も子を成せないので発展は難しいかもしれない。
アリトンは王意に背いたが何かできるほどの力も人脈もないと判断された。しかし、文官としての力量もないと判断されたのだ。なので書庫整理係として王宮勤務となった。
王家の判断とは別にガルバーブ侯爵殿はアリトンを許せなかったようだ。アリトンはガルバーブ侯爵家を廃嫡され、貴族籍も抜かれ、去勢手術を施された上に平民とされた。
平民としての勤務である。平民文官用の寮の小さな部屋住になった。
父であった侯爵閣下には『いつ仕事を辞めてもいい』と言われているが、市井にて一人で生きるような気概はないアリトンは大人しく書庫整理の仕事を続けた。
ユーティスは王意に背いただけでなく、国王ではなく戦果を男爵令嬢に捧げると喧伝してしまった。父親であるダイムーニ魔法師団長はそれを重く見た。
父親によって学園をすぐに退学させられた。しかし、あまりの魔力の強さに放逐もできず、父親の直訴により王家の塔にて幽閉させることになった。一日八時間、魔力を魔石に注ぎ込む作業を命じられた。
生涯家族に会うことは禁止されその家族には母親も当然含まれていた。
ユーティスは二ヶ月後に発狂し自害した。「かあさま、かあさま」と毎日泣いていたと報告が上がっている。
ビリードはナタローナ公爵領地及び王都への立ち入り禁止を魔法契約させられた。当然、王都にある学園へは通えない。そして、荷物一つで領地の門外へと出され、行方はわかっていない。その門から近くの町までは徒歩で三日ほどだ。美男子のビリードが一人でいたらどうなるのだろうか。また、途中には魔物の森もある。
そして、バニラは斬首刑となった。
魅了魔法に関することはどんなことでも斬首刑となることはこの国では常識であった。
ドルジーノ男爵家の裏の森に隠された温室には魅了魔法に近い効果のある花が栽培されていた。
卒業パーティーでジュナールがキリナートに言った『あちらは片付いた』とは、ドルジーノ男爵家の家宅捜索と一族郎党捕縛のことであった。
男爵家に携わる者は全員が自白魔法に掛けられ、少しでもその花に携わっている者は斬首刑となった。男爵夫妻は当然斬首刑であった。
「羽振りのいい子爵家のボンボンでよかったのにっ!」
ドルジーノ男爵が苦々しく隣に転がったバニラの頭につばを吐いた。そして、自分の頭も転がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます