第8話 断罪
サイドリウスたちがそれぞれの婚約者を呼び出して対決姿勢となった。
サイドリウスが一歩前へ出る。
「マリン・ナタローナ! 私は、王家の名の元に、お前との婚約は今ここで破棄とする。そしてこれから、お前たちの卑劣な行いを公開し、猛省と謝罪をさせる!」
マリンは公爵令嬢として美しい所作で一歩前へ出た。
「婚約破棄は承りましたわ。
しかしながら卑劣な行いとは……。いくら殿下は王家であれ侮辱されることは矜持が許しませんわ」
マリンの美しい声は怒鳴っていなくとも会場中に聞こえた。マリンは胸を張って堂々としており、マリンの一つ年上のサイドリウスより威厳を感じる。誰から見ても完璧であった。
「私の婚約者であることを笠に着て、バニーに散々悪口を言っていたなっ!」
逆にサイドリウスはツバを撒き散らす勢いで怒鳴り話の内容も幼稚だった。
マリンは呆れ返ったが表情には出さずに反論しようとした。
しかし、それよりほんの少し速くビリードが言い募る。
「姉上。あなたが選民意識の固まりだということはイヤというほど知っていますよ。僕だけでは留まらずまさかバニーにまでそれを振りかざすなんて!
そんな女は淑女とは言えない!」
マリンは目を細めてビリードを故意的に睨んだ。ビリードは一瞬たじろいだ。が、バニラに袖を引かれ我に返るように姿勢を正した。
マリンが息を吸い込み発言しようとするとまた遮られた。
今度はアリトンが声を張り上げた。
「エマ! お前にも罪はあるぞ」
アリトンは片方だけ口角を上げ相手を貶し落とすことを楽しんでいるかのようだ。
競うではなく完全なマウント状態だと信じているので『優越感』を感じているのだろう。
「まさかお前が他人の教科書を盗み破損させるような事をする女だと思わなかったよ」
エマは眉を寄せる。アリトンのこんな下種な笑い方を見たことがなかった。
「ふんっ! 誤魔化せるとでも思っているかっ! 教科書を抱えて走り去るお前の姿は何人も見ている。その後すぐにバニーの教科書の紛失が発覚した。そして、焼却炉でこれが見つかったよ」
アリトンが誇らしげに半分焦げた教科書らしきものを掲げた。エマはわざと扇を外して大きくため息をついた。
「なっ! お前っ!」
エマのその態度にアリトンが苛立った。そして、エマが言葉を発しようとした。それはユーティスに遮られた。
「シルビア。君も大概だねぇ。風魔法でバニーを階段から落とすなんて卑怯なことするなんてさぁ。
僕の魔法は君なんかよりずっと強力だから、助けることは簡単だったけどね。学園では魔法使用は記録されるんだ。そんなことも知らないの? まぬけだとは思っていたけどさぁ」
ユーティスはニヤニヤとしながら嫌味のように言葉を紡いだ。
シルビアはユーティスのひげた笑いに嫌悪感を抱いた。
それでもシルビアが焦ることもなく口を開く。しかし、それはサイドリウスに遮られた。
「キリ! お前も言ってやれっ!」
こうして冒頭へと戻る。
キリナートは舞台を駆け下り、呼び出された淑女たちの隣に立ち、舞台上のサイドリウスたちと対決姿勢を見せたのだった。
〰️
興奮気味にそれぞれ勝手なことを言った男たちに向き合ったキリナートは、まずその中でも高位であるサイドリウスに声をかけたのだ。
「殿下。いや今は友人として、サイラスと呼ばせてもらうよ。
サイラス。君は本当にこの状況を理解しているのかい?
俺から見たら……ちがうな……
お前達以外の者から見たらお前達は異様だぞ」
サイドリウスはキリナートの言葉が信じられず、目を見開いてキリナートを見た。キリナートだけではない。バニラもアリトンもユーティスもビリードも驚きを隠せていない。
しかし、キリナートからすればそんなに驚かれることはしていないと思っている。驚いているのはキリナートの方だ。
「お前達の婚約者の方々への暴言は勝手だが、俺に『お前も言ってやれ』とはどういう意味だ?
なぜそんな誤解をされているのか…………全くわからない」
キリナートは両腕を胸の前で組んで眉を寄せ訝しんだ顔をした。舞台の五人は顔を見合わせて何が起きているのかを確認しようとしていたが誰もわかっていない。
「サイラス。ここでのその行い。普通じゃないと思わないのか?」
サイドリウスは口をポカンと開けた。しばらくして口をパクパクさせたが、混乱しているのか声にはなっていなかった。
「サイラスにはまた後で聞くからいいや」
キリナートはどうやら答えられない様子のサイドリウスを後回しにすることにした。
サイドリウスは馬鹿にされたように感じて少し苛立ちを見せたが、キリナートの行動に発言を戸惑っていて、どうするのが正解なのか考え倦ねているようだ。王族らしく少しは危機回避能力はあるのかもしれない。
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