第6話 生徒会室

 夏休み、ユーティスは家には学園へ魔法の訓練に行くと言ってバニラの寮の部屋へ行っていた。夏休みなので寮監はおらずバニラの同室者は帰省している。


 アリトンは家には図書館へ行くと言ってバニラを市井へと誘った。二人きりになれる店へと足繁く通っていた。


〰️ 〰️ 〰️


 夏休み明けの生徒会室ではいつの間にかメイドがあまり来なくなっていた。


「私は平民出身なのでお茶くらい淹れられます。今日もお菓子を作ってきたんですよ」


 こうして、お茶の準備はすべてバニラがするようになっていた。


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 ある日の放課後の生徒会室。

 サイドリウスは一人で執務を行っていた。


 もうすぐ下級生と世代交代だ。少しでもわりやすいようにと、生徒会の動きについて気がついたことをまとめていた。長めの金髪を後ろで一つに括り真剣に取り組んでいる。


 そこへバニラが一人で入ってきた。


「サイドリウス様。お一人で頑張っていらしたのですか?」


 大きなヘーゼルの瞳をキラキラとさせて小首を傾げると、チョコレート色の髪がふんわりと揺れた。ぷっくりとした桃色の唇はいつでも少しだけ口角を上げていて優しく笑っている。

 サイドリウスはそれを眩しそうに見た。サイドリウスはバニラを見ると胸に痛みを感じるようになっていた。


「ああ。君たちに残せるものはキチンとしたくてね」


 サイドリウスはバニラを見ていられなくてノートに目を戻した。


「じゃあ! お茶、淹れますね」


 バニラが弾むように歩いて簡易キッチンへ消える。


「すまないね。頼むよ」


 キッチンへ向かうバニラの残り香がサイドリウスを包み込む。サイドリウスは気が付かぬ間に大きく息を吸っていた。


 しばらくすると、サイドリウスの執務机に紅茶が淹れられバニラ特製のクッキーも添えられていた。

 サイドリウスはクッキーに手を伸ばす。甘さを抑えたクッキーは今やサイドリウスの好物といって間違いなかった。


「そんなに根を詰めて何を書いているのですか?」


 バニラが椅子に座るサイドリウスの左にピッタリとくっついた。夏服の二人の腕は直に触れ合っている。


「あ、その……」


 サイドリウスは少しだけ忠言をしようとした。しかし、バニラに下から顔を覗き込まれ戸惑った。


「サイドリウス様の瞳ってキレイ……」


 サイドリウスは流れるような金髪に長い睫毛に縁取られたアメジストの瞳凛々しく整った容姿は、本人も悪くないと自覚している。しかし、それを面と向かって言われるのは照れくさい。


 サイドリウスは頬を染めてバニラから視線を外した。


「あ、コホン! これは俺が生徒会をやってみて気がついたことや注意点などを残しているんだ」


 サイドリウスはノートを見たまま話題を変えることを言った。


「まあ! すごい!」


 バニラの空いている左手をサイドリウスの左手に重ねた。サイドリウスの左腕とバニラの右腕はまだピッタリと触れており、しっとり汗を感じた。それでも離したくないとサイドリウスは思ってしまっていた。

 サイドリウスはその触れている腕やバニラに握られた左手を少しの微笑みを持って見ていた。


 ほんの少しの間の後、バニラが戸惑うように口を開いた。


「でも……でもね……そんなに完璧でなくてもいいんですよ」


 バニラの言葉にサイドリウスは肩を揺らしてしまった。見開いた目はバニラを見ることもできず、握られた左手を凝視していた。凝視しているが頭には映ってはいない。


「完璧な人なんていないわ。サイラスも完璧である必要はないわ。もっと私を頼って」


 サイドリウスは心の衝撃が強すぎて、愛称呼びされたことを自然に受け入れていた。


 ゆっくりと左手からバニラへと視線を動かした。サイドリウスにはバニラの微笑みが女神の微笑みのように感じた。

 サイドリウスはバニラの瞳に吸い込まれていた。だから、瞳が近づいてきたことも、その瞳が伏せられ長い睫毛を見つめていたことも、唇に柔らかい感触を感じたことも、全て受け入れてしまっていた。


「お願い……サイラス。無理……しないで。私、貴方が倒れるようなことになったら……生きていけないわ」


 サイドリウスはバニラの頭を引き寄せ今度は自分から唇を重ねた。


〰️ 


 それからというもの毎朝花壇前のベンチには、手を繋いで座っているサイドリウスとバニラが見受けられるようになった。

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