酷いフラれ方をした僕は、学校一の美少女である、友人の恋人と付き合うことにした。

譲羽唯月

前編 僕が、学校一の美少女と付き合うことになった理由

第1話 付き合っていた彼女から振られ、友人の恋人から告白される…

「あなたとはもう無理だから――」


 朝、校舎内の一室。

 倉持晴希くらもち/はるきは向き合うように佇んでいる、セミロング風で制服を身に纏い、強気な態度を見せる彼女。黒木日葵くろき/ひまりから残酷な言われ方をしたのだ。


 彼女のセリフを聞いている際、晴希は脳内が真っ白になってしまったかのように、何も考えられなくなっていた。


 ただ、苦しかったのである。

 それ以上に裏切られてしまったことに、心が痛み。そして、声を出せなくなってしまう。

 高校二年生になって、ようやくできた彼女だったのに。たった一週間程度で別れを切り出されてしまったからだ。


 じゃあ……なんで……。

 最初に告白を切り出してきたのは、晴希の正面に佇む日葵の方である。


 彼女曰く、単なる罰ゲームの一環のようなもので、成り行きで付き合っていただけらしい。

 その罰ゲームは、一週間程度。

 今日、その日を迎えたとのことで、朝早くから誰もいない学校の一室に呼び出し、真実を告げてきたようだ。


 朝から重要なことがあると、晴希のスマホにはメールで通知がきていた。

 晴希からしたら、良い知らせだと思い、希望を持ち、自宅を後に、走って学校に向かって登校していたのだ。


 それが、実は単なる別れ話であったとは――

 こんな残酷なことがあってもいいのだろうか?

 日葵が見せてくれた笑顔なども全部、偽りだったのか?


 その彼女の笑顔を脳内で振り返る度に、心が締め付けられるほどに痛む。

 嫌だ。

 こんな現実なんて受け入れたくない。

 彼女から嘘だと言ってほしかった。


「ねえ、聞いてる?」

「え、あ、うん……」

「キモ……その言動とかもキモしさ。マジでキツかったわ。お前みたいな奴と付き合って、他の人から馬鹿にされていたからね。本当に地獄みたいな一週間だったわ。本当だったら、慰謝料とかほしいけど。別にいいわ」

「い、慰謝料……? どういうこと?」

「ばかなの? あんたいみたいキモい陰キャと付き合って、私の心は汚されたの。わかる? 私の恋愛人生のワンシーンに傷つけたのよ。本当だったら、三万円くらいは欲しいけど。まあ、あんたのような平凡な家庭の奴には、そんなお金とかもないでしょうけどね」

「……」


 晴希は辛かった。

 自分だけのことだけじゃなく、家族や、その他の存在さえも批判されたからだ。


 晴希には何も失うものもない。

 けれど、自分以外のものまで貶されるのは嫌だった。

 確かに彼女の言う通り、晴希はパッとしない人生を歩んでいる。その上、キモい陰キャで、童貞。セックスすらもしたことがないほどの凡庸な人生であった。


「……」


 しかしながら、晴希は無言だった。

 ただ、無言というわけではない。

 悔しすぎて、何も言い返せないのである。


「あとね、罰ゲームの一環で、あんたとセックスすることになっていたけど。あんたとセックスするの嫌だし、私の仲間に言って、キスでいいってことにしてもらったの。けどね、あんたとキスもしたくないから、キスしたってことにしておいて。というか、あとで、私の仲間が、あんたにキスしたかどうか聞いてくるかもしれないしさ。口合わせをしておいてよね」


 日葵は距離をつめてきて、晴希の耳元付近で――


「絶対に、バレないように口裏を合わせるのよ。絶対にね」

「……」

「返事は?」

「は、はい……」

「まあ、いいわ。これで、じゃあね――、はあぁ……凄く気が楽になったわ。キモい陰キャと付き合って、セックスするとか、考えられないし」


 そんなことを言い、彼女は、その部屋から立ち去っていくのだった。


「……」


 晴希が一人だけ、その部屋に残っている。

 刹那、チャイムが鳴った。

 朝のHRが始まる十分前に響く音である。


「……そろそろ、教室に戻らないとな……」


 晴希は悔しかったが、しょうがなく教室に向かうことにした。

 そして、その部屋から出ようとした瞬間。

 誰かの気配を感じたのである。


「……」


 晴希は気になり、左側の方を見た。

 そこには、制服を着こなした女の子が佇んでいたのである。


 その子は、パッと見ただけでわかるほどの美少女感。

 誰が見たとしても、そう思ってしまうほどの魅力を放っていたのだ。


 茶髪にロングヘアスタイル。落ち着いた雰囲気があるものの、どこか明るさを感じる。人当たりがよく、誰とでもすぐに仲良くなれるほどの性質を持った彼女は、諸星穂乃果もろぼし/ほのかであった。


「ねえ、今から教室に向かうの?」

「……う、うん。そうだけど……」


 晴希はどぎまぎしながら返答する。

 彼女とはクラスメイトなのだが、あまり会話したことがなかった。


 その上、先ほど、偽りで付き合っていた彼女からでディスられまくったのである。

 晴希は今、穂乃果と視線を合わせることも苦しかった。

 気まずい環境下であり、あまり他人と関わりたくないと思い、すぐに教室へと向かおうとしたのだ。


 穂乃果には申し訳ないが、こんなところ誰にも見られたくなかったのである。

 穂乃果は学校一の美少女であり、晴希の友人の高屋敷漣と付き合っている恋人持ちの彼女。


 今、廊下には誰もいないものの。仮に誰かに見られ、誤解されて噂を広げられてしまったら、穂乃果にも迷惑が掛かると思ったからだ。


「ちょっと、待って」

「え……? な、なに?」


 晴希は陰キャらしくキョどりながら、背後を向く。


「さっき、なんかあったでしょ?」

「さっき……?」


 さっきとは多分、一週間ほど罰ゲームの一環で付き合っていた日葵とのやり取りのことかもしれない。


「な、なにもないよ……」


 晴希は嘘をついた。


「ふーん、そう? 何もなかったの?」

「う、うん……」


 晴希は気まずげに頷くのである。

 余計に多くを語ることはしなかった。


「けどさ。瞼のところどうしたの? 汗? 水なの?」

「え、いや。これはその……」


 晴希は慌ててしまう。

 知らない間に、泣いていたようだ。

 男性として、女性の前で泣くとか、陰キャであっても羞恥心を抱いてしまう。

 サッと彼女から視線を逸らす。


「なんか、あったんでしょ?」


 穂乃果は少しずつ歩み寄ってくる。


「……な、何も……」


 けど、白を切り続けたのである。


「全く、そんなこと言ってさ。そんなに我慢しなくてもいいのに」


 涙が、晴希の頬を伝う頃。


 誰もいない廊下で出会った彼女が、晴希との距離をさらに縮めてきた。

 そして、穂乃果は晴希の体に豊満な胸を押し当てながら、頬を伝う液体を舌で舐めたのである。


「――⁉」


 晴希はドキッとし、急な距離感に、脳内が混乱してしまう。


「え、え……え⁉ どういうこと……⁉」


 晴希は目をキョロキョロさせ、その間に穂乃果は距離を取り、はにかんでいた。


「ねえ、私と付き合ってみない?」

「え? どうして⁉ 君は……その、漣と付き合っていたような……」

「そうよ」


 彼女は軽く笑みを見せているものの、黒い部分が垣間見れた瞬間だった。


「けどね、私、別れたいの。でも、普通に別れるのもつまらないし。晴希にはちょっと協力してほしいんだけど」

「協力?」

「ええ。私ね、ちょっと噂で聞いてしまったの。あの人ね、裏の方で、晴希がさっき会話していた子と付き合っているらしいの」

「え? 漣と、あの人が⁉」


 さらに明かされる衝撃的な数々。

 今日の朝の時点で、情報量が多すぎると思った。


「だからね、私と、恋人として付き合ってくれない? あの人たちの裏の顔を暴くためにもね♡」


 学校一の美少女である穂乃果は、笑顔でありつつも、とんでもないセリフを平然と口にしたのであった。

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