第11話 なんで、私だけ、こんな目にあうのよ…
「なんで、私だけ……というか、あいつと関わる気なんてなかったし。んッ、私だけ、こうなっちゃうのよ……」
二時限目の終わり。
黒木日葵は、校舎内の四階お手洗い場にいた。
彼女は不満ばかり、口にしている。
四階お手洗い場には、殆ど人が来ない。
それゆえ、ある程度、声を出しても問題はないのである。
「はああ……まさか、あんなキモい奴に、漣と一緒にいるところを本当に見られていたなんて。最悪なんだけど」
日葵はお手洗い場の中にあったゴミ箱を蹴り倒した。
「ああ、本当に腹正しい――」
彼女は不満をさらに募らせる。
そもそも、面倒事に巻き込まれるきっかけは、高屋敷漣と付き合っていたことが、あいつらにバレてしまったからだ。
あいつらというのは、日葵の仲間である。
仲間内であっても、ギクシャクしているところがあるのだ。
表面上は仲良さそうに見えるのだが、実際裏の方では、仲間内でも他人の悪口を言い合っていたりする。
運が悪いことに、その仲間内のリーダー的な存在に、漣と楽しそうに会話していたところを見られたことが原因だった。
日葵は誰もいない校舎の一室で、漣と関わっていたはずなのに、バレてしまったのである。
「というか、なんで色々なことがバレてるのよ。誰か、チクったのかよ」
日葵は苛立ってしょうがなかったのだ。
仲間に相談しようと思っても、誰かに告げ口をするかもしれない。
そんな恐怖に、怯えているところがあった。
日葵は舌打ちをしてしまう。
仲間であっても、普段から一緒にいる人らとは本当の仲間ではない。
見えないところでいがみ合ったり、蹴落とそうと目論んでいたりと、闇が深いのである。
「漣と一緒にいるのがバレなかったら、あんなキモい奴と付き合うことなんてなかったのに」
彼女は復讐心を滾らせていた。
「誰なのよ。情報を流した奴は……というか、すべて、穂乃果が漣と付き合い始めたのがよくないのよ。漣は、私の方が好きなのに。そもそも、漣だって穂乃果と別れたいって言っていたし。私は……良いことをしているだけだし……」
日葵は自分の方が正しいと思い、他人に対する恨みを増幅させていた。
「色々なことをしないといけないけど。まずは、キモい奴と、穂乃果をどうにかしないといけないわね」
日葵はお手洗い場の鏡を見て、制服やセミロングの髪型を整えるなり、一度軽く笑みを見せる。
先ほどまで怒ってばかりいたのだ。
今のまま、教室に戻ったら変な表情を他人に見せてしまうかもしれない。
だから、鏡を見て表情などを確認したのである。
「まあ、これでいいわ。うん、私の方が綺麗だし。あんな奴が、学校一の美少女なわけないじゃない」
日葵は不満を口にし、気分をスッキリさせてから、四階のお手洗い場から立ち去ったのである。
日葵は中学生の頃から友達と呼べる人なんていなかった。
小学生の頃までなら、普通に楽しく生活できていたのに、中学に上がってからは人間関係で面倒になった感じだ。
中学生になった頃合い、小学生の時からの友達だと思っていた人から裏切られた。
そこから大きく人生が変わったような気がする。
日葵はお手洗い場を後に、廊下を歩きながら過去を振り返っていたのだ。
今もそこまで友達と呼べる人はいない。
表面上仲良くしている程度の仲間みたいな存在しかいなかった。
むしろ、本当の友達なんて、そう簡単にはできない。
そう思わないとやっていけないのだ。
「……友達なんて、そんなものはいらないし……というか……」
誰もいない廊下を歩く日葵は悔しさを滲ませたセリフを吐く。
どうせ、高校を卒業したら、友達よりも異性の方が大切になる。
もはや、そんな存在なんて不要だと思う。
日葵には、漣だけがいればいいと感じていたのだ。
彼女が漣と出会ったのは中学一年生の頃である。
その時は、彼氏彼女の間柄ではなく、単なる隣の席という関係。
最初はそこまで関わりはなかったものの。日葵が教科書を忘れてきた時、漣の方がみせてくれたり。移動教室の授業で会話することが日に日に増え、それがきっかけで友達関係になったのだ。
漣の方は普通だった。
特に特徴がないというか。
平凡ではあるが、唯一特徴があるとすれば、身長が高いということ。
漣は昔から身長が高いことを気にしていて。日葵と親しくなってから、漣はそのことについてよく話すことが多くなった。
だから、日葵は言ったのである。
身長を生かして、バスケ部にでも入ったらと――
漣はそこまでスポーツとか、興味がないと言い、特にどこにも所属しなかった。
漣は、日葵と一緒であれば、別にいいと言い出してきたのである。
結果として、日葵と同様に、漣は美術部に所属することになったのだ。
日葵は絵を描くのが好きというよりも、綺麗なモノが好きなのである。
だから、絵を通して、何かを綺麗に表現したいのだ。
多分それは、美容関係の企業を運営している両親の影響を受けているかもしれない。
「……現実は汚すぎるのよ。言動がキモい奴は、もはや、どうでもいいけど」
日葵は自分が好きなものを綺麗にしたいだけである。
そして、それを維持したいだけ。
高校生になった今では、どこの部活に所属していない。
表面上だけ仲の良い仲間に、そんな特技があると言ってしまったら、余計に変な噂を立てられ兼ねないからだ。
今は本格的に趣味に没頭することなんてできず、仲間内から嫌われないように、何とか現状を維持するだけである。
唯一の安らぎは、好きと言ってくれている漣と、誰もいないところで一緒にいること。
中学三年生の時、漣が一緒の高校にしようと言ってくれたから、今こうして漣と共に通えている。
けど、高校一年生の終わり頃、漣が学校一の美少女と囁かれてる諸星穂乃果に告白されたことで、状況が一変した。
元々、漣とは友達関係というだけで、恋人同士ではなかったのだ。
だから、気にすることはない。
日葵はそう思っていた。
ただ、穂乃果と一緒に付き合うようになった漣は、少しずつ変わっていったのだ。
距離を取られるようになったりと、高校入学当初とは関係性が異なってきているようで心苦しかった。
本当は高校一年生の終わり頃に、日葵は漣に告白しようと思っていたのだ。
そんな思いがあり、やはり諦めきれず、苦しい日々を過ごすことになった。
そして、高校二年生になった頃、漣とは別のクラスになったのだ。
絶望的だった。
もう、学校を辞めようと考えるようになっていたのだ。
けど、その絶望は長くは続かなかった。
二年生になってから数日が経過した頃合い。帰宅中、とある道で、日葵は漣とバッタリと遭遇したのである。
そして、付き合ってほしいと言われたのだった。
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