第38話 北門での攻防
大規模侵攻の開始から約30分。北門では、王国の兵士と有志の冒険者たちが迫り来るモンスターたちと戦いを繰り広げていた。
「オラッ! くたばりやがれ!」
レシオがリッチのカードを使ってから時間が経ち、モンスターのもかなり減りつつあった。
「大規模侵攻ってこんなもんか! 俺たちが出るまでもなかったんじゃねえか?」
「おいアルゼノ! 余計な口を叩くんじゃない!」
「いいだろ別に。このくらいのモンスターならCランク――いや、Dランクの冒険者でもなんとかなるはずだぜ」
そんな北門の守護に、一つの有名な冒険者パーティが携わっていた。
パーティの名前は『
リーダーは、真っ赤な鎧に身を包み、大剣を振り回す豪傑・アルゼノ。大規模侵攻においても、タンクでありながら傷一つ負わない無双ぶりだった。
そして、そんな彼を窘めるのはアーチャーのライリー。男でありながら長く伸びた緑色の髪は、薫風を思わせる。
最後に、魔法使いのマウリス。無口でありながら実力は確かで、後方支援の才能は抜群だった。
3人は大規模侵攻の話を聞き、その壮絶さにも腹をくくったうえで戦いに参加していた。
――が、いささかそれは見込み違いだったと感じてさえいた。
「こりゃ楽勝だったかもな。緊急クエストの報酬がたっぷり入るし、今日は豪勢に行こうぜ――っと!」
モンスターを投げ飛ばし、アルゼノは会心の笑みを浮かべる。
「だからお前は――と言いたいところだが、俺もおおむね同意だ。尻すぼみというのは感じる」
「――二人とも、前から何か来るぞ!」
手を休めて雑談を始めたその時、マウリスが叫んだ。
二人が前方を見ると――そこには一人の人物がいた。
「なんだ? あれ、モンスターか?」
門の向こう側から歩いてきているのは大男。全身を黒い鎧で覆っており、背丈は2メートルにも届きそうな勢いだ。
兵士の背丈ほどもある大剣は、太陽の光を浴びてぎらりと不気味に黒光りする。
「おい! アンタは味方か? それとも、敵か?」
アルゼノが男の前に立って問いかけると、黒鎧の男はその場に立ち止まり、一瞥をくれる。
巨漢のアルゼノと並んでも、見劣りしない巨体。独特な威圧感を放つ男は、数秒おいて静かに答えた。
「――敵だ」
「一応、会話は出来るっぽいな。お前はモンスターか?」
「魔族だ。私は魔王軍幹部、オルドリッジ」
魔王軍幹部、という言葉にアルゼノたちの表情が変わる。
ただ者ではない。言語化できない感覚でそう感じ取っていた三人だったが、目の前の男が強敵であることを再認識した。
「……で? 魔王軍の幹部がここに何の用だってんだ?」
「答える必要はない。用事があるのは勇者だ」
「……ああ、そうだよな。聞く必要なんてなかったな。お前はここで死ぬんだからなァ!」
咆哮した刹那。アルゼノは全身全霊の一撃をオルドリッジに向かって放つ。
ガキンという金属音が鳴り、アルゼノの大剣は確かにオルドリッジの頭を捉えた。
――が。
「この私が、なんだって?」
3人は絶句した。オルドリッジは自分の頭上に手を伸ばし、刃を受け止めていたのだから。
「馬鹿な――! 今の攻撃を、手で!?」
「狼狽えるな! まぐれに決まってる!」
アルゼノは自分を奮い立たせ、再び剣を振るう。
しかし――その連撃は、ことごとくオルドリッジの黒いガントレットに吸い込まれていく。
「そんなはずがねェ! たかが一人だぞ!? こんなに実力差があるはずがないんだ!」
「そうか、『上の世界』を見たことがないんだな」
その刹那、アルゼノは違和感に気づく。掴まれた剣を、上に投げ飛ばされたのだ。
「しまっ――」
剣を掴む腕が上がり、万歳をするような体勢になる。
剣を離せば、攻撃の手段を失う、剣を離さなければ、胴体ががら空きになる。
「では、これを機に上を見るといい」
次の瞬間、アルゼノの胴体にオルドリッジの拳がめり込む。
まるで板を割ったような激しい音が響き、アルゼノはもろに一撃を食らう。
アルゼノの巨体が、地面を転がった。
「「アルゼノ!」」
「どうだ、見えただろう? あの世への階段が」
ライリーとマウリスが構えを取る。標準を合わせた二人に対し、一方のオルドリッジは微動だにしない。
「やるのか? 今の惨状を見て、この私と?」
「ああ、こっちも冒険者だからな! 仲間をやられて黙ってられるかよ!」
「それに、お前はアルゼノと同じタンクと見た。遠距離から攻撃できる俺たちの方が有利だ」
「ほう、やってみるか?」
余裕な様子のオルドリッジ。その時、地面に倒れていたアルゼノがゆっくりと起き上がった。
「――今のは、効いたぜ……」
アルゼノの鎧は、腹部が卵の殻のように割れており、先の一撃の鮮烈さを物語る。
「まだ立ち上がるか。何がお前らを奮い立たせる?」
内臓は激しく損傷しており、あばら骨も折れている。常人であれば立ち上がることもままならないだろう。
しかし、アルゼノは立ち向かい、ライリーとマウリスはその場を退かない。
そんな彼らを突き動かすものは、たった一つ。
「「「冒険者の誇りだ!!」」」
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