第17話 僕は、自分にできることからやろうと思う
すでにバレている。だから、これからどうするかだ。
一応、今日の教室にいる際、友人の高屋敷漣のことだけは監視するようにしていた。
漣の方から特に話しかけてくることはなかったのである。
多分、あの件については、黒木日葵から知らされていないのだろう。
断定できることではないが、漣の立ち振る舞い方的に、そう思ったのだ。
それにしても、漣はなぜ、浮気することにしたのだろうか?
それが気がかりでしょうがない。
放課後の現在、倉持晴希は、スマホを片手に連絡先フォルダを見ていた。
一応、漣の連絡先も登録されている。
だから、やり取りしようといつでも思えばできるのだ。
けど、怖い。
自分から話しかけることに抵抗があった。
漣にメッセージを送って、不快に思われたらどうしようかと、逆に悪い方向性ばかりに考えてしまうからだ。
「……」
晴希は無言のまま、室内で帰宅準備している人らを見つつ、漣の方へと視線を向けたのである。
漣は他の仲間と楽し気に会話していた。
以前の漣なら、もっと親しかったのである。
高校二年生になってから、さらに雰囲気が変わった。
学校一の美少女、諸星穂乃果と付き合うようになって、垢抜けたような気がするのだ。
それゆえ、他の女の子からも言い寄られることが多くなり、漣は陽キャ寄りの性格になったと思う。
だから話しかけづらいのだ。
元々友達だったのだから、怯える必要性はない。
勇気をもって行動しても問題はないと思う。
晴希はスマホを一旦、制服のポケットにしまい、左拳を強く握り、決心を固めたのである。
今は日葵から監視されているわけじゃない。
普通を装って、漣に話しかければいいのだ。
晴希は今まで何の取柄もなく、平凡に学校生活を送っていた。
が、穂乃果と関わって、自分にもそれなりの役割があるのだと客観視できるようになったのだ。
晴希は自分の席から離れ、漣の元に向かうことにした。
仲間と一緒に会話している漣。
晴希は距離を詰める。
「あ、あのさ……」
ただ、昔のように会話すればいいだけである。
余計に考える必要性はない。
晴希にとっての勇気ある一言だった。
「ん? なに?」
意外と普通に返事をしてくれる漣。
晴希は内心、ホッとした。
心が洗礼されるかのように、楽になったのである。
「あの……今日って、時間ある?」
晴希はいきなり本題に入った。なんの前置きもなく、唐突に話したことになる。晴希は緊張し、変な話し方になっていると思うと、内心気恥ずかしくなった。
「今日? 今日はさすがに無理かな? すでに予定があるしさ」
漣は陰キャの晴希のことを見下すことなく、淡々と返答してくれていた。
「というか、お前さ、こいつと仲がいいのか?」
「女の子から相手されていない奴と関わってもしょうがないだろ」
漣の近くにいた仲間二人の発言。
そのセリフに、晴希は心が痛んだ。
彼らは陽キャ寄りであり、自分の存在が完全否定された気分に陥ってしまう。
「まあ、そんなこと言うなって。晴希? それで、なんか用があるんだったら後でいいか?」
「え、う、うん……」
晴希は多少明るく返答した。
こうなるんだったら、最初っから話しかけておけばよかったと思う。
心に抱え込んでいた悩みが吹き飛んだ瞬間だった。
「じゃあ、後でな」
「うん」
晴希は笑顔で言った。
そのあと、帰宅準備が終わった漣は、いつもの仲間二人と一緒に、教室を立ち去って行ったのだ。
これで一応、一件落着なのだろうか?
以前、漣が見せた怖い表情とは違う。
あっさりとした感じだった。
晴希は一応、自信がつき、一旦席に戻る。そして、晴希自身も帰宅の準備をして、学校を後にすることにした。
この後、街中で穂乃果と一緒に、作戦会議をすることになっていたからだ。
「倉持君って、今後、どんなやり方でやった方がいいと思う?」
「それは……」
晴希は口を開いた。
今、街中にあるファストフード店内。
いわゆる、ハンバーガー店屋に入店し、二人はテーブルを挟み、対面するようにやり取りを行っていた。
漣と日葵の浮気調査を議題に、話を始めようとしていたのだ。
「一応、漣とは後で、会話できるようになったから。そこで、どうして浮気するのか聞くことにしたよ」
「……え?」
テーブルに置かれたコップを手にしていた穂乃果は、喉を潤す前に、驚きの表情を見せていた。
「ど、どうしたの」
「直接話す?」
「う、うん……なんか、変なこと言った?」
晴希は首を傾げた。
「それはやめてほしかったかな」
「もしかして、ダメだった?」
「当たり前じゃない。もう……それやったら、日葵に伝わるかもしれないし」
コップをテーブルに置き直す穂乃果は、少々不満そうな顔を見せていた。
「でも、漣は日葵から何も聞かされていないようだったし」
「……だとしてもよ。万が一、伝わったらどうするの?」
「それは……」
確かにそうだ。
漣は日葵と裏の方で付き合っている。漣がもし裏切ったとしたら、日葵に晴希との会話内容を伝えるかもしれない。
仮に、漣が晴希に対して、友人感情があるのだとすれば、日葵には告げ口はしないはずだ。これはあくまで、憶測上での話であり、どうなるかはわからない。
「多分、大丈夫だと思う……」
「……本当に大丈夫なの?」
「う、うん……やってみるから」
「……わ、わかったわ。でも、日葵に関する話題はあまりなしで。ただ、漣が今、何について悩んでいるか、それくらいは聞いてほしいかな。本当に漣と会話するならね」
「うん、聞いておく」
晴希は頷いた。
穂乃果に一応相談すればよかったと、今になって後悔してしまう。
「いつ漣とはやり取りするの?」
「それはまだ決まってないけど」
「そうなの?」
「今日中には決めるよ」
「わかったわ。そこらへんは慎重にね。それと、倉持君は、余計なことを言わないように。ましてや、漣の周辺調査をしているとか、絶対にね」
「うん、それはわかってるから。安心して」
「……でも、倉持君って、ちょっと積極的になった?」
「え? そ、そうかな……?」
直接褒められてしまうと、晴希は照れてしまう。
「まあ、後は互いにバレないように行動するだけね」
「そうだね……」
晴希が、フィッシュ系バーガーを手に取り、口にする。
咀嚼していると、彼女が話しかけてくるのだ。
「あのね、今日は日葵の方を監視してたんだけど。特に変わった様子はないかな?」
「一応は調査していたの?」
「ええ。少しでも調査を続けたかったし。けど、やっぱりね、調査していることがバレているからなのか。そこまでまともな情報を得られなかったわ」
「そうなんだ……ごめん、やっぱり、僕がもう少し早くに言っていればよかったよね」
「別にいいわ。そうなってしまったことは、しょうがないじゃないでしょ」
「ごめん……」
晴希はまた、そう呟いてしまったのだ。
「そうだ。ねえ、倉持君。ちょっとだけいい?」
「なに?」
晴希は首を傾げた。
すると、対面上に座っている穂乃果は席から立ち上がり、晴希が手に持っていたハンバーガーを少しだけ食べる。しかも、晴希が口をつけたところをだ。
「へえ、この魚のハンバーガーって、こんな味がするんだね」
「……え、え⁉」
晴希は動揺してしまった。
急な出来事に、ドキドキ具合が止まらなくなる。
「別にいいじゃない。一応、私たち、恋人同士でしょ?」
「そ、そうかもしれないけど……まだ、表向きは友達であって……」
「そんなに緊張するの? ねえ、もっと、私は仲を深めようよ♡」
「でも……」
「やっぱ、緊張するんだー」
「そ、そうだよ。普通は……」
「そういうところは変わってないね」
「……」
晴希は手に持っていたハンバーガーへと目を向けた。穂乃果が口をつけたところを見るだけで、彼女のことを意識してしまうのだ。
穂乃果は、どうして距離を縮めようとするのだろうか?
わからないことだらけである。
晴希は俯きがちになり、一旦ハンバーガーをテーブルの上に置き、近くにあったコーラを口に含み、心を落ち着かせるのであった。
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