第42話 私にしかできないこと【SIDE:アイシリア】
「急いで! 時間がないの!」
メラニデールから出発して約40分。ようやく王都の南門が見えてきた。
大規模侵攻の時刻はとっくに過ぎている。門の周辺にはモンスターが跋扈しており、兵士たちが討伐に当たっていた。
「到着しました、アイシリア様、お気をつけて!」
私は御者にお礼を言うと、モンスターの群れに突っ込んでいく。
「下がってください! 火傷します!」
私は腰に携えていた剣を引き抜く。すると、刃を炎が包み、火の粉が散る。
「<烈火一閃>!!」
横なぎに払った斬撃は敵を焼き尽くし、真っ黒な灰にしていく。
「皆さん、怪我はありませんか!?」
「おおおおおおおお!! 炎の勇者様が来てくださったぞ!」
私が現れたことで、兵士たちがワッと活気づく。見たところ大きな怪我をしている人はいないようだ。
思ったよりも被害が少ないな……モンスターはあまり強くなかったの?
「キキキッ!」
その時、一匹のコウモリが私の周りを飛来した。
「なんでこんなところにジャイアントバットがいるの!?」
ジャイアントバットは暗い洞窟にしか生息しないはずなのに!
私がジャイアントバットを倒そうとすると――、
「待ってください! そのモンスターは倒しちゃダメなやつです!」
「ええっ、どういうこと?」
「足に布が巻かれているモンスターは、こっちの味方です! そいつらのおかげですごく助かってるんですよ!」
よく見ると、ジャイアントバットの足に青い布が巻かれている。
テイマーがいるってこと? でも、テイマーはモンスターに守られるために近くにいるはずなのに――、
「あなたがアイシリア!?」
その時、私の名前を呼ぶオレンジ色の髪をした少女がこちらへ走ってきた。
「そうだけど、あなたは?」
「アタシはフィーテ。レシオの仲間だよ」
そうか、この子がレシオの。どうやらモンスターを操っているのは彼女のようで、ジャイアントバットは彼女の肩に乗って甘えたような声を出す。
「そうなのね。……レシオは元気してる?」
「元気だよ。元気に頑張って、あなたに会いたがってる」
「……そう。でも、それは出来ないわ」
「なんで!? どうして会ってあげないの!?」
……何この子。いきなり説教のつもり?
「それは私が決めることだから。それに、最初に裏切ったのは私だから、会えるわけない」
「レシオは、謝りたいって言ってたよ!? あなたに謝るために、強くなって、戦ってるのに!」
「私はレシオの心を埋める道具じゃない! 勝手なこと言わないで!」
「でも……レシオを救えるのはあなただけなんだよ」
フィーテは泣いていた。私は彼女の泣き顔を見て、心が痛くなる。
「なんで……あなたが泣くのよ」
「私だって、あなたの代わりになれるならなりたいよ。でも、それは無理なの」
……この子、もしかしてレシオのこと――、
「レシオは過去と向き合ってる。あなたに会うために強くなろうとしてる。だから、行ってあげて! 中央の塔に向かってると思う!」
「……ああもう!」
気づけば、私は決河のごとく走り出していた。
さっきまでは、レシオに会うつもりなんてなかったのに。
いや、違う。私はずっと気づいていた。なのに、気づかないフリをしていた。
モンスターを倒す戦力も、勇者も、代わりなんていくらでもいるんだ。
でも、私の代わりは私しかいない。だから――レシオと会えるのは、この私だけだ。
行かなきゃ。行かなきゃ、絶対に後悔する!
「何考えてんのよ、私は……!」
私はアイシリア。アイシリア・シェバリエ。炎の勇者で、レシオの幼馴染で――、
彼のことが世界で一番好きな人間!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
塔の中の階段を使って屋上へ行くと、そこには二人の人物がいた。
一人はミカリス。戦闘でかなり疲弊したようで、床に倒れ込んでこちらを見ている。
そして、もう一人――黒い鎧に身を包んだ騎士。
きっと、この大規模侵攻の元凶は奴だ。
「――貴様か? この能力低下の魔法をかけたのは?」
「何の話? 私はあなたを倒しに来た炎の勇者、アイシリアよ!」
「そうか……二人目の勇者か」
黒鎧の騎士はやおら体を起こすと、剣の切っ先をこちらに向けてくる。
「あなた……かなり疲弊してるみたいね」
「大したことはない。お前を倒すには充分すぎるくらいだ」
刹那、男の体から殺意のようなオーラが放たれる。
その場にいるだけで何回も刺し殺されたような感覚……この男、ただ者じゃない!
「名乗るのがまだだったな。私は魔王軍幹部・オルドリッジ!」
剣を振り上げて迫ってくるオルドリッジ。私は剣に炎を灯し、彼の攻撃を防ぐ。
「気を付けて、シリー! その男に遠距離攻撃は効かない!」
「ありがとう、ミカ!」
剣を思い切り弾くと、私の体は後方に滑った。
――なんて力! これで弱体化してる方だって言うの!?
「とはいえ、さすがに堪えるな……これは、早々に終わらせるのがいいらしい!」
オルドリッジの迫力が増した。まさか、これは――、
「まさか、またパワーアップしたって言うの!?」
「肉体の限界を引き出せるのはお前だけだと思うなよ、風の勇者!」
とてつもない巨体から放たれる、強烈な斬撃。私は一瞬にして態勢を崩され、地面を転がった。
「やはり、お前ら人間は危険だ。お前ら二人を滅ぼしたら、残った三人も、街の人間も、全て殺す!」
「シリー、避けて!」
黒い剣が、影を私の顔に落とす。
「ごめんね、レシオ――」
私はそうつぶやいて、目を閉じた。
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