第26話 一生のお願いがある…彩姉、僕と付き合ってほしい‼
エッチなホテルを後に自宅に到着し、
そんな
二人は向き合うように佇み、彼女の方は不安な表情を、晴希に向けている。
「ねえ――」
「あのさ――」
二人の声が重なる。
互いに、妙な空気感になり、おとなしくなった。
「ごめんね、ハルからでいいよ」
「いや、
「じゃあ、私からね……もしかして、あの子って、ハルの彼女ってことでいいの?」
「い、いや……」
晴希は気まずげに否定的な反応を見せる。
元々晴希は、彩葉と一緒に彼女というものができるまで、デートする練習をしようと約束していたのだ。
けど、すでに彼女のようなものができたと、穂乃果を見た瞬間。彩葉は勝手に、そう思い込んでしまったようだ。
それは誤解である。
「ねえ、もしかして、最初っから彼女いたの?」
「いたというか、なんというか。あの子はさ」
あれ?
さっき、彼女ではないという趣旨を伝えたのに、どうして、穂乃果のことを彼女だと認識してるんだ⁉
「どうして隠していたの?」
彩葉が晴希のことを心配げに見つめている。そして、少しだけ瞳を潤ませている感じだった。
「隠してたわけじゃ」
「嘘をついていたの?」
「ついてないから。ごめん、あの子は、彼女じゃ――」
「私、嘘をつかれていたんだね……悲しいから」
「だから、そうじゃないんだ」
彩葉は、衝撃的な現状に混乱しているようだ。ゆえに、先走った発言ばかりをし、自己完結するような話し方になっているのかもしれない。
どうにかして、誤解を取らなければ。
どんな方法がいいだろうか?
晴希は泣き目になっている彼女を見、思考する。
あれ……?
でも、彩葉は以前、彼氏とかがいるとか言っていたはずだ。
じゃあ、なぜ、そこまで心配してくるのだろうか?
不思議な思いを抱きつつ、再度、晴希は彼女を見やった。
「ごめんね……。私、ハルのために、夕食を作りに来たんだけど。彼女がいたら、私、迷惑だよね?」
「迷惑じゃない。むしろ、今日は一緒にいてほしいんだ」
晴希は何が何でも彼女を引き留めようとする。
今、リビングにいる穂乃果は異常だ。
今日の朝まで二人っきりになったら、どうにかなってしまうのか、考えるだけで怖い。
それだけ、彩葉の存在は、唯一の希望だったのだ。
「ごめんね。私、二人の事考えていなかったよね。じゃあ、帰るね。あと、スーパーで買ってきた食材は置いていくから」
彩葉は、部屋の床に置かれた買い物袋を持ち上げ、晴希に渡してくる。
「それを使って、彩姉に作ってほしいんだ」
「どうして?」
「どうしてって、本当は彼女とは付き合っていないんだ。むしろ、た、たす――」
その言葉を口にしようとした瞬間、晴希は寒気を覚えたのである。
何かに魅入られているような、そんな感じた。
「どうしたの?」
「いや……」
晴希は彩葉に首を傾げられる。
晴希はゆっくりと、部屋の扉の方へと視線を向けた。
誰もいない。
そもそも、扉が開けられていないのだ。
気のせいかと思った。
多分、深く考え込みすぎである。
何とか、心を落ち着かせ、彩葉を見た。
「私、何もなかったら、帰るね」
「待って」
扉の方へ向かっていく彩葉の右腕を、晴希は掴んだ。
「私がいても困るでしょ?」
「困らない。むしろ、いてくれないとどうにかなりそうなんだ」
「どうにかなりそうって?」
彩葉は立ち止まり、晴希が彼女の腕から手を離すと、振り向いてくれる。
「僕は、彼女から束縛され始めているというか、危ない感じの女の子というか」
「危ないの? 普通に見えたけど? ハルと仲良さそうに会話していたじゃない」
「それが、ヤバいというか」
「もしかして、地雷系とか?」
「そ、そう、なのかな?」
地雷とは、外見は良いが、実際に付き合ってみると、おかしいところが明るみになってくる子のことだ。
穂乃果は学校一の美少女であって容姿は良い。けど、数日間関わってみて、ジワジワとおかしいところが目立ってきている感じだった。
けど、冷静になって考えてみれば、最初っからおかしかったかもしれない。
公園で待ち合わせた時からだ。
弟とはいえ、妙に距離感が近かったような気がする。
その時、晴希は遠目からしか見ていない。
だから、正確にはわからないが、ゆっくりと穂乃果の存在に、不気味さを感じるようになった。
「ハル? 大丈夫? 顔色悪いよ? やっぱり、今リビングにいる子は地雷系?」
「う、うん……多分、そうかも」
晴希は正直に言った。
この部屋に今、穂乃果の姿はない。
だから、彩葉には言えるだけ、伝えた方がいいと思った。
見られているかもしれない恐怖心に怯えながらも、晴希は小声で口にしたのだ。
あまり大声で話すと、穂乃果の耳に入ってしまう。
できるだけ、要点だけ踏まえ、彩葉へ伝えたのである。
「――――そういうことなんだ……」
「……それ、本当なの? だとしたら、大変ね」
「うん……本当なんだ。だからさ、どうしたら別れられるか、考えてほしいんだ」
「考える?」
「うん」
晴希は頷くように答えた。
「それだけでいいの?」
「うん。本当にそれだけでいいんだ。だから、そのために、付き合ってほしいというか。付き合うとかより、以前彩姉が言っていた友達みたいな関係でもいいし」
「友達……付き合う……? 本当に付き合えるの?」
「ん? まあ、友達みたいな感じでいいから。お願い、彩姉」
晴希は懇願するように言った。
頭を下げて、必死さを伝えたのである。
「まあ、以前からハルとは約束していたことだし。ちょっと、ハルからの返事が遅れたけど。いいよ。けど、いつから友達として付き合う?」
彩葉は何とか誤解を解いてくれたようだ。
ようやく、晴希の今の状況を把握し、協力してくれる意向を見せてくれた。
晴希はホッと胸を撫でおろす。
最初、どうなるかと思ったが、話の分かる人でよかったと思う。
「ねえ、ハル?」
「ん? なに?」
「じゃあ、ハルに抱きついてもいい?」
「え? ど、どうして⁉」
晴希は動揺し、後ずさった。
何を急に言ってくるんだと、晴希は眼をキョロキョロさせ、脳が混乱する。
「だって、昔は普通に抱きついて、私が寝てあげたじゃない」
「そ、それは……昔だろ……小学生の時とか」
「そうだよ。でも、いいじゃん、久しぶりに♡」
「でも……」
「付き合うんだし、それくらいしてくれないと、私、悲しいかな」
晴希が考える間もなく、唐突に彩葉が抱きついてきたのだ。
「ね、ハル。これからよろしくね♡」
「う、うん……」
女子大生風の匂いと、私服越しに伝わってくるおっぱいの膨らみに圧倒され、胸の内がドキドキし始める。
これが正解なのか?
――と、晴希は彩葉に抱きつかれたまま、思うのだった。
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