第14話 僕の人生の転換期って、いつなんだろ…
「……」
倉持晴希は、朝起きた。
カーテンの隙間から差し込まれる朝の光。
晴希はベッドの上に正座し、自身のスマホを手に画面を見ていた。
「送るなら……今しかないよな。でも、朝早くでもいいのかな?」
スマホ画面の上らへんに表示されている時刻。まだ、六時半くらいで、相談するにしても早いと思ってしまう。
迷惑かもしれない。
そう考えてしまうのだ。
「でも……日葵の件は、後々面倒になるし……やっぱり、相談した方がいいよね。うん、試しに、おはようって送ってみようかな」
晴希は眠気と向き合い、多少の緊張を感じたまま、指で画面をタップし、四文字を入力した。
「はああ……なんか、緊張する。絵文字とか、他に何かあった方がいいかな?」
晴希は送信対象が女の子であるが故、余計に悩んでばかりだった。
「でも……これじゃあ、寂しすぎるよね。じゃあ、顔文字……いや、太陽のマークでもいいかな?」
晴希は迷いながら、太陽の絵文字のようなものを入力し、震えた手で送信ボタンをタップしたのだ。
女の子とスマホでやり取りした経験は殆どない。
諸星穂乃果と関わるようになって、頻繁にメールとか、SNSのようなものを利用することが増えた気がする。
初めてのことばかりで、些細なことでも悩んでしまうのだ。
「こういうところなのかなぁ……やっぱり、勇気がなくて、積極的じゃないから、モテないのかな……」
晴希は高校生になり、それなりには積極的になった方である。
中学生の時と比べればだ。
晴希は彼女が欲しかった。
だから、そんな思いで、高校に入学した当初は積極的に女の子に話しかけたこともあったのだ。
けど、いざ女の子と向き合うと何を話せばいいのかわからず、挙動不審になる。そして、女の子から不審がられたり、変な人扱いを受けてしまうのだ。
晴希は一人でいる時は、脳内で女の子とこういう風に話したいとか、会話する内容をハッキリと決めることができる。
ただ、対面すると口を動かせなくなるのだ。
昔からの馴染みである彩葉とか、積極的に話しかけてくれる穂乃果とは普通に会話できる。多分、ある程度親しい間柄だから、普通に会話できているのだろう。
そもそも、二人以外の女の子とは、親しい関係になる以前に挙動不審だと思われ、接点を持つことができないのだ。
女の子と付き合うとか、それ以前の問題があるのかもしれない。
勇気を持つことが大事。
けど、晴希が挙動不審で、キモいという噂が、とある人らの影響で広まっているのだ。
今更努力しても、解決できるような問題ではないのかもしれない。
「はああ……やっぱ、高校生でも彼女とか無理なのかな……」
ベッドで正座している晴希は、大きなため息を吐いた。
今から新しい朝の始まりなのに、縁起が悪い。
晴希はカーテンを全開にし、窓を開け、外の空気を吸いながら深呼吸したのだ。
「なんか、いいことがあればいいけど……」
不安な感情を抱き、窓を閉めた。
そんな時、スマホのバイブが鳴る。
晴希は確認すると、メールが入っていたのだ。その送り主は、穂乃果だった。
ワクワクした気分で、メールを開く。
穂乃果の方から“おはよう、倉持君♡”というメッセージが入っていた。
彼女から返答をしてもらったことで、ちょっとだけ自信がついたような気がする。
晴希はテンションが高ぶり、そのまま部屋を後にし、朝食を食べるためにリビングへと向かったのだ。
大事な相談を忘れていることに気づかずに――
「……どうしよ。今日からどうやって、漣の周辺調査をすればいいんだ?」
晴希は自宅を後に、道を歩いていた。
学校に向かっている途中であり、まだ時間には余裕がある。
ゆっくりめに歩き、漣の調査のことについて、一人で悩みを抱え込んでいた。
さすがに、穂乃果に対し、一切調査なんてしていませんでしたと報告はできないからだ。
「……あれ? そういや、あッ、諸星さんにメールで伝えるの忘れてた」
晴希はようやく思い出す。
穂乃果からの返答メールに浮かれ、すっかり頭から抜け落ちていたのだ。
急いで制服のポケットからスマホを取り出し、画面を見る。
「早く伝えないと」
晴希は慌てた感じにスマホを操作する。スマホばかりに集中し、道を歩いてしまった。
だから、曲がり角から人が来ていることに気づかなかったのだ。
バン――
出会頭に体がぶつかってしまう。
「きゃああッ」
「うわッ……ご、ごめん」
晴希は驚き、ぶつかった子は尻もちをついていた。
「ごめん……大丈夫?」
「……はい……」
小柄な感じの子である。
彼女は上目遣いで晴希の方を見てくるのだ。
よくよく服装を確認すると、彼女は晴希と同じ学校の制服を身に着けていた。
あまり見かけない子である。
もしかしたら、別のクラスか。学年が違うかだろう。
「……すいません……私も前を見ていなかったので」
「え? 僕の方もちょっと、よそ見をしていてさ。本当に大丈夫かな?」
「……」
晴希は彼女を立たせてあげたのだ。
ツインテール風の彼女は、制服のスカートにかかった砂埃を払う。そして、晴希の方を見、軽く頭を下げると、それ以上話すことなく駆け足で立ち去って行った。
「変わった感じの子だな……」
あまり表情が明るくなかった。
それに、体が弱そうに感じたのだ。
先ほど駆け足で去っていたが、足元がふらついているような印象を受けた。足に怪我を負っている感じの歩き方。
「……もしかして、僕のせいで、足に怪我を⁉」
晴希は申し訳なさに襲われてしまう。
「……心配だな」
晴希はスマホをポケットにしまうと、次第に早歩きになる。
もし、自分のせいで怪我をしていたなら、もう一度謝罪したかった。晴希は駆け足で、ツインテールの子の後を追ったのだ。
晴希が通っている学校への道。
その途中に大きな道路があるのだ。そこを通らないと、学校にはたどり着けない。
あんな足元のふらつき具合では、その場所を歩くのは辛いと思う。
「……」
晴希は遠くからツインテールの彼女の足元を見やる。
遠目ではわからないところがあるが、足に傷のようなものがあった。
やっぱり、自分のせいかもしれないと思うと、心が痛む。
以前ついた傷だったとしても、確認のために会話したい。
そして、晴希は大きな道路の信号前に到達した。
左隣には、ツインテールの子が佇んでいる。
晴希は先ほどの件で、話しかけようとした。
が、突然勇気を出せなくなったのだ。
会話するだけなのに、戸惑ってしまう。
男らしくないと晴希は、自分に対して苛立ってしまった。
そうこう考えていると、事件が起きる。
大きな道路の信号前。赤信号で佇んでいた晴希とツインテールの子の場所に、トラックが突っ込んできたのである。
「ヤバイって」
「二人とも早く逃げろ」
「きゃあああ――」
辺りにいる人らの悲鳴や叫び声が聞こえた。
晴希が周囲を確認すると、数メートル先にトラックの正面が瞳に映る。
トラックのブレーキが故障しているようで止まることはなかったのだ。
死んでしまうのか……?
何も達成できなかった人生を振り返ると絶望ばかり感じてしまう。
けど、このままじゃ終われない。
そして晴希は――
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