第40話 俺は、あの時、どんな発言をすればよかったのだろうか?
倉持晴希は彼女の家を後にし、岐路についていた。
すでに、夜八時頃。
外はもう暗い。
晴希は少し早歩きになった。
自宅に向かう時間が少々遅れたのである。
あまり時間が遅くならない程度に帰ろうと思う。
「それにしても、美味しかったな」
今、晴希の空腹は満たされていた。
夕食は、諸星穂乃果の家でとってきたからだ。
それに関しては問題ない。
晴希は穂乃果の家で食事をとっていた時のことを振り返り、彼女の家の印象を思い出す。
落ち着いた家の空気感。
明るさはなかったものの、家族らしいものは感じた。
両親がいなかったとしても姉弟同士で助け合っている。
そんな関係性。
穂乃果の弟は、まだ小学五年生らしいが、不満な態度を見せることなく、明るく活発的。
彼女が夕食を作っていると、弟も協力していた。
晴希が出る幕はなく、二人が料理を作っている際、ただ、リビングで待っているだけになっていたのだ。
何かすればいいと思ったが、晴希が関わるスキはなかった。
それよりも、姉と弟の大事な時間を奪いたくないと思い、余計に料理を手伝うことはしなかったのだ。
姉である穂乃果に頼ることなく、基本的に自立している弟。
弟は自分にできることは一人でこなしていた。
活発的で優秀とは、穂乃果も助かっていることだろう。
晴希は、そんな弟を持つ穂乃果と付き合っているのだ。
彼女と変に関わって、弟に迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、穂乃果との関わり方をもう少し感が直した方がいいと思ったのだ。
料理が終わった後、三人で食事をすることになった。
それと、穂乃果の家を後にする際、彼女はハッキリとは言ってこなかったが、多分、一緒に居てほしいという表情を見せていた。
けど、弟がいるため、彼女は泊っていってとは自発的に言い出しづらかったのかもしれない。
明日も普通に学校であり、付き合っているからと言って、余計に長居するのも気が引ける。
弟も、見ず知らずの人がいても困るだろうと、晴希はそう考え、先ほど彼女の家から立ち去ったのだ。
余計に姉弟同士の生活にはあまり干渉しないことにした。
晴希にとっては的確な判断だと思ったからだ。
そして今、晴希は電灯が道を照らす場所を移動していた。
完璧に真っ暗になる前に到着したい。
次第に、早歩きになる。
そんな中、自宅へ向かう途中にコンビニが見えた。
晴希はそこで一旦、立ち止まる。
「何か買ってから帰ろうかな……」
自宅に帰っても、何も作り置きすらしていないのだ。
朝のことを考えれば、何かを仕入れておいた方がいいだろう。
晴希は、コンビニに入店する。
店内はそこまで混んでいない。
数人のお客がいる程度の環境。
晴希は店内をあっさりと回って歩き、何を購入しようかで悩む。
弁当やおにぎりとかは殆どない。
パンは残っているため、それを購入しておくことにした。
それと、会計の近くにあるガラスケースの中にある、コロッケを選び、同じく会計を済ませたのだ。
晴希は店員から商品の入ったレジ袋を受け渡され、コンビニから出る。
袋の中身を確認し、明日の分は確保できたと思った。
あと立ち寄る場所はない。
晴希は再び自宅に向かって歩き出したのだ。
「……」
晴希は歩くたびに、気まずい感情に圧し潰されそうになった。
それは彩葉の件である。
彼女の家は、晴希の近くに位置しているのだ。
だから、必然的に、彩葉の家の近くを通ることになる。
色々と世話になったのに、強引な距離の取り方をしてしまったと、今、強く思う。
そういうことがあってから、彼女の近くを通ると、心苦しくなるのだ。
彩葉と気兼ねなく会話できるなら、彼女は勝手に家に来て、料理とかを作ってくれるかもしれない。
けど今は、彼女からの連絡があまりないのだ。
晴希の方から連絡しても、簡単な返事しかなかった。
冷めてしまった関係性のように感じる。
けど、長年一緒に関わりのある存在。
そうそう、関係に亀裂は入らないと思うが、晴希は心が痛んだ。
この前、穂乃果と付き合うと言ってから、出会う頻度が少なくなっているのは事実。
それが一番の原因である。
ただ、大学が忙しくなっただけかもしれない。
憶測であり、本当の結論には至れなかったのだ。
あの時、どんな発言をすればよかったのだろうか?
穂乃果と付き合うと直接言わず、遠回しに断る感じにした方がよかったのだろうか?
一緒に付き合ってもらって、あの発言はよくなかった。
今考えれば、そう思う。
あとで、もう一度、会話しておいた方がいい。
晴希はコンビニの袋を持っている逆の手で、制服のポケットから取り出したスマホの画面を見る。
現時刻、八時半を少し過ぎた頃。
幼馴染ではあり、連絡しても問題はないかもしれない。が、今、距離感があり、連絡はできなかった。
「……」
仮に電話を掛けたとして、どんなことを言えばいいのだろうか?
少々戸惑い、やっぱり、今はやめておいた方がいいと自分なりに結論付け、スマホを制服のポケットにしまう。
「やっぱり、親しくても、夜とかに連絡はよくないよな……」
晴希は大人しくなっていき、落ち着いた面持ちで歩き方が遅めになる。
夜の時間帯に暗いことを考えてしまうと、みるみる内に気分が落ち込んでいく。
晴希は気分を切り替えることにした。
「あの、発言はよくなかったよな……」
晴希はトボトボと歩き、後で彩葉には伝えようと思ったのだ。
そんな中、遠くの方を見やると、誰かのシルエットがあった。
辺りは暗く、電灯だけで照らされた場所。
ハッキリとわからないが、その体つき、どこまで見たことがあるような気がした。
その人物との距離が近づくたびにわかる。
その子は、以前出会ったツインテールの女の子であった。
どうして、この時間にと感じつつ、彼女との距離がさらに狭まっていく。
その子は晴希と同じ学校の制服を身に着けている。
けど、考えてみれば、学校内では出会ったことがないのだ。
普段、何をしているのだろうか?
色々と怪しいところが多く、あまり視線を合わせないようにした。
けど、気になってしまい、彼女の方をチラチラと見てしまう。
そして、視線が合ってしまった。
彼女の瞳は、淀んでいた。
薄暗い環境だから、そう見えたのかもしれない。
けど、苦しそうな印象を受けた。
彼女から特に話しかけてくることはなかったのだ。
そのままどこかへと立ち去って行った。
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