第24話 漣の、あの言葉って、そういう意味だったのか?

「晴希って、ここら辺がいいんでしょ?」

「……」


 倉持晴希は無言で頷く。


 体に刺激を受け、それが限界だった。

 今、諸星穂乃果から体を触られている。

 彼女の手つきは程よい。が、少々強引すぎるところがあった。

 特に下半身のアレが気持ち良すぎて抵抗しづらいのだ。


 晴希は決して、性的な行為が嫌いなわけではない。

 今は体を軽くビクつかせながらも、彼女の行為を受け入れることにした。


「ねえ、晴希? もう出したら? 我慢の限界近いでしょ?」


 ――と、穂乃果は厭らしく口から出した舌で晴希の右頬を舐める。

 唾液交じりの舌は、しまいに晴希の口の中に入るのだ。


「……」

「……」


 数時間前にも口づけを交わしたばかりなのに、穂乃果のキスは激しいものだった。

 よっぽど欲求不満だったのかもしれない。


 しかしながら、昨日、彼女の家のベッドで、何度かセックスをした。晴希からしたら、十分なほど行為に及んだはずである。

 穂乃果の性欲は、そうそう収まることはないらしい。


「――ッ⁉」


 晴希はさらに体をビクつかせた。

 痙攣とまではいかないが、体に負担がかかる。


「そろそろ?」


 穂乃果は晴希の口から舌を離すと、耳元で囁く。


「ねえ、出して」

「――ッ⁉」


 晴希は射出した。


 アレの先端から出したことで気分がよくなる。堪える必要性もなくなり、胸を撫でおろす。

 いつまで、こんなことを続けなければいけないのだろうか?


「……穂乃果? そろそろ帰りたいんだけど……」

「帰る……の?」


 穂乃果は首を傾げる。


「う、うん」


 晴希は恐る恐る頷くだけだった。


「男の子なのに、もう終わりにするの? 晴希にはもっとしてほしいこと、いっぱいあるのに」


 今、穂乃果の言葉は、悪魔の囁きのように聞こえてしまう。

 魅入られてしまった以上、逃れることなんてできないらしい。


「というか、あと三十分、ね♡」


 穂乃果は優しく問いかけてくる。

 晴希はゾッとし、性的な余韻に浸る暇さえない。


 朝の時よりか体調は良くなったものの、まだ完璧ではないのだ。

 だから、本当に、この行為を終わらせたかった。


「チェックアウトまで、あと三十分でしょ?」

「……そうなのか?」

「そうだよ? 私、ちゃんと確認してたんだから♡」

「……」


 晴希は穂乃果に従うことにした。

 彼女の瞳は本気である。

 従わなければ、何をされるか分かったものではない。


 学校でも着崩した制服姿の穂乃果からキスを強要されたのである。

 ただ、学校にいる際、保健室の先生が戻ってくるのを多少なりとも恐れ、性行為までは及ぶことはなかった。


 学校終わりの放課後の今、二人がいる場所。

 それはエッチな方のホテルである。


 晴希は午後、一応授業に出て、放課後は岐路につく。はずだった――

 しかし、現実は違った。


 自宅に向かう途中で、穂乃果と遭遇してしまい。そんな彼女から強引に、欲求のまま、街中の隠れ場所にあるホテルへと導かれたのだ。

 そして、今に至るということである。


 ホテルにチェックインしてから、多分、一時間以上経過しているはず。

 体感的に、全裸姿の晴希はそう感じたのだ。

 晴希同様、穂乃果も全裸姿であった。

 彼女は晴希の右腕に、ブラジャーすらもつけないおっぱいを押し付けているのだ。


 生の感触が伝わってくる。

 おっぱいを感じ、晴希の下半身はまた反応してしまった。


「晴希のエッチ。まだ、こんなにもおっきくして、まだ、やりたくてしょうがないんでしょ?」

「……」


 羞恥心に勝てなくて、俯きがちになってしまう。

 それに、エッチなホテルの雰囲気にまだ馴染めていないのもあった。


 穂乃果の方は抵抗なく、晴希との絡みを続けているのである。

 もしかしたら、何度か利用したことがあるのかもしれない。


「晴希? 私、もう我慢できないの。だから、やろ?」

「……もういいよ……」

「嘘。こっちの方は元気じゃん♡ 嘘はよくないよ、晴希?」


 穂乃果は自分勝手すぎる。

 晴希の都合なんて考えない。


 どうして、こうなってしまったんだ?

 元々、穂乃果とは、こんな勝手な人物だったのか?


 冷静になって思考できない今、考えれば考えるほどに脳内が混乱してくるようだった。






 晴希は今日の放課後。一人っきりになった時があった。


 今日は高屋敷漣と一緒に会話する予定だったこともあり。浮気のことを匂わさない感じに、晴希は穂乃果のことについて、漣に聞いた。その時、彼から告げられたのである。


 関わらない方がいいと――


 漣とはもう少し会話したかった。

 けど、漣は何かに怯えるように言葉を詰まらせ、それ以上にことは話してくれなかったのだ。


 今思えば、だからそうなのかと思う。


 以前、晴希は、穂乃果と一緒に朝、遅れて教室に入った時があった。

 その日、漣から――

 “でもさ、穂乃果となんかあったら、わかってるよな?”という言葉。


 あれは浮気をしているかどうかの確認ではなく、忠告だったのかもしれないと、今になって思う。


 晴希は今、瞳に映る穂乃果を見、さらにそう強く感じたのだった。






「晴希、シよ? 私、もう限界なの」

「……い、嫌だ」

「……どうして? エッチなこと好きでしょ? 昨日だって、いっぱいしたじゃん」

「けど、こういうのは、やっぱり……それにさ。まだ、漣とは別れていないんでしょ?」

「そうだよ。だから今、漣と日葵の周辺調査をしてるんだよ?」


 穂乃果は少しばかり焦った表情を見せる。

 今まで都合よく事が進んでいた彼女からしてみれば、今の晴希の発言は驚きでしかなかったようだ。


「なんで? どうして? さっき気持ちよかったでしょ?」

「そ、それは……よかったけど」

「ねえ、私の裸まで見て、なんでそんなこと言うの?」

「え?」


 晴希はドキッとした。

 悍ましい感情に心が支配され、胸の内が苦しくなる。


 穂乃果の表情が怖い。

 悪魔の眼に魅入られた感じであり、晴希は急に彼女から抱きつかれたのだ。


「どうして私から離れようとか、そんなことを言うの? どうして、なんで? なんで? なんでなの?」

「僕は…‥別に離れようとか、そんなんじゃないよ。ただ、断っただけで」

「でも、逃げるような顔してたじゃん」

「いや、誤解だ……そういうつもりで言ったんじゃない、から……」

「本当?」

「う、うん……本当だ」

「けど、言葉に間合いがあったよね? 何か隠していることあるの?」

「な、ないから」

「本当に本当? 心の底からそう言えるの? ねえ、本当に本心で言ってるの?」


 穂乃果は精神が暴走しているのか、彼女は自身をコントロールできなくなっている。

 その上、執拗に問いかけてくるのだ。


 彼女は怖い。

 言動そのものに恐怖を感じてしまうほどだった。


「本当だから」

「本当? 本当に本当なんだね?」

「うん、そう言ってるじゃん……」

「じゃあ、晴希の言うことを信じるね♡ 絶対に約束だから。今の言葉が、後で嘘でしたと言うのは無しだからね♡」


 そう言うと、抱きついていた穂乃果は、晴希をベッドに押し倒す。


「逃げないなら、最後にセックスしよ。そしたら、今日も私の家に来てよ♡」


 穂乃果は強引な感じに晴希の両腕を抑え、本能に赴くまま再びキスを迫ってきたのである。


 本当に、いつまでこの関係が続くのだろうか?


 晴希は絶望的な環境に身を投じつつ、そして、穂乃果と――

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