第2話 ねえ、倉持君…私とキスしてよ…♡

「ねえ、どうかな? 付き合ってほしいんだけど?」


 彼女からのセリフ。

 倉持晴希は、誰もいない学校の廊下で、諸星穂乃果と向き合っていた。


 彼女は学校一の美少女だけあって、制服の着こなし方がよく、不思議とエロさを感じてしまうほどの魅力を持つ。

 美少女だから、魅力を感じてしまうのだろうか?

 そこらへんは定かではない。


 けど、それ以上に、穂乃果のおっぱいが気になってしまうのだ。

 さっきまで付き合っていた元カノ、黒木日葵よりも大きいかもしれない。


 制服越しだから、そこまでハッキリと断定できるものではないが、なんとなく察することができたのだ。


「ねえ、聞いてる? 私と付き合ってって言ってるんだよ? 私、学校で一番の美少女なんだよ? 断るわけないよね?」

「そ、それ、自分で言うパターンなの?」

「別にいいじゃん。それ、事実なんだし。私も最初は美少女かどうかはわからなかったんだけど。美少女かどうかを意識するようになったら、もしかしたら、私、美少女なんじゃないかなって。そう思うようになったの」

「そ、そうなんだ……」


 晴希は若干引き気味だった。


 今まで美少女だと思っていた女の子が、実は自画自賛タイプな子だったとは。

 衝撃的なことが、先ほどから明かされてばかりである。

 脳内処理が追いついていきそうもなかった。


「それで付き合う? 付き合うしかないよね? ね、晴希? というか、晴希って、呼び捨てでもいい?」

「呼び捨て……でも、それだと、付き合ってるような感じに聞こえそうな気がするけど」

「そっか。じゃあ、倉持君とか? それだったら、大丈夫かな?」

「う、うん」

「じゃあ、私たち、これから付き合うってことでOKね。うん、それじゃあ、これから色々とよろしくね、倉持君」

「う、うん……⁉」


 知らない間に、穂乃果と付き合うことになっていたのだ。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど……」


 晴希は消極的である。

 学校で一番の美少女から、廊下で堂々と告白されているのだ。

 普通、断る男子生徒はいないだろう。


 けど、晴希はハッキリとした返答をできずにいた。

 つい最近まで付き合っていた黒木日葵から、酷い振られ方をしたのである。

 女の子と関わることに抵抗があり、なかなか、付き合うという心境になれなかったのだ。


「ねえ、嫌なの? 私、なんでもしてあげるよ? 日葵と付き合っても、何もしてもらえなかったんでしょ?」

「ん⁉ な、なんで、そこまで知ってるの⁉」


 晴希は距離を取るように驚く。


「そこまで驚くこと? というか、私ね。廊下の方からこっそりと聞いていたの」

「そ、そうなの?」

「うん。そうよ。だって、日葵と漣が付き合ってるって噂を聞いてね。この頃、日葵の後を追っていたの」

「追ってた?」

「うん。まあ、私と付き合っておきながら、漣の奴、別の子と付き合ってるらしいし」


 穂乃果は怖かった。


 いや、怖いというよりも憎悪に近い。

 彼女はそんなオーラを体から放っているようだった。


 女の子の復讐心というものは限りないものだと、晴希は今、知ることになったのだ。


「……漣は、日葵さんと付き合ってることを言ってたの?」

「いいえ。言ってないわ。あいつが言うわけないでしょ。多分、裏の方で付き合ってるみたいだし。公にはしないと思うわ。そもそも、漣って性格がよくないわよ」

「え?」

「倉持君って、あいつと友人なのに何も知らないの?」

「え……そうなのかな? 漣は普通に友達としてよくしてくれるし」

「ふーん、そう。じゃあ、倉持君は何も知らないんだね」

「……何か、言ってた?」

「それは私も深くは知らないというか。知っていても、君の前では何も言わないけど。真実を知りたいなら。あいつが別の人と関わってる時に、こっそりと会話を盗み聞きしてみればいいわ。色々な人の悪口とか言ってるから」

「そう、なんだ……」


 何も知らなかった。

 晴希はずっと、友人の漣のことを、大切な友達の一人だと思っていたからだ。


 まさか、そんな人だったとは……。

 晴希の中で、大きな絆を打ち切られた感じだった。

 たった一日で、日葵からは振られ、友人の漣の裏を知ったのである。

 どうして、ここまで自分は人付き合いや、友達選びが下手なんだろうかと、恨みたくなっていたのだ。


「話に戻るけど。私と付き合ってくれない?」

「でも、本当の僕みたいな、パッとしない人でもいいの?」

「いいの。私が言ってんだから、自信を持ちなよ。ね♡」


 穂乃果はウィンクしてくれる。

 彼女が見せる優しさと、エッチな雰囲気に、晴希は内心、どぎまぎしていた。


「ねえ、そんなに緊張する?」

「緊張するって……」

「じゃあ、緊張をほぐすために、私とエッチなことをする?」

「……逆に恥ずかしいって」


 晴希は小心者である。

 彼女を作るというだけでも難しいのに、学校一の美少女と付き合うだなんて。想像するだけで胸の内が熱くなっていく。


 本当に自分みたいなのでもいいのかと、何度も自分自身の心に訴えかけていたのだ。


「君だからいいんだよ」

「え……?」

「いいから、口でしてあげよっか♡」

「く、口で⁉」


 まさか、下半身の方を口で、ってことなのか?

 晴希の心臓の鼓動が高まる。


 晴希にとって、彼女を作るというのは、高校を卒業するまでの目的であった。

 本音で言えば、彼女は欲しい。

 普通で平凡で、自分と大体、同じくらいのタイプの子でもいいとさえ思っていたのだ。


 余計に高望みをすると、日葵とのように酷いセリフを吐かれ、見下され、振られる。そんな経験は、もう二度としたくなかった。

 だから、学校で一番の子とは距離を置きたい。

 そう考えていた。


 けど、晴希の視界にいる穂乃果は本気で言っている。

 真剣な眼差し。

 エッチな瞳を見せているものの、真面目さを感じるのだ。

 エッチで真面目というのも不思議な表現なのだが、雰囲気的にそう感じたのである。


「もしかして……倉持君? 私が口で下の方をやると思ってた?」

「え⁉」


 ドキッとした。

 今まさに彼女から、制服越しに体を触られている。特に胸の辺りらへんをだ。

 変な気分になる。


「私、口でするって言ったけど。下の方を口でするっては言ってないよ? もしや、そっちの方を望んでいたの?」


 穂乃果はニヤニヤと余裕のある笑みを見せている。


「い、いや……」

「でも、倉持君が望んでいるならいいよ?」

「え?」


 彼女と一緒にいると、刺激的なことが多い。先ほどから、胸の辺りが熱くて、どうにかなってしまいそうだった。


「ここじゃできないし。それより……」


 顔を近づけてくる穂乃果。

 そして、瞼を急に閉じたのである。


「ねえ、キスして」

「ど、どうして?」

「いいから」


 誰もいない廊下で二人っきり。

 そんな環境課下で、彼女が瞼を閉じているのだ。

 今の状況的に、キスをする流れである。


「ねえ、倉持君。少しは男らしいとこを見せてよ」

「――……」


 苦しかった。


 確かに、女の子が求めているのに、それを受け入れないのは、男性としてみっともないと思う。


 だから、晴希は彼女の意思に応えるように顔を近づける。そして、晴希は学校一の美少女である穂乃果と口づけを交わしたのだった。

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