第3話 僕が学園一の美少女と付き合っていることを、友人は知らない
朝の出来事である。
朝、誰もいない廊下で、学校一の美少女である、諸星穂乃果から告白された。しかも、彼女は、倉持晴希の友人――
付き合っているのに、告白されたということになる。
今、晴希は、穂乃果と浮気することになった。
穂乃果と漣。その二人とはクラスメイトであり、気まずい環境下に晒されていることになるのだ。
本当に……こんな決断をしてもよかったのかな?
晴希は、朝のHR時間中。担任の教師からの今日のスケジュールを聞いている際、モヤモヤと一人で抱え込むように考え込んでいた。
「では、今日の連絡事項は以上ですかね……そうですね」
女性の担任教師は、壇上机にあったノートを見、それ以上に話すことはないと確認した後、朝のHRを終える。
「では、少し早いですが、終わりにします」
そのまま簡単に告げると、先早に教室を後にして行ったのである。
今日は意外にも、そこまで重要なことはなかったようだ。
けど、晴希の中では、色々なことがあった。
日葵からは振られるし、友人の漣の裏の一面を知り。そして、学校一の美少女――穂乃果とキスしたのである。
誰もいない廊下だったからこそ、まだよかったものの。誰かに見られていたと考えるだけで、緊張感が増す。
心臓の鼓動が高まり、爆発寸前だった。
そもそも、晴希は陰キャであり、童貞である。
ほぼ女性経験がないのだ。
ゆえに、女の子の肌に触れるだけでも、脳内が混乱してしまうほどである。
今回は、肌以上の関係になった。
あっち系のエロい関係性ではなく、恋人であれば、普通の行為。けど、だとしても、晴希からしたら、気恥ずかしさを感じるのである。
担任教師も教室からいなくなり、次第に辺りも騒がしくなってきた。
……次の時間の準備をしないと。
陰キャな晴希には、そこまでやることはない。
友人もそこまで多くなく、朝のHRから一時限目までの十分間。本当に暇なのである。
だから、教科書を机に出したりと、つまらないことに時間をかけていたりするのだ。
「なあ、晴希?」
ふと、聞こえる呼びかける声。
それは晴希に向けられたもので、その声質は聞きなれている。
背後を振り向くと、そこには友人である高屋敷漣が佇んでいた。
彼は高身長で、晴希より、七センチほど高い。
女性受けの良い顔立ちで運動神経もよく、スタイルも整っているのだ。
今は、穂乃果と付き合っている。が、穂乃果曰く、裏の方では日葵と付き合っているとのこと。
事実ではなく、今のところ噂の域であり、不明瞭である。
いくら友人だったとしても、そこまで突き詰めた話はできなかった。
「そういや、お前って、今日の朝、HRギリギリに来たよな」
「う、うん」
晴希は自身の椅子に座ったまま、正面を彼に向けて答えた。
漣は、晴希の近くに立ち、疑いの眼差しを向けている。
「あとさ、穂乃果と一緒に教室に入ってきたじゃん」
「うん、そうだね」
「もしかして、なんかあったんか?」
「い、いや……な、なにも……」
晴希は視線を逸らす。
漣の顔を見て、ストレートに話すことなんてできなかった。
合わせてしまうと、漣のペースに持っていかれそうだと思ったからである。
「そうか。ならいいけどさ」
漣は一旦、落ち着いた口調になり。
「でもさ、穂乃果となんかあったら、わかってるよな?」
漣の口調は怖い。
脅すような感じである。
他のクラスメイトからは見えない位置で、晴希に威圧をかけているのだ。
彼はそういう人物である。
ただ、見た目を酷く気にし、クラスメイトには基本的によく見られたいという思いが人一倍強い。
それに加え、漣は優しい一面があった。
だから、クラスで浮いている晴希に声をかけ、友達にならないかと切り出してきたのだ。
けど、穂乃果の言葉を聞いて思うことがある。
もしかしたら、今、漣が見せている笑顔は偽りであって、嘘なのかもしれないと。
そう考えると心苦しい。
友人だと思っていたのに、そうではないと考えると、孤立してしまいそうで、心が締め付けられるように痛むのだ。
「まあ、いいや。何もないんだろ?」
漣は笑顔を見せた。
いつも通り、他の人にも見える笑みである。
「え、うん」
晴希は簡単に頷き、その場を乗り切ることにした。
「それじゃ、またあとでな」
「う、うん……」
晴希は軽く頷いた。
余計なことは言わなかったのだ。
漣は、晴希の元から離れると、他の仲間のところへ向かって行った。
これでよかったのだろうか?
本当は、穂乃果とキスした。
その上、彼女とは付き合うことになったのだ。
漣にバレないように付き合えるのだろうか?
そもそも、漣は、日葵と浮気をしているのだろうか?
今段階では定かではない。
明らかではなく、不明なことが多く、断定的には言えないところが目立つ。
むしろ、余計に言わなくて正解だったと、晴希は思うのだった。
晴希が席に座り直そうとした頃、教室にいる穂乃果と偶然、視線が重なったのだ。
穂乃果は、他の仲間と一緒に会話していたりする。
彼女の方から話しかけてくることはなかった。が、穂乃果は仲間との会話を中断させ、教室から立ち去って行ったのだ。
その一分後、晴希のスマホに一通のメールが入った。
確認してみると――
《今日の放課後、時間とれる?》
と、一文だった。
晴希は――
《大丈夫だけど》
と、返信メールを返す。
その数秒後、“わかった”という内容のメールが送られてきたのだった。
意外と、メールの内容は至ってシンプル。
他人から美少女だと言われることの多い彼女だが、内面的にはあっさりとした性質なのかもしれない。
晴希はスマホを閉じ、机に置いた教科書を適当に開き、一時限目まで時間を潰すのだった。
その間に穂乃果は戻ってきて、先ほど同様に仲間らと一緒に会話をしていたのだ。
穂乃果は、普通に魅力的である。
ただ、自画自賛的な発言は、教室にいる際にはしないようだ。
もしかしたら、晴希と一緒にいる時だけなのだろうか?
そう思うと、複雑な心境になる。
自分だけが特別扱いされているような感じがして、胸の辺りが熱くなったのだ。
そんな中、一時限目の担当の教師が、少しだけ早くに教室に入ってきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます