後編 俺は学校一の美少女を、本当の恋人にしたい

第34話 晴希…私を慰めてほしいの…だからキスして…

 諸星穂乃果もろぼし/ほのかと正式に付き合うことになった。

 付き合うという判断をしたことに間違いはないと思う。

 倉持晴希くらもち/はるきはそう思いたいのである。


「おはよう」

「おはようー」

「それでさ、昨日、こういうのがあってさ」


 朝のHR前。晴希が登校し、校舎の廊下を歩いていると、辺りにいる人らの話が聞こえる。

 仲間内で恋愛話についての話題を取り扱っているようだ。

 けど、晴希はそういうのを気にすることなく、そそくさと教室へと向かった。


 教室に入るといつも通りといった感じ。

 高屋敷漣たかやしき/れんも普通に、仲間内と会話している。

 晴希は椅子に向かっていく最中、漣と視線が合うものの。彼は気まずそうに顔を逸らす。


 昨日、ファミレスでやり取りを行ったのである。

 漣は責任をすべて自分が背負うとかで、一応話を結論付けさせたのだ。


 その言葉が本心かどうかはおいて、漣は、穂乃果とは恋人同士の関係ではなくなった。

 だから、晴希も心置きなく穂乃果と付き合える。

 ただ、学校内では、漣と穂乃果が付き合っているというのが前提であり、その二人が別れたという雰囲気的な噂が流れるまで。晴希は学校で、穂乃果とは友達という間柄で関わるつもりだ。


 学校外では普通に付き合うとして、噂が定着するまでは余計に行動しない方がいいと思った。

 晴希は窓際寄りの席に座り、朝のHRが始まるまで適当に過ごすことにしたのだ。


「……」


 晴希は無言でスマホを片手に、昨日の夜、メールに打ち込んだ文章を読み直した。


 彩葉に送るための文章。

 けど、送らなかった。ただ、保存しているだけである。

 口頭で話したから追撃するように送る必要性もないと思った。


 それと、昨日の彩葉の表情を忘れることができず、消せなかったという理由もある。

 色々な思惑が脳裏をよぎり、消すという行為に躊躇いがあったのだ。

 今は、彩葉の表情を忘れないという、自分に対する戒めとして、心に留めておこうと思った。


 そんな中、仲間内で会話している穂乃果と視線が合う。

 けど、彼女はサッと視線を逸らす。


 漣同様、対応の仕方は不可解だった。

 穂乃果も今まで通り、学校関係者が見ている環境下では、晴希と一定の距離を置いて関わりたいのかもしれない。


 晴希はスマホを弄り、何となくHRが始まるまで時間を潰すのだった。






「あのね、一応話しておきたいことがあるの」


 誰もいない校舎の一室。

 そこで晴希は、壁に背を付ける穂乃果と向き合っていた。


「話しておきたいことって?」

「それは、私のことなんだけど」


 穂乃果は躊躇いがちな口調になる。

 言いたいけど、言えないような素振りを見せていた。


 話したいことがあれば、なんだって聞くつもりだ。

 晴希は穂乃果と付き合っている関係。


 恋人であれば、話を聞き、何かしらの形で助けてあげるのが普通だと思っている。

 実際のところ、その問題を解決できるかは定かではないが、できる限りのことをしてあげたい。

 そんな思いがあった。


「私ね……晴希と付き合うに至ってね。隠し事はよくないと思ったの。でも……やっぱり、今日の放課後でもいい?」

「いつでもいいよ。穂乃果が話したい時に話せばいいから」

「……」


 穂乃果は嬉しそうに無言で頷いた。

 彼女が喜んでくれるならいい。

 晴希はそう考えていた。


 でも、話しておきたいことって何だろうか。

 そこらへんが疑問点である。


「で、でも、変な話じゃないから。そこは誤解しないでね」 


 穂乃果は慌てていた。


「逆に、変な話をされても困るけどね」


 晴希は苦笑いをした。

 適度に、その場の空気感を落ち着かせたのである。


「ねえ、晴希? あのね、他にもしてほしいことがあって」


 穂乃果は距離を詰めてくる。

 晴希は首を傾げ、彼女を伺う。


「私を……慰めてほしいの」

「え? 急に、なんでここで?」

「私……昨日、寂しかったの」

「寂しかった? どうして? 昨日は親戚の人とか、弟とかいたんでしょ?」

「うん」


 穂乃果は悲し気な瞳で頷いた。


「でも、昨日は晴希と一緒じゃなかったし。一緒に夜を過ごした時のことを忘れられなかったの」

「忘れられないって。なんか、意味深だね……」

「晴希には、そう思ってほしいかな」

「……なんか、その……急に気まずくなってきたというか……」


 真剣な表情で距離を詰められると、ドキドキする感情からは逃れられないのだ。

 しかも、穂乃果はおっぱいを押し当ててくる。

 その女の子らしい膨らみに晴希の精神状態は、ちょっとばかり制御しづらくなっていた。


「ねえ、私と……シてよ……」


 穂乃果は本気である。


 今、誰からも見られていない環境下。

 だから、ここでキスをしたとしても、多分、バレることはないだろう。


 けど、以前のように日葵に見られていないか、少々不安だった。


「……」


 晴希は一応、確認を踏まえ、穂乃果のおっぱいを自身の胸辺りに感じつつ、空き教室の扉の方を見やった。


 誰もいない。

 視線も感じないのである。

 だから、大丈夫だと晴希は本能的に察したのだ。


「晴希……もう、付き合うことになったんだしいいでしょ?」

「……うん」


 晴希は無言で意思を伝えるように頷いた。

 誰もいない教室で、口づけを交わしたのだ。


 これで本当の意味で、恋人になれたのだろうか?

 表面上は、なれたのかもしれない。


 だから、今後は内面上も、恋人のようになれるように努力をしていこうと思ったのだ。


「……」

「……」


 二人は長い間、キスをしていたと思う。

 互いの舌同士を絡ませ、十二分に愛の交流をした。


 晴希は初めて正式に女の子と付き合うことになり、少々緊張しているところがある。

 手が微妙に震えていたのだ。


 キスしている間、穂乃果と出会った時から今に至るまで、色々と振り返っていた。

 別のことを考えないと、胸の内に押し寄せてくる緊張感に負けてしまいそうだったからだ。


 口づけを交わしていると、次第に慣れてきて余裕を持てるようになってきた。

 だから晴希は。穂乃果を慰めてあげるように、両手を背中に回してあげたのだ。

 そして、抱きつき、抱擁する。


「……」

「……」


 ゆっくりと二人は体を離し、キスしたという余韻を感じつつ、気恥ずかしく、二人は視線を逸らす。


 キスする前は流れるような感じだったのに。キスした後は現実に戻された気分になり、一気に羞恥心に胸の内が侵略されるようだった。


「……なんか、恥ずかしいね。こういうの」

「……なんだよ、あれだけ、セックスしておいて」

「そ、それはそれ……だから」


 穂乃果は頬を紅葉させ、恥じらっている。


「……」

「……」


 二人は虚無の空間に閉じ込められたかのように、押し黙ってしまう。


「教室に戻ろっか……」


 穂乃果から話を切り出す。

 キスをしたことで、彼女は気楽になったためか、表情が緩んでいた。


「わ、私、最初に教室に戻ってるから」


 二人で移動することにまだ抵抗があるらしく、穂乃果は俯きがちに、教室から立ち去って行ったのだ。


 そもそも、漣と別れた瞬間から、新しい彼氏と馴れ馴れしくしていたら、変な噂が立つに決まっている。

 彼氏といっても、陰キャでキモいと言われている晴希なのだ。

 そんな人と関わっていたら、男女問わず、批判的な意見が飛び交うことだろう。


 晴希は、自分でそう思って、ため息を吐いてしまった。


 多少、胸に苦しさを抱きつつ、教室から立ち去ることにしたのだ。

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