第20話 ねえ、晴希君…私、寂しいの。だから、私を慰めてよ…
「……⁉」
倉持晴希は、体に不思議な違和感を覚えた。
寒いとかではなく、風が、からだ全体を通り過ぎ、包み込むようだったからだ。
なんだろ……。
違和感しかなかった。
背中に柔らかい感触が伝わってくる。
もしかしたら、どこかのベッドで寝ているのかもしれない。
そういえば、先ほど、食事中だったような……。
振り返れば、そんな感じがした。
だが、そう思えば、どう考えてもおかしく感じ。そもそも、食事中であり、寝るという行為自体、変である。
晴希はすぐさま、その違和感の正体に気づくかのように、瞼をゆっくりと見開いた。
非常に眠く、瞼をこすりながら視界を安定させようとする。
まだ、ぼやけていた。
辺りは暗く、閉ざされた空間のような場所。
どこだ……?
晴希は視界が整ったとしても、よくわからなかった。
最後に残っている印象が、今と違っている故、脳内が混乱しているのだ。
「……天井……なのか?」
木製の板。
多分、今目にしているのは天井だと思った。
「ねえ、晴希君。もう起きたの?」
「え……んッ⁉」
晴希は甘えた彼女の話し方に戸惑いつつ、体をビクつかせた。
特に下半身に強い刺激が走ったのだ。
苦しい。
と同時に、気持ちよさを感じた。
これは――
晴希は気づいた。
今、自分が穂乃果からされていることに。
だから下半身へと視線を向けたのである。
「晴希君? ここら辺、気持ちいいんじゃない♡」
「んッ……」
晴希は再び体をビクつかせる。
起きてすぐに、そういう行為は辛い。
本当にやめてほしいとさえ思う。
その上、彼女からは下の名前で呼ばれているのだ。
急に、穂乃果との距離が縮まったような気がした。
「ねえ、そろそろ、出したら?」
「だ、出すって……ちょっと待って」
晴希は声を大きくして言う。
けど、下半身の気持ちよさには勝てず、穂乃果の意見に流されてしまうのだ。
「結構、正直じゃん、晴希君ってさ」
「どうして、そ、そんなことを?」
「いいから、今は静かに」
穂乃果からおとなしくするようにと注意を受けてしまう。
彼女は自分勝手すぎる。けど、気持ちよさを抗えないまま、晴希はふと思うことがあった。
だから、晴希は体を触ったのだ。
あれ? 服は……?
晴希は自分の体に何かを纏っている感じがしないのである。
まさか……⁉
衝撃的な真実に近づいてしまった。
「どうしたの?」
「僕って、服を着ていなかったっけ?」
「着てなかったよ」
「ほ、本当に?」
「うん♡」
穂乃果は晴希の下半身のところで、アレのお世話しながら返答する。逆にどこがおかしいのと言わんばかりのスタンス。
それと、晴希の視界が肥えてくると、さらに体が熱くなった。
特に胸元周辺である。
なんせ、晴希の下半身のところにいる穂乃果も服を着ていなかったからだ。
どこからどう見ても、制服とかを身に纏っている様子はない。
電気すらつけられていない環境下だが、彼女の白い肌が見えたことで、疑いが確信へと変わったのである。
「ど、どうして? 服を着てな――んッ⁉」
晴希は問いかけようとしたが、もう限界だった。
下半身のアレが、噴出したのだ。
そのあとに訪れる疲労感。
「いっぱい出たね♡」
「……」
晴希は恥ずかしくて、ベッドで仰向けになったまま、何も返答ができなかった。
晴希は両腕で顔を隠す。
恥ずかしい。
女の子よりも羞恥心を感じるのは男らしくないが、さすがにこんなやり方はありえなさすぎだ。
けど、どんなに嫌だったとしても、女の子からシてもらい、気持ちよかったと感じてしまったのは事実。
やはり、陰キャ童貞だったとしても性欲には抗えない。
その間に、穂乃果は近くになったティッシュで自身の手と、晴希のアレの周りを拭いていた。
「これで、後は問題ないね」
穂乃果はそう言い、使用済みのティッシュを、ベッド近くにあったゴミ箱に投げ入れる。
「ね、晴希君♡」
彼女は愛らしく妖艶な口ぶりで、晴希の右隣のベッドにダイブするようにやってきた。彼女は仰向けで一旦、天井を見ると、その後、隣にいる晴希を見つめてくるのだ。
「晴希君って、こういうの初めて?」
「……」
晴希は両腕で顔を隠したまま、羞恥心を堪えながら頷いて見せた。
「へええ、そうなんだ。まあ、そうだよね、彼女も今までいなかったからだよね。それでどうだった?」
「どうって……そんなの」
晴希は口をうまく動かせなかった。
男らしくないと思ってしまう。
それほど、心臓の鼓動がやけに激しくなり、うまく口から想いを吐き出せなかったのである。
「ねッ、晴希君って、童貞なんでしょ?」
「……」
なんで、そんなことを聞いてくるんだろうと思う。
そんなこと、わかってるだろと、晴希は心の中でツッコんだ。
「ここだけの話ね。漣は童貞卒業したよ」
穂乃果は晴希の体に寄り添うように近づき、耳元で囁くのだ。
晴希は変に意識してしまう。
そもそも、変にしか受け取れなかった。
「晴希君は悔しくない? 昔からの友人に先を越されてさ」
「……」
悔しい。
いつも一緒だった。
友人の漣とは、高校一年生の入学当初から同じであり、高校を卒業するまで、同じ道筋で生活していくものだと思っていたからだ。
恋人を作るのも同じ時期だと――
けど、現実は違う。
漣の方が先だった。
「嫌でしょ? じゃあ、ここで童貞を卒業しておくのも手じゃない?」
隣にいる彼女は、豊満な胸を晴希の右側の体に強く押し付けてくる。
おっぱいはデカいと思う。
暗くて、ハッキリとわからない。
普段は制服で隠された二つの膨らみが、今明かされている。
両腕で顔を隠しているものの、肌に伝わってくる柔らかい感触で、なんとなくデカいと感じたのだ。
晴希はおっぱいの誘惑と、漣に先を越されてしまったという辛い感情に、板挟み状態だった。
悔しいのか、嬉しいのか、よくわからなくなってしまう。
脳内の処理が追い付いていない。
晴希は困惑しながらも一度深呼吸をし、そして顔から両腕を離した。
「晴希君? ねえ、勇気を出したら? 晴希君って、この前だって、勇気を出したら、学校の廊下でも私にキスをしてくれたじゃない。君ならできるよ。だから、自信を持ってよ」
穂乃果は抱きついてくるのだ。
「けど……」
「そのセリフがよくないよ。けど、じゃなくて、一回勇気を持ったら?」
「……」
穂乃果とこれ以上関わってしまったら後戻りできない。
そんな気がした。
「ぼ、僕は……」
晴希は恥ずかしさのあまり勇気を出せない。
無理だと、内心思った。
その時である。
「私……寂しいの」
穂乃果の口から聞こえた、悲し気な一言。
「お願い。今日は晴希君と一緒にいさせて」
「な、なんで、僕でいいの?」
「うん、晴希君じゃないとダメなの」
彼女の求めるかのような、口ぶりと表情。
誘惑するような態度に晴希は断れなかった。
「一緒にいよ。だから、今日は私を慰めてよ」
穂乃果は急にベッドで上体を起こすと、仰向けになっている晴希の体に騎乗してきたのだ。
そして、穂乃果の方から口づけを交わしてきた。
「ねえ、晴希君? 後のことはわかってるよね?」
キスを終えた穂乃果は、意味深なセリフを残す。
晴希の心臓ははち切れんばかりだったが、悲し気な彼女の顔を見続けることはできなかった。
漣に早く追いつきたい。
このままではすべて越されてしまう。
晴希は恋人も欲しいと、いつもより強く思った。
だから、晴希は――
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