第13話 私…どうしたらいいんだろ……ねえ、どうなったら正解なのかな?
倉持晴希は悩んでいた。
喫茶店を後に、一人で道端を歩いて自宅に向かっていたのだ。
「あんなこと言って、大丈夫だったかな……」
晴希は住宅街で一旦立ち止まる。
実際、具合が悪かったのは事実。
日葵の件もあり、苦しかった。
その辛さを彼女にぶつけてしまったのだ。
最悪すぎる言動だと晴希は思い、余計に自分の存在が嫌いになりそうだった。
「後で謝っておかないよな……」
晴希はそう呟き、スマホを手に、その画面を見た。
しかし、今は連絡する勇気もなかった。
そのまま現実から視線を背けるように、スマホを制服のポケットにしまい、再び歩き始めたのである。
「……どうして、あんなこと言ったんだろ……」
彼女もまた悔やんでいたのだ。
心苦しく、晴希が喫茶店から立ち去った後も、少しの間だけ席に座ったままだった。
胸に手を当て、諸星穂乃果は深呼吸する。
「大丈夫……ちょっと、私、調子乗りすぎだよね……うん」
穂乃果は何とか、自分なりに決心をつけ、コーヒーを飲み干し、会計伝票を手にして立ち上がった。
いつまでも悩んでいても何も始まらない。
それに今日は、早めに弟が小学校から家に帰ってきている頃合いである。
スーパーとかで買い物をして帰宅しないといけないのだ。
この前、家に来てくれた親戚の人から、“早く家に帰って、弟の世話をしてあげなさい”と強めの口調で言われたのだ。
その怒り混じりの親戚の人の表情と、セリフを思い出し、穂乃果は辛くなった。
その辛さを一人で抱え込んでいるようで息苦しくなるのだ。
「私……そんなに悪いことしていないし……というか、皆が私のところからいなくなるのがよくないのよ……私はただ……平凡に生活ができればいいのに……」
穂乃果は悲しげに呟きつつ、店内の会計カウンターへと向かう。彼女はそこで、晴希から渡されたお金を含めて支払いを済ませた。
”ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております”というセリフを背に、穂乃果は喫茶店を後にするのだった。
穂乃果は一人である。
元々は地味な感じだった。
なんせ、昔から不幸事が多く、悩むことが多かったからだ。
何をやってもうまくいかなかった。
だから、昔、両親からもっと自信をもって生きなさいと言われたことがあったのだ。
最初の内は、自信をもって生きようと思った。
しかしながら、不器用すぎて、なかなか自信を持つことなんてできなかったのだ。
そんな時だった。
両親がいなくなったのは。
穂乃果が中学生の時、両親が交通事故でこの世を去ったのである。
その日から世界が一気に変わってしまった。
残ったのは、自分と弟だけ。
弟はまだ、小学校低学年くらいで、現実を受け入れることなんてできないようだった。
本当は穂乃果も泣きたかったけど、弟の前ではそん姿は見せられなかったのだ。
むしろ、見せてはいけないような気がした。
だから、両親の言葉通りに、もう少し自信をもって生きようと思ったのである。
穂乃果はその時から、自信をもって何事にも挑戦するようになったのだ。
自信を抱き、苦しみを乗り越えるように、明るく生きていれば、きっといいことがあると思い続けていた。
そして、親戚の手助けもあり、何とか高校に入学することができたのだ。
高校に入学してからも過去を振り返ることなく、ひたすら前向きに挑戦し続けた。
その結果、高校一年生の夏休み明けの学校で執り行われた、学校一美少女コンテストと呼ばれるイベントで優勝したのである。
奇跡としか言えないような瞬間であり、穂乃果は嬉しかったのだ。
今までも努力が報われたと思った。
そして、美少女コンテストでさらに自信がつき、コンテスト中、手伝ってもらった人に告白したのである。
それは高屋敷漣。
彼は、その時、学校のイベント委員会に所属しており、コンテスト期間中は、よくサポートしてくれた。
関わる機会が多く、穂乃果は、優しく接してくれる漣に対し、好意を抱くようになったのだ。
そして、高校一年生の終わり頃、付き合うようになった。
「ねえ、漣?」
「なに?」
「なんか……こういうの初めてで」
「そうなのか?」
「うん……」
穂乃果は頬を紅葉させていた。
夜の時間帯だからなのか、彼女の胸の内は高鳴っていたのだ。
痛いほどに、心臓の鼓動が早くなっていく。
二月なのに暖かかった。
好きな人と一緒にいられたからこそ、寒く感じないのかもしれない。
「ねえ、手を繋がない?」
「別にいいけど、どうした? 寂しくなったのか?」
「違うし……別に……」
穂乃果は寂しかったけど。好きな人の前では素直になれず、嘘をついてしまった。
互いに高校一年生の今、付き合い始めたばかりであり、漣の方も少々ぎこちなかったのだ。
今日は、学校が休みだった。
だから、明るい時間帯は街中でデートをしたり、遊園地に行ってきたりと、色々な思い出を作ってきたのである。
ベッドの端に腰かける二人は、寄り添うように体をくっつけていた。
今、穂乃果は漣の自宅にいる。
漣の両親は仕事の都合で、今日は帰ってこないらしい。
両親がいないということは、すでにやることが決まっているようなもの。
「ねえ、初めてだけどいい?」
「俺も、そのつもりだったし」
二人は誰もいない家で、キスを交わしたのだ。
「じゃあ、そろそろやろうか?」
「え? な、なにを⁉」
「決まってるだろ。そもそも、付き合ってたら、普通はやるものだろ?」
「そ、そうなのかな?」
「当たり前だろ」
「きゃあ――」
穂乃果は、積極的な漣に、ベッド上に押し倒されたのだった。
彼女の瞳はハートマークになっていたのだ。
穂乃果はわかっていた。
わからないふりをしていたが、漣とこうなることを予測していたのだ。
だから、穂乃果は受け入れるように、漣に流されたのである。
「あれ……なんか、来てる」
喫茶店で穂乃果とちょっとした喧嘩をしてしまった日の夜。
晴希のスマホには、一通のメールが入っていた。
ベッドで横になっていた晴希は上体を起こし、ベッドの端に座る。
フォルダを開く。
そして、確認した。
「諸星さんからか……だよね」
晴希は陰キャでそこまで友人がいない。
だから、メールを送ってくるのは、必然的に穂乃果しかいないことになる。
そう考え、晴希は悲しくなった。
でも、穂乃果から普通にメールが来たことに嬉しく感じたのだ。
ちょっとした言い争いであっても喧嘩は喧嘩である。
だから、無視されるかもしれないと思っていた。
その上、日葵に、やり取りを見られたことを伝えていない。
疚しい感情ばかり抱え、晴希はドキドキした面持ちで、メール内容を隅々まで見る。
「そういうことか。うん……」
今日、穂乃果は日葵の周辺調査を行っていた。その結果報告らしい。
「僕も送らないといけないのか……でも、何を送れば……」
晴希は漣と同じクラスなのに、まったく調査できていない。
色々な悩みに直面し、晴希の行動が抑制されていた。
日葵の顔が脳裏をよぎり、穂乃果に告げ口をしたら何をされるかわからない。
そんな恐怖心に苛まれ、メールのやり取りでも穂乃果に相談できそうもなかったのだ。
「……明日、メールで伝えようかな……一旦、休んでからの方が落ち着いて返答できそうだし」
晴希は今、メールには反応せず、明日に先延ばしすることにした。
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