第32話 首が6つ
「あのモンスター……首が3つある狼って、もしかして!」
「そんなことより、クリジオが危ない!」
モンスターとクリジオの間に割って入り、僕は彼の肩を支える。
「遅いんだよ……お前、フィーテに怪我なんかさせなかっただろうな?」
「そんなことは後でいいでしょ! それより、これはどういう状況ですか!?」
「10分ほど前……いきなりこのモンスターが街の中に入ってきたんだ。こいつの名前はケルベロス。Bランク以上の冒険者に割り当てられているモンスターだ」
Bランク以上――ってことは、リッチと同じ等級か!
「だったら、僕でもなんとかなるかもしれない! 下がってください、クリジオさん!」
「……残念だが、そんな甘い話じゃないぜ」
クリジオは、はあはあと荒く呼吸をしてケルベロスの背後を指した。
なんと――その先には、もう一体のケルベロスがいたのだ。
リッチと同等のモンスターが、2体!
「まさか、この2体を相手に、今まで粘ってたんですか!?」
「俺だけじゃない。街にいるCランク冒険者は総出で戦った。それでも――最後まで残ったのは俺だけだ」
クリジオは言い終えると、槍を杖に、ふらふらと立ち上がる。
「だが――お前が来て少しは楽になる。俺とお前で、一体ずつ相手するんだ」
「そんなことしたら、クリジオさんが……」
「うるせえ。どうせ勝算なんてないんだ、救援が来るまで俺たちで時間を稼ぐぞ。街を……フィーテを守るんだ!」
クリジオは覚悟をしたようで、再びケルベロスに立ち向かう姿勢を見せる。
しかし、クリジオは既に満身創痍だ。見ると、脇腹の辺りが血で真っ赤に染まっている。
クリジオは、どう見ても限界だ。
「……僕がやる」
「今、何か言ったか?」
「僕がこの2体を倒すって言ったんだ!」
今、まともに戦えるのは僕だけだ! 相手が何であろうと、僕が戦うしかない!
「馬鹿なことを言うな! 二体だぞ!? いくらお前でも勝てるわけない!」
「それでもやるしかないって言ってるんだ! クリジオさんは下がっててください!」
これ以上、クリジオに無茶をさせるわけにはいかない! 僕がやるんだ!
「黄金の輝き、発動!」
最初に取り出したのは、ゴールデンスライムのカード。まばゆい光に、ケルベロスたちの視界が奪われる。
相手の方が強いなら、先手を取ってペースを作り出すしかない!
このモンスター効果で、10秒間は相手は何も見えない! この隙に、出来るだけダメージを与える!
「コンボ発動! 毒手、クリティカルヒット! <ポイズンストライク>!!」
二体のケルベロスが視力を失ったことを確認し、僕はリッチを倒したコンボを放つ。
斬撃は確かに二体の顔面を切り裂き、ダメージを与える。中央の顔は目を潰され、目を開くことすらできないようだ。
「グルルォ!!」
ケルベロスは目が見えないながらも、むやみやたらに足を動かして僕を攻撃しようとする。
「2段ジャンプ、発動!」
迫り来る二体のケルベロスに、発動したのはキラーラビットのカード。
空中に飛び上がると、透明な足場が出来ているのがわかる。
僕は空気を思い切り踏みしめ、高く飛翔すると、一体のケルベロスの胴体に斬撃を食らわせた。
「グオオオオオオオ!!」
途端に響き渡るケルベロスの悲鳴。これはかなり手ごたえがある!
レベルが上がったから、一体ずつ相手をするだけなら余裕があるぞ! よし、このまま――、
「グアアア!!」
次の瞬間、僕は右腕をケルベロスに噛まれた。
攻撃していない方のケルベロス――! あてずっぽうでここまで的確に僕を捉えられるのか!!
――っていうか、このままだと腕を噛みちぎられる!!
「液状化、発動!」
腕を持っていかれる寸前、僕は咄嗟にスライムのカードを発動した。
液体になった僕の体はするりとケルベロスの牙の隙間を抜け、元の人間の姿に戻った。
今のは危なかった。
あと0.1秒でも発動が遅れていたら、腕をやられていただろう。
こいつら、思ったよりも強敵だ!!
「フィーテ、モンスターの指示を頼む!」
「わかった!」
ジャイアントバットやコボルトなどの非戦闘系の効果を持ったモンスターたちを召喚する。
街の中は、モンスターで溢れる大乱戦の場と変わっていく。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
それから僕たちは、数分間全力でぶつかり合った。
僕たちのコンビネーションは完璧だった。しかし、二体のケルベロスはそれをしのぐほどに強く、戦いは拮抗。
そしてついに、モンスターたちは底をつき、僕と二体のケルベロスだけが残された。
「嘘……あれだけのモンスターを全部倒しちゃうなんて!」
「だが、向こうもかなり疲弊している!」
ここまでのケルベロスとの戦いで、何度も体を嚙みちぎられそうになった。
全身の出血がひどく、意識が朦朧としている。もう――これは駄目かもな。
こうなったら、いざというときのために取っておいたリッチのカードを使うしか――!
「グオオオ……オオオオ……」
次の瞬間だった。二体のケルベロスがフラフラと揺れたかと思うと、地面に倒れ込んだ。
毒が回ったのだ。まるで、僕の祈りが通じたように。
「やった……勝った……ぞ……」
「レシオ! しっかりして!」
あれ? なんで僕、倒れてるんだ?
勝ったんだから、起き上がらなくちゃ。でも、もうそんな気力はないし、何より眠い――、
僕はそこで意識を失った。
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