第17話 捕縛

 四人の男たちは全く動けなくなった。

 そこに突然、新たな声がかけられた。


「バニラ嬢。君には聞きたいことがある」


 いつの間にか淑女たちの後ろに美丈夫が立っていて、その者の声であった。

 その美丈夫はキリナートと同じレッドブロンドの髪を少し伸ばし後ろにきっちりとなでつけられており、目はサイドリウスと同じ濃いめの紫眼で切れ長で少しだけ吊り目である。大変整った容姿は、キリナートに似ているがキツめの目尻が精悍で、大人の香りを撒き散らしている。その姿を見ただけで女子生徒たちは黄色の声を上げていた。


 その美丈夫の傍らには学園長がいる。


「捕まえろ」


 美丈夫の一言で舞台上に近衛兵がなだれ込みバニラを捕縛しようとした。


「ん? すでに捕まっているのか?」


「兄上……。すみません」


 キリナートはその美丈夫に目線を落とすだけの会釈をした。


「あっはっは! 手間が省けたよ」


 バニラにも四人の男たちにも二人ずつ近衛兵がついた。男たちに対しては捕縛ではなく、もしもの時の抑え係のようで、彼らに触れはしなかった。ただし、ユーティスにだけは魔力封じの腕輪がされた。ユーティスは苦々しい顔をしながらも近衛兵の人数の多さに抵抗はしなかった。


「あちらは片付いた。乱入してすまないな」


 その美丈夫ジュナールはキリナートの兄で現騎士団隊長である。ジュナールがキリナートへ向けた笑顔で、話までは聞けぬ女子生徒の数名が気を遠くした。


「いえ、俺が止められずにすみません」


 二人が小声で話しているところに割り込みが入った。


「ジュナール! 貴様にそんな権限があるわけがないっ! 俺は王太子だぞっ!」


 サイドリウスが怒鳴りだしたので近衛兵はサイドリウスを掴んだ。サイドリウスは近衛兵の手を振り解こうとするが、近衛兵は離す素振りもない。


「サイラス。これは国王陛下の命だ。お前にそれを覆す権限はない。

それに……」


 ジュナールが更に目を細めた。サイドリウスは一歩退いた。王子であろうと騎士団隊長の眼力には耐えられなかったようだ。


「お前が王太子であるという事実はない。お前は王位継承権第一位を持っていたにすぎないのだ」


 ジュナールはサイドリウスに丁寧に説明した。サイドリウスは一瞬呆けた。そして、内容を理解したのか、怒り心頭の様子の顔で暴れ出した。


 サイドリウスに合わせるかのように他の者たちも訴え始めた。バニラなどは『うーうー』と何か醜く罵る言葉を喚いていているのだと想像できる。さすが元平民だと納得されていたほどだった。


 すると、サイドリウスの後ろにいた魔道士が魔法でサイドリウスたちを束縛する。サイドリウスたちは耳は聞こえるが暴れることも話すこともできない状態になった。


「ふぅ、静かになったな」


 ジュナールはまるで虫けらでも見るような目で五人をチラリと見た。


「お前たちの過ちはすでに報告を受けている。卒業パーティーの邪魔にならぬよう別室にて罪を明らかにする予定であったたが、それより先にさらなる罪を重ねたようだな。

王城にて陛下がお待ちだ。

連れて行け」


 ジュナールの指示で五人は近衛兵に連行されていった。バニラはなんと椅子ごと運ばれた。それも椅子を横にされてまるで担架を運ぶ如く。


 キリナートはジュナールからこの五人と婚約者たちの三人――キリナートの婚約者メルリナは含まれない――を別室へ連れてくるという指示を受けていた。そのための部屋の準備をしたりしていてパーティー入場に間に合わなかったのだ。


 しかしキリナートが促す間もなく、男たちからご令嬢方への冤罪による断罪が始まってしまった。

 だから、キリナートはこの場で決着させる決心をしたのだった。


「内密に済ませたかったよ……」


 五人の後ろ姿に向かってのキリナートの呟きは、舞台で華々しく輝こうとして失敗した男たちには聞こえなかった。


 学園長が卒業パーティー再開に動き出した。卒業生にとっては災難だったが、いつかこれも思い出となると思いたい。


 キリナートはパーティーが再開されたことを見届けると、バルザリドとともに三人のご令嬢を連れて王城へ向かった。

 メルリナのことはメルリナの隣にずっと寄り添っていた女子生徒に任せることになった。



〰️ 



 王城の一室に通されたキリナートたちが丸テーブルにつくと、メイドがお茶を四つ用意してくれた。バルザリドはキリナートの後ろの少し離れたところに控えている。


「昨日のうちにお話をいただけて助かりましたわ」


 マリンたちはキリナートに頭を下げた。

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