第23話 私ね…晴希から、もっと愛を感じていたいの♡
倉持晴希は具合が悪かった。
気分が優れない。
吐き気を催してしまう。
それほど、晴希は体に負担を抱えていたのである。
「はあぁ……んん……んッ」
晴希はその場でしゃがんだ。
校舎四階のお手洗い室の壁に背をつけていたが、ずっと立ち続けることなんてできなかった。
胸の内が締め付けられるような感じだ。
「今日は……授業出られるのか……」
朝のHR前までの少しの間、休息をとるため。心を落ち着かせるために、四階に訪れたはずだった。けど、それは本当に逆効果だったようだ。
ヤバい……吐きそうだ。
晴希は過去のことを振り返り、口内から何かが逆流してきそうな感じである。
晴希は頑張ってその場に立ち上がり、ふらついた足取りで、洗面器が設置された場所まで向かう。
「ん――ッ⁉ げほ――ッ」
一旦、晴希は吐き出した。
まさかとは思うが、今日の朝、穂乃果が作ってくれた朝食の中に変なものが入っていたのだろうか?
一瞬そう思ったが、けど……それは違うと結論付けた。
晴希は校舎四階に来てから体調を崩したのである。
諸星穂乃果が原因ではないだろう。
晴希はそう思い、顔を上げ、正面にあった鏡を見た。
顔が青ざめている。
元気な状態ではない。
本当に具合が悪そうな人の顔つきだ。
「やっぱり、授業は無理か……それどころか、この場所から移動できるかってことが問題だよな……」
晴希はお腹の部分を抑え、気が狂った感じに軽く笑って見せた。
気分が悪すぎて、おかしくなってしまったらしい。
晴希はまた、お手洗い室に縮こまるようにしゃがみ込んだ。
すべての原因。
それは確実に、黒木日葵に対して罰ゲームを押し掛けた人物である。
その人物らの話し声を、先ほど部屋の扉越しに聞いてしまったこと。それが、晴希に大きな影響を与えている。
口や態度などが悪い、彼女らに見つかる前に、急いでお手洗い室に駆け込んだ。
多分、あの彼女らにはバレてはいないだろう。
ただ、同時に、晴希も彼女らの姿を確認できていなかった。
一体、誰なのだろうか?
クラスも違うだろうし、確認の取りようがない。
でも、それ以上に、今悩んでいることがあった。
「やっぱり、僕は陰キャなんだな……」
穂乃果とセックスして、一応、色々な意味で変われたような気がした。
もしかしたら、その変化は単なる思い込みなのかもしれない。
体調が優れず、壁を背に、床にしゃがみ込んでいる晴希は、そう思う。
元からの陰キャの奴が、そうそう陽キャにも、普通の存在にもなれやしない。
やったからといって、学校の中でのポジションが変わるわけでもないのだ。
陰キャは陰キャらしく過ごした方がいいのだろうか?
そもそも、根暗な存在なんていない方がいいのかもしれない。
見下すような彼女らの発言を思い出すと、どんどんと気分が落ち込んでいく。
陰キャだから、彼女ができないのだと。
そういった思いを抱き、それが次第に悪循環になっていくのだ。
「……」
晴希はすぐには立ち上がれなかった。
怖いからだ。
頑張って教室に行ったとしても、誰からも相手にされやしないだろう。
いつも通りに一人で席に座り、ほとんど誰とも会話することなく学校から立ち去る。
そんなつまらない生活が待っているのだ。
だったら、教室には行きたくない。
もう帰りたかった。
「いつまでもここにいてもしょうがないし……」
晴希はしゃがみ込んだまま、スマホを見る。
画面を見、時間を確認した。
後、五分ほどで朝のHRが始まる予鈴が、校舎内に響き渡る頃合い。
「……あともう少し、ここに居よう……」
予鈴が鳴り響いて、少ししたら移動しようと思う。
まだ、朝のHRが始まる直前までは、校舎内で人の動きが多い時間帯であり、余計に行動したくなかった。
「……」
晴希は無言だった。
基本的に誰も訪れない校舎の四階。
今は誰の足音も聞こえない。
お手洗い室の扉を閉め切っているから、聞こえないだけかもしれないが、多くの人が通う学校の中で孤独を感じていた。
「……」
刹那、ようやく予鈴が鳴り響いた。
晴希からしたら、絶望的なチャイムのように聞こえてしまう。
「……」
晴希は頑張って立ち上がる。
胸に苦しみを抱えたまま、ゆっくりと歩き始めて、ようやくといった感じに、お手洗い室の扉に手をついた。
「はあぁ、はあぁ……」
息がつらい。
何とか、扉を開け、廊下に出る。
誰もいないことを確認してから、一歩ずつ前進した。
誰にも気づかれないように歩き、階段のところまで到達する。
この下には、多くの人がいるのだ。
そう思うと足が竦んでしまう。
怖かったのだ。
けど、勇気を持ち、一歩ずつ階段を下りていく。
そして――
三階に続く階段を下っている時、その途中辺りで体がフワッとなったのだ。
その瞬間から、晴希の意識は途絶えたのであった。
「ねえ……」
誰かの声が聞こえた。
「ねえ、起きてよ、晴希――」
また、聞こえる。
晴希の心に響くような話し方。
背に柔らかい感触を抱きつつ、ゆっくりと瞼を見開く。
「ねえ、晴希? ようやく目が覚めた?」
「……諸星さん……?」
「違うでしょ、穂乃果って呼んでよ、晴希?」
「え……ああ、そういえば、そういうことになっていたね」
晴希は昨日のことを朧気な記憶を頼りに振り返った。
気分が優れず、すぐには思い出せなかったが、ジワジワと脳内に戻ってくる。
そんな晴希の体は今、ベッドで仰向けになっていたのだ。
穂乃果は晴希の体に跨っていた。
「僕って……」
「晴希、三階の廊下で倒れこんでいたんだよ? 生徒会役員の人が、HRに向かう途中で気づいて、ここまで送ってくれたの覚えていない?」
「……わ、わからない」
「そう? まあ、意識が朦朧としていたみたいだし。しょうがないね」
穂乃果は微笑んでくれる。
「というか、ここ、保健室なの?」
「そうだよ」
穂乃果は優しく返答してくれた。
「けど、他の人の声とか聞こえないけど?」
二人がいるベッドの周りは、白いカーテンのようなもので遮られている。ゆえに、室内全体を見渡すことなどできなかった。
天井を見れば、一応、明かりはついている。
けど、保健室の先生らしき声が聞こえない。それに、誰かの歩く足音すらも響かないのだ。
本当に保健室なのか?
だとしたらなぜ、確認のために保健室の先生は来てくれないのだろうか?
「保健室の先生のこと? 先生なら来客が来ているから職員室隣の訪問室にいるよ」
「え? ……そうなの?」
「うん」
「なんで知ってるの?」
「だって、先生がその場所に向かって歩きながら、学校の外部の人と会話しているのを見かけたからよ」
「そう、なんだ……」
「うん」
穂乃果は明るく頷いた。
晴希も彼女と会話していると不思議と心が安らいだ。
「晴希? 今、保健室には誰もいないし。キスしよ」
「え……?」
一瞬、脳がバグッてしまったのかと思った。
けど、それは違う。
穂乃果の発言は本当であり、晴希の聞き間違いではなかった。
彼女は晴希の体に跨ったまま、お腹のところまでやってくる。
しかも、穂乃果の制服は乱れているのだ。
昨日見たおっぱいの谷間が見えた。
「ねえ、晴希? 舌出して。私、もっと、晴希から愛を感じていたいの♡」
「……」
晴希はまだ体調が優れない。けど、穂乃果は積極的である。
晴希は穂乃果に体を抑え込まれ、流されるまま、そして舌を絡ませた。その後、深いキスを交わした――
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