第26話 一生のお願いがある…彩姉、僕と付き合ってほしい‼

 エッチなホテルを後に自宅に到着し、諸星穂乃果もろぼし/ほのかを、リビングのソファに座らせておいた。


 そんな倉持晴希くらもち/はるきは、自宅一階のとある部屋にいたのである。その空間には、近所に住む幼馴染――、天羽彩葉あもう/いろはがいたのだ。

 二人は向き合うように佇み、彼女の方は不安な表情を、晴希に向けている。


「ねえ――」

「あのさ――」


 二人の声が重なる。

 互いに、妙な空気感になり、おとなしくなった。


「ごめんね、ハルからでいいよ」

「いや、彩姉あやねえからでも」

「じゃあ、私からね……もしかして、あの子って、ハルの彼女ってことでいいの?」

「い、いや……」


 晴希は気まずげに否定的な反応を見せる。


 元々晴希は、彩葉と一緒に彼女というものができるまで、デートする練習をしようと約束していたのだ。

 けど、すでに彼女のようなものができたと、穂乃果を見た瞬間。彩葉は勝手に、そう思い込んでしまったようだ。

 それは誤解である。


「ねえ、もしかして、最初っから彼女いたの?」

「いたというか、なんというか。あの子はさ」


 あれ? 

 さっき、彼女ではないという趣旨を伝えたのに、どうして、穂乃果のことを彼女だと認識してるんだ⁉


「どうして隠していたの?」


 彩葉が晴希のことを心配げに見つめている。そして、少しだけ瞳を潤ませている感じだった。


「隠してたわけじゃ」

「嘘をついていたの?」

「ついてないから。ごめん、あの子は、彼女じゃ――」

「私、嘘をつかれていたんだね……悲しいから」

「だから、そうじゃないんだ」


 彩葉は、衝撃的な現状に混乱しているようだ。ゆえに、先走った発言ばかりをし、自己完結するような話し方になっているのかもしれない。

 どうにかして、誤解を取らなければ。


 どんな方法がいいだろうか?

 晴希は泣き目になっている彼女を見、思考する。

 あれ……?


 でも、彩葉は以前、彼氏とかがいるとか言っていたはずだ。

 じゃあ、なぜ、そこまで心配してくるのだろうか?

 不思議な思いを抱きつつ、再度、晴希は彼女を見やった。


「ごめんね……。私、ハルのために、夕食を作りに来たんだけど。彼女がいたら、私、迷惑だよね?」

「迷惑じゃない。むしろ、今日は一緒にいてほしいんだ」


 晴希は何が何でも彼女を引き留めようとする。


 今、リビングにいる穂乃果は異常だ。

 今日の朝まで二人っきりになったら、どうにかなってしまうのか、考えるだけで怖い。

 それだけ、彩葉の存在は、唯一の希望だったのだ。


「ごめんね。私、二人の事考えていなかったよね。じゃあ、帰るね。あと、スーパーで買ってきた食材は置いていくから」


 彩葉は、部屋の床に置かれた買い物袋を持ち上げ、晴希に渡してくる。


「それを使って、彩姉に作ってほしいんだ」

「どうして?」

「どうしてって、本当は彼女とは付き合っていないんだ。むしろ、た、たす――」


 その言葉を口にしようとした瞬間、晴希は寒気を覚えたのである。

 何かに魅入られているような、そんな感じた。


「どうしたの?」

「いや……」


 晴希は彩葉に首を傾げられる。

 晴希はゆっくりと、部屋の扉の方へと視線を向けた。


 誰もいない。

 そもそも、扉が開けられていないのだ。

 気のせいかと思った。


 多分、深く考え込みすぎである。

 何とか、心を落ち着かせ、彩葉を見た。


「私、何もなかったら、帰るね」

「待って」


 扉の方へ向かっていく彩葉の右腕を、晴希は掴んだ。


「私がいても困るでしょ?」

「困らない。むしろ、いてくれないとどうにかなりそうなんだ」

「どうにかなりそうって?」


 彩葉は立ち止まり、晴希が彼女の腕から手を離すと、振り向いてくれる。


「僕は、彼女から束縛され始めているというか、危ない感じの女の子というか」

「危ないの? 普通に見えたけど? ハルと仲良さそうに会話していたじゃない」

「それが、ヤバいというか」

「もしかして、地雷系とか?」

「そ、そう、なのかな?」


 地雷とは、外見は良いが、実際に付き合ってみると、おかしいところが明るみになってくる子のことだ。

 穂乃果は学校一の美少女であって容姿は良い。けど、数日間関わってみて、ジワジワとおかしいところが目立ってきている感じだった。


 けど、冷静になって考えてみれば、最初っからおかしかったかもしれない。

 公園で待ち合わせた時からだ。

 弟とはいえ、妙に距離感が近かったような気がする。


 その時、晴希は遠目からしか見ていない。

 だから、正確にはわからないが、ゆっくりと穂乃果の存在に、不気味さを感じるようになった。


「ハル? 大丈夫? 顔色悪いよ? やっぱり、今リビングにいる子は地雷系?」

「う、うん……多分、そうかも」


 晴希は正直に言った。


 この部屋に今、穂乃果の姿はない。

 だから、彩葉には言えるだけ、伝えた方がいいと思った。

 見られているかもしれない恐怖心に怯えながらも、晴希は小声で口にしたのだ。


 あまり大声で話すと、穂乃果の耳に入ってしまう。

 できるだけ、要点だけ踏まえ、彩葉へ伝えたのである。


「――――そういうことなんだ……」

「……それ、本当なの? だとしたら、大変ね」

「うん……本当なんだ。だからさ、どうしたら別れられるか、考えてほしいんだ」

「考える?」

「うん」


 晴希は頷くように答えた。


「それだけでいいの?」

「うん。本当にそれだけでいいんだ。だから、そのために、付き合ってほしいというか。付き合うとかより、以前彩姉が言っていた友達みたいな関係でもいいし」

「友達……付き合う……? 本当に付き合えるの?」

「ん? まあ、友達みたいな感じでいいから。お願い、彩姉」


 晴希は懇願するように言った。

 頭を下げて、必死さを伝えたのである。


「まあ、以前からハルとは約束していたことだし。ちょっと、ハルからの返事が遅れたけど。いいよ。けど、いつから友達として付き合う?」


 彩葉は何とか誤解を解いてくれたようだ。


 ようやく、晴希の今の状況を把握し、協力してくれる意向を見せてくれた。

 晴希はホッと胸を撫でおろす。


 最初、どうなるかと思ったが、話の分かる人でよかったと思う。


「ねえ、ハル?」

「ん? なに?」

「じゃあ、ハルに抱きついてもいい?」

「え? ど、どうして⁉」


 晴希は動揺し、後ずさった。

 何を急に言ってくるんだと、晴希は眼をキョロキョロさせ、脳が混乱する。


「だって、昔は普通に抱きついて、私が寝てあげたじゃない」

「そ、それは……昔だろ……小学生の時とか」

「そうだよ。でも、いいじゃん、久しぶりに♡」

「でも……」

「付き合うんだし、それくらいしてくれないと、私、悲しいかな」


 晴希が考える間もなく、唐突に彩葉が抱きついてきたのだ。


「ね、ハル。これからよろしくね♡」

「う、うん……」


 女子大生風の匂いと、私服越しに伝わってくるおっぱいの膨らみに圧倒され、胸の内がドキドキし始める。


 これが正解なのか?

 ――と、晴希は彩葉に抱きつかれたまま、思うのだった。

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