第21話 晴希は私のこと…裏切らないよね?

 倉持晴希は彼女の中に出した――






「晴希って、やればできるじゃん」

「う、うん……」


 頷くように返答した。

 晴希は今、諸星穂乃果同様、一緒にベッドで仰向けになっていたのだ。


 互いに全裸であり、隠すことすらしない。

 すべてが曝け出されている。

 だがしかし、穂乃果と性的なことをして完璧に迷いが吹っ切れたわけじゃなかった。


 まだ、彼女とセックスしたことが信じられない。

 晴希はゆっくりと深呼吸をして、胸を撫でおろす。

 そして、部屋の天井を見た。

 晴希は思う。

 そもそも、この部屋はどこなんだろうかと。


 多分、穂乃果の家のどこかの部屋であることは間違いない。

 ただ、女の子がどうやって、この部屋まで運んだのだろうか?

 そこが気になるところだった。


「ねえ、諸星さんって、何が目的なの?」

「何って……。私ね、晴希と一緒になりたかったの」

「一緒に? どうして?」

「どうしても……」


 穂乃果は声のトーンを落とし、抱きついてくるのだ。


「晴希、今はそんなこと考えないで。私はただ、晴希と一緒に入れればいいの」

「よくわからないよ。僕は諸星さんの考えていることがよくわからないから……」


 意味不明すぎて、晴希は困惑していた。


「晴希……苗字じゃなくてもいいから……下の名前で呼んでよ」

「下の名前?」

「うん……」


 穂乃果の体の温かさ感じる。

 全裸同士の接触。

 晴希は穂乃果から抱きしめられ、右腕が二つの膨らみに包み込まれていた。


「ねえ、晴希……。呼んでよ、私の下の名前で……」


 妖艶な口調の彼女から右耳で囁かれる。

 晴希の胸の内がフワッとなるほど、体が温かくなるのだ。


「ほ、穂乃果……」

「うん、なに?」

「……言ってって言われたから、言っただけだけど……」


 晴希は自分で言ってて恥ずかしくなった。


「なんか、晴希の反応の仕方、面白いんだけど」


 穂乃果はおっぱいを押し当てながら、優しく笑いかけてくる。

 彼女の一つ一つの反応が、晴希の心を擽るのだ。


 晴希は嬉しかった。

 ようやく、一人の女の子から愛され始めているようで気分がよかったのだ。

 誰かと付き合うということは、こういうことなのだと晴希は知った気がする。


「ねえ、晴希。もう一回やる?」


 彼女は晴希の耳を舐めてくる。


「――ッ⁉」


 からだ全体に響き渡る刺激。

 神経すべてが、彼女によって支配されてしまったかのような状態になる。

 それゆえ、晴希にとっては反応に困ることが多かった。


 先ほどまで、童貞だった晴希は頬を紅葉させ、穂乃果の方を見ることができなくなる。シてしまった関係なのに、そういうところは、まだ羞恥心があるのだった。

 ところどころ、残念さが残る晴希である。


「へええ、恥ずかしいの?」


 穂乃果は小さめの声で問いかけ、晴希の胸のところを触る。


「――ッ⁉」


 また、晴希は感じてしまった。

 からだ全体の神経が過剰に反応してしまう。


「ねえ、ここより、あっちの方を触ってほしい?」

「いいよ……さっき十分、してもらったから……」

「そういうこと言って、やってほしいんでしょ? 私、わかってるんだから」


 穂乃果からの誘惑に負けそうになった。


「漣だったら、もっと受け入れてくれるのにー」

「……え?」


 なぜ、急に漣の話になったのだろうか?

 晴希は疑問を覚え、ようやく勇気を抱き、穂乃果の方を振り向くことができた。

 晴希は頬を紅葉させたまま、不安な表情を彼女に見せたのだ。


「気になる? 漣とやったか?」

「……」


 普通に気になる。


 冷静になって思えば、穂乃果は先ほど、“漣は童貞を卒業したよ”と言っていた。その童貞を卒業というのは、どういうことだ?

 まさか、穂乃果とやって、卒業したということなのか?


 わからないことだらけで晴希は戸惑う。

 知りたいけど、同時に知りたくないという感情にも追いやられてしまうのだ。


「ねえ、知りたい?」


 再度問われる。

 今後は、右耳を舌で舐めながら誘惑してくるのだ。


「――ッ」


 まだ、童貞を卒業したばかりの体では刺激が強い。


「いいよ……やっぱり」

「晴希の意気地なし……」


 ――と、穂乃果は優しく笑う。

 彼女の吐息が耳に触れる度、心臓がどきどきするのである。


 どうしたらいいんだ、これって……。

 戸惑いを隠しきれず、瞼を急に閉じた。


「晴希って、反応が童貞っぽいんだけど」

「しょうがないだろ……」


 卒業したからと言って、すぐに勇気を持てるわけではないのだと、晴希は思う。

 まだ、瞼を開け、現実を受け入れられるほど、精神力が昇華しているわけではなかったのだ。






「ねえ、晴希? 今日は泊っていったら?」

「でも、明日、学校だけど?」

「いいじゃん。もう、夜だよ? 十時に近いし、今外に出たら、絶対に警察に補導されちゃうよ? それでもいいの? 変に学校で目立っちゃうんじゃない?」

「それは嫌だな……」

「でしょ? だったら、私と一緒にいて……私、寂しいの。だから、もっと一緒にいたいなって♡」


 穂乃果はどうしても、晴希と一緒に居たいらしい。

 彼女から抱きつかれている今、そうそう逃れられるわけではなかった。

 今日は一緒に夜を過ごすとして、今後はどうするかだ。


 穂乃果とはセックスをしてしまったこともあり、普通の関係ではいられないような気がする。

 ただでさえ、この頃悩みが多かったのだ。

 まだ、誰にも言えない意味深な悩みが増えた感じだった。


「……そういえば、どうして、穂乃果は漣と、その……付き合うことになったの?」

「それはね。私の方から告白した感じ」

「そうなの?」

「うん」


 彼女は消えそうな声で返答してきた。


「元々好きだったし……でも、初めに浮気をしたのは漣の方だし……。私だって、最初は信じたくなかったの。日葵と付き合ってるなんて」


 穂乃果は悔しい表情を浮かべ、小さく呟いていた。


「私のどこがダメだったのかな? 私、普通に接していたはずなのに。だからね、漣が浮気しているのを知って、本当に腹が立ったのよ。今まで一生懸命に尽くしてきたのに。裏切るなんて……絶対にあいつの苦しむ姿を見ながら振りたいの」


 穂乃果の口調は、みるみる内に強くなっていくのだ。

 復讐心に満たされていくかのような態度に、当の晴希もたじたじだった。


「でも、晴希は私のこと裏切らないよね?」

「え?」

「だから、私の思いを裏切らないよねって? ねえ?」

「う、うん……当たり前だよ」

「だよね? そうだよね、晴希?」

「わかってるから、裏切りはしないよ」


 晴希は迫りくる彼女の声に、動揺し、怯え始めていたのだ。

 怖い。


 部屋は暗いものの、彼女の威圧的な態度だけは、ハッキリと肌を通じて伝わってくるようだった。


「それでさ……話は変わるけど。穂乃果はどうして漣のことが好きになったの?」


 気まずすぎて、唐突に話題を変えたのである。


「それは、去年、ミスコンがあったでしょ?」

「うん」

「その時よ。彼が手伝ってくれたから……あの時の漣は、もういないけど――」


 穂乃果は過去を振り返るように話し始めたのだった。

 晴希は真夜中になるまで、そのことについて聞かされる羽目になったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る