第44話 理不尽な暴力

「何人だろうが、私の前に立てば斬る!」


 僕はオルドリッジの剣を自分の剣で受け止め、弾き返そうとする。

 しかし、ものの数秒で僕は押され、後方に飛ばされてしまった。


「くそっ、なんて力だ!」


「まだだ! 私の力は限界を超えることで倍増する!」


 宣言通り、オルドリッジは自分の体のリミッターを外し、さらにオーラを膨れ上がらせる。

 リッチのデバフを食らってこれって……元はどれだけ強かったんだ!? まともに戦ったミカは相当な実力者だぞ!


 だが、僕たちだってやられてばかりじゃない!


「黄金の輝き、発動!」


 まばゆい光が、オルドリッジに向かって放たれる。


「なんだこの光は……! 目が、見えない!」


「畳みかけるぞ、アイシリア!」


 黄金の輝きが作用するのは10秒間! 次に使えるのは1時間後!

 ペースを奪うなら今しかない。これを逃したらチャンスは回ってこないぞ!


「<ライトニング・スラッシュ>!!」


 黄金の輝きとクリティカルヒットを合わせたコンボだ。視界を奪った相手に、直接ダメージを与えることが出来る!


 絶好のチャンスで叩きこんだ僕の一撃は――、


「がはッ!」


 オルドリッジの胴体に、会心の一撃となって放たれた!


「<火炎断>!」


「<ポイズン・ストライク>!」


 僕とアイシリアは交互に前に出て技を放ち、オルドリッジに攻撃を叩きこむ。

 いいぞ、二人のコンビネーション攻撃は通用している!


「調子に乗るな!!」


 10秒が経過した。視界を取り戻したオルドリッジは、反撃で剣を横なぎに振り払う。

 あまりの勢いに、僕たちは攻撃をいったんやめて後方へ下がった。


「……攻めきれなかったか!」


 かなり攻撃をすることが出来たとはいえ、相手のペースを奪うまでには至らなかった。


「今のはいい攻撃だったぞ……だが一つ言うとするなら、私に毒は効かない」


「……それはご丁寧にどうも!」


 僕は助走をつけて、再びオルドリッジに斬りかかる。

 連撃をぶつけるが、どれも奴の体には届かず、軽く弾き返されてしまう。


「終わりだ!」


「しまっ……液状化!!」


 オルドリッジの攻撃が僕の首を刎ねそうになり、液状化で回避。

 ……危なかった。一瞬でも気を抜いたらおしまいだ。


「ちょこまかと……そんなことをしてもお前の命は理不尽にも潰えるのだぞ!」


「ああ、本当に理不尽だよ! でも、理不尽を前にしても折れないのが人間なんだよ!」


「何のためにそんなことをする!? 理不尽や失敗など、合理的な世界には存在しない!」


「合理的じゃなくても、不条理でも、この世界は美しいからだ!」


 僕とオルドリッジの剣が交わり、激しく火花が散る。

 クリティカルヒットでも対等に打ち合えるくらいか、こっちは数に限りがあるっていうのに!


「そうか、これでも靡かないか……ならば、抗ってみろ! この理不尽に!!」


 オルドリッジが剣を横向きにし、刃を人撫ですると、刃が彼と同じようなオーラを放ち始める。

 なんて禍々しいオーラだ! まるで剣が生き物になったような……そんな桁違いさをひしひしと感じさせられる!


「<黒明ダーク・マター>」


 刹那、その剣から放たれた一閃は、空中を真っ黒に染めた。

 斬撃が、空間を切り裂いてしまったようだ。裂け目から漏れ出す黒い風のようなものは、たちまち僕たちに向かって吹き荒れる。


 ――マズい。これを食らったら、絶対に助からない!

 液状化……では駄目だ! アイシリアとミカリスが回避できない!!


「ジャストガード、発動!」


 僕は3枚のゴーレムのカードを使い、自分とアイシリア、ミカリスの前に透明な盾を呼び出す。

 一度だけ攻撃を完全に防ぐこの盾は、真っ黒な風のような斬撃を止めた後、割れたガラスのように散ってしまった。


「……なんとか乗り切った!」


「ほう、今の攻撃を防ぎきったのは魔王軍幹部以外にお前が初めてだ」


 とてつもない威力だ。見ただけで死を覚悟するような恐ろしさがあった。

 だが、あれほどの威力の攻撃をそう何度も発動できるはずがない。


「仕切り直しだな、オルドリッジ! 今度はこっちから行くぞ!」


「何を勘違いしている?」


 ……まさか。


「<黒明ダーク・マター>は単なる私の技に過ぎない。そしてこれから、もう一度同じ技を放つ」


 オルドリッジがさっきと同じ動作で刃を撫で始める。

 ……冗談だろ。単なるブラフであってくれ!


「<黒明ダーク・マター>」


 さっきの黒い風! ……違う、これは本当だ!


「ジャストガード!」


 再び盾を三枚針張り、攻撃を防ぐ。

 ゴーレムのカードを使えば防ぐことは可能。だけど、それは一時しのぎにしかならない!


「もう一度! <黒明ダーク・マター>!」


「……ジャストガード!」


 真っ黒な波が、僕たちを襲う。

 ここで、ゴーレムのカードは残り一枚になってしまった。

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